第28話 とっっっっっても楽しそうな事
◆◆◆◆
今日のイベントはホテルの2階に設置された室内プールで行われている。プール自体も大きいがプールサイドは更に広く、オシャレな軽食が並べられていた。軽食の置かれたテーブルの脇には各々で取り分けられるよう平皿とフォークが置かれ、ビュッフェ形式で食べるようになっている。
また、軽食のテーブルの隣には簡易的なバーカウンターがあり、バーテンダーがカクテルを作ってくれるようだ。
色々な料理が並べられておりどれも欲しくなってしまう。どの料理をどの程度盛り付けようか悩んでいると、隣に並んでいる女性に声を掛けられた。
「沢山の料理があって目移りしちゃいますよね~。」
唐突だったのでびっくりし、一瞬反応が遅れたが会話を合わせる。
「ええ、どれも美味しそうで迷っちゃいますよね~。」
「もし、私の近くにある料理で欲しいものがあれば言って下さいね。私がとってあげちゃいます。」
カチカチと手に持っているトングを鳴らしながら話す。
恐らく彼女は1年目~2年目くらいの社員だろう。大学にいても違和感の無い容姿だ。身長は大人の女性の平均身長くらい。フリル付きの黄色いビキニを身に着けており、華奢な体つきも相まって清楚で可愛らしく見える。彼女は濡れたミディアムヘアーから水を滴らせ、おっとりとした口調で話す。
「会社では見かけない顔ですね~。それにとっても若いんじゃないですか? もしかして、どなたかの付き添いで来られたんですか~?」
「ええ、その……九条社長の従兄弟です。」
夜空さんとは事前に口裏を合わせていた。
俺と夜空さん、そして灯里さんの関係を他人に説明することは難しい。しかも、夜空さんの息子だと知られた場合、必ず”相手は誰なのか”など、面倒な話になる。 それならば灯里さんと夜空さんは親戚という事になっているので、灯里さんの息子――つまり俺は夜空さんの従甥(じゅうせい)ということにしよう。となったのだ。
「ええ~! 九条社長の関係者だったんですか! 因みにお幾つですか?」
「18歳です。今年、大学一年です。」
「大学一年生ですか~。お若いですね。じゃあ、昨年の今頃は大変だったんじゃないですか?」
「ええ、ずっと机に向かっていましたよ。」
彼女と話している内に、いつの間にか彼女の友人らしき人達も集まっていた。
「なになに~? 逆ナンでもしているの~?」
「そんなんじゃないよ。この子、九条さんのご親戚の方なんだって。」
「ええ! マジで!」
女性同士で会話をしている内に撤退しようと、そそくさと料理を盛り付ける。皿の上の料理が十分になりトングを置くと、先程話していた黒髪の女性に手を握られた。
「私達の会社って女性ばっかりなんですよ。女性向けのブランドなんで当然なんですけどね。」
「そうなんですか。」
彼女はプールの方に目を向ける。俺も彼女につられてそちらを向いた。
「見て下さい。今日も女の子ばっかりで、男の人もちらほらいるんですけれど、みんな誰かの旦那さんだったり――男性社員もいるんですけれど彼女持ちだったりで……。」
確かに彼女が言う通り、ここにいる人は大半が女性だ。男性もちらほらいるが、必ず側にパートナーらしき女性を連れている。
「あっちで私達と、少しだけおしゃべりしませんか?」
ゾクリとして彼女の目を見るお、少し垂れ目気味な彼女の目の奥から強い意志のようなものを感じた。何と言うか「絶対に離さないから……。」的な何かを……。しかも、彼女の友人だと思われる女性達からも同じような視線を感じる。
俺はタジタジとしながら灯里さんに目線を送ると、灯里さんは頬を膨らませながらプイッと顔を反らせた。何と言うか「若い子が好きなんでしょ、好きにすれば。」って言われているようだ。
「いや……あの……」と、しどろもどろになっていると、彼女は「じゃあ、OKってことですよね。行きましょ。」といって俺の手を引っ張る。
その瞬間、俺の背中に柔らかくて温かい感触を感じた。振り向くと夜空さんがバックハグの状態で俺に抱きついていたのだ。
「貴女達、何、私の可愛い従甥に手を出そうとしているのかしら~?」
夜空さんは俺の背中に体重を掛けており、大きな胸がぐにゅりと潰れる感触が背中全体に広がる。
黒髪の女性は口を尖らせ、俺の手を引きながら話す。
「社長~。ズルいですよ~。彼のことを独り占めする気ですか~。」
「そんなこと無いわ。私も入れて貰おうかな~って思っただけよ。」
今度は、黒髪の女性が引っ張っている腕とは逆の腕に柔らかな感触を感じる。そちらを見ると、不自然なほどニコニコとした笑顔を浮かべた灯里さんが、俺の腕に抱きつき胸を押し当てていた。
「夜空さん、とっっっっっても楽しそうな事をしていますね。私も混ぜて貰って良いかしら~。」
こうして俺は、灯里さん、夜空さん、黒髪の女性とその友人達(×3人)の計6名の女性に連行される事となった……。
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