第30話 キスとか口移しくらいはOK

◆◆◆◆


 俺と千堂さん、そして灯里さんと夜空さんは元の席へと戻り、テーブルの上に料理を盛り付けた皿を置く。ゆっくりと席に座ると、千堂さんの友人の一人が割り箸の束をみんなの前に突き出す。


「7人で王様ゲームやろ~。」


 このメンバーで王様ゲームやるの!? マジで!?

 

 説明の必要もないと思うが、王様ゲームとは「王様」もしくは「番号」の書かれたクジを引き、王様になった人が特定の番号の人に命令することが出来るという、飲み会の定番ゲームである。


 ただ、男女比がこれほど極端な場合に行うゲームでは無い気がする。というのも同性同士では恥ずかしくないが、異性と行うと恥ずかしい行為などがある。勿論逆もあるが男女比がこれほど偏っている場合、王様になった際の命令が難しすぎる。


 俺は話を逸らそうと思い、俺が使っていた割り箸をみんなの前に出し「俺、割り箸で手品出来るんですよ~。」と言って手品を披露しようとした所、灯里さんになだめられた。


「これから王様ゲームなんだから、手品は終わった後にしましょうね。」


 驚いて灯里さんの顔を見るとほんのりと頬を染めている。他のメンバー見ても千堂さん以外は酔いが回っているように見えた。


 みんな盛り上がっており、王様ゲームをやらない選択肢は無さそうだ――。こうなれば――。盛り上がっているみんなに合わせて「ウェーイ」と声をあげた。


◆◆◆◆


「じゃあ追加ルールね。前の人が命令した内容よりも過激な事を命令すること。過激かどうかは、みんなで判断ね~。」


 割り箸の束を持っている女性が言い始める。正直俺は(なんてことを言いやがる……。)と思ったが、みんなも大盛りあがりだ。そこで、夜空さんが手を上げた。


「でもそれだと、最後の方があまりにも過激になりすぎるんじゃない? これは会社のイベントなんだから、青天井で過激な行為を行うのは流石にマズいわ。だから5回戦にしましょう。」


 みんな静かに夜空さんの話を聞いている。(良いぞ夜空さん。流石だ。)そんな事を考えていると夜空さんが更に話を続けた。


「ただ、短期決戦で終わらせるんだから、代わりに最終的にはちょっとくらい過激なことはOKにしましょう。例えば最終的には、キスとか口移しくらいならどうかしら?」


 それを聞いた瞬間、みんなの口から「キャー!」と歓声が上がる。俺もみんなに合わせて声を上げるが、内心では何とかなってくれと考えていた。


◆◆◆◆


 今回の王様ゲームの参加者は7人。運が良かったことが2つある。1つ目は男性が俺以外いないので、灯里さんや夜空さんが変な男性の毒牙にかかる心配は無いこと。そして2つ目は、人数が多く、しかも5回だけの短期決戦なので命令を受ける可能性が低いことだ。


 1開戦に付き2人が命令を受けるとして、”5/7”の確率で命令を受けずに済む。今回は5開戦行うので”5/7の5乗”――つまり20%弱の確率で1回も命令を受けることは無い。


 もし命令を受けるにしても1回~2回程度――ゲーム後半で指名されなければ、過激な命令を受ける必要は無いだろう。しかし問題があるとすれば――。


 みんな自分の前にある割り箸に手を伸ばして準備をする。

 

「「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」」


 俺は割り箸の先端を見た瞬間ガッツポーズをした。そして持っている割り箸をみんなの前に突き出しながら宣言した。


「王様は俺です。」


 心配していたこと。それは、1回戦目からいきなり過激な命令が出されること。


 例えば1回戦の王様が「〇番と△番がキスをする。」と命令した場合、以降の命令はキス以上――つまり、2回線以降は「何かを口移し」したり「ディープキスをする」など、本来であればゲーム後半に出てきそうな、過激な命令ばかりになりかねないのだ。その点、1回線目の王様は俺なのでその心配は消えた。


 それどころか、俺が命令を決められるので今回のゲームの方向性を示すことが出来る。1回戦目で俺がそこそこ温めの命令をすれば、「余り過激なことは後に回して、序盤はそれほどでも無い命令を出しましょうよ。」という意図が全員に伝わるだろう。


 今のところ、俺の想定できる最も良い流れだ。後はそんなに過激ではないけれど、みんなが納得する――1回戦目に相応しいレベルの命令を行えば良い。


 俺は少し考えて手を上げた。


「命令を決めました~。王様の命令は~?」

「「「「「「ぜった~い。」」」」」」

「2番の人が4番の人の肩を揉む。」


 みんなから歓声が上がる。


 今はみんな水着なので、普段は服の上からしか触れることの無い部位に触れなければならない。しかし、内容的には全然過激ではない。自分で言うのもどうかと思うが1回線には丁度良いレベルの命令だろう。


 2番は千堂さんの友人。4番は灯里さんだった。千堂さんの友人が灯里さんの肩に触れた瞬間、「キャー」と歓声が上がる。灯里さんはそんな声など気にしない様子で「あ”~、気持ち良いわ~。」と声を上げながら気持ちよさそうな表情を浮かべている。


 家に帰ったら俺も灯里さんの肩を揉んで上げよう。


 暫くしてからみんなの割り箸を集めて、今度は俺が割り箸の束を握る。


「「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」」

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