第3話 佐藤と先輩
***
佐藤がおかしい。四日目となる病欠連絡のメッセージを送ってきた後、こう続けたのだ。
『実は、地図から追いかけられているんです。今はその地図が自宅の窓に貼り付いていて、外に出られないのです』
佐藤は半年前に中途採用された。同業他社からの転職らしい。私は彼女が嫌いだ。あまりにも覚えが悪い。頑張りを免罪符にしているように映る。新卒入社ならまだわかるが彼女はもう三十路で、社会人としては中堅の部類だ。少しきつく当たってしまうのは、真剣に指導をしている証拠だ。みな知っているのに、茶化す。
「いびりすぎて逃げられたか?」にやけ顔の同期が言う。
私の目元がぴくりと動いた。
「欠勤じゃないから」もごもごと言い返す。
そうなのだ。佐藤からはきちんと連絡が来る。最初の二日は電話で、それから後は、メッセージに変わった。すると地図がどうこうという怪文が送られてくるではないか。さすがに心配になって声を聞きたくなった。無機質なフォントやスタンプだけでは、彼女の本当の様子がわからない。
『その話、長くなるようなら、電話でも良いけど』
『電話は、アレに聞かれるので、メッセージの方が良いです』
「アレ」が「地図」であることを察する。
『家族に連絡は?』
『心配かけたくなくて』
家族には黙っておきながら私には言うのかよ。甘えている。たぶん私は仏頂面をしている。佐藤の印象、減点。ため息をつく。
『今日、家に寄っていい? お客さんの差し入れで、日もちしないものがあるから持って行きたい。もちろんあなたの様子も確認したいから』文字を打つ指は淡々と素早く動く。
『わかりました。住所送りますね』
送られてきたリンクを、地図アプリで開いた直後、
『気をつけて来てください』
そう念押しされた。
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