第27話 本当なんだな~って思って嬉しくなっちゃった。
◆◆◆◆
「大地~。どうかな~? おかしいところとか無い?」
先日、俺と一緒に映画へと行った時に買った水着を身に着けた灯里さんが、俺の元へと駆け寄って来てクルクルと回った。柔らかな栗毛色の髪と、鮮やかなパレオが灯里さんの動きに合わせて揺れる。上半身は白色のパーカーを羽織っているが、普段とは異なる彼女にドキリとしてしまった。
「とっても似合っているよ。」
「えへぇ~。ありがとう大地。」
灯里さんは背中で手を組み、腰をかがめて俺のことを覗き込む。そして「にへら~」と溶けるような笑顔を浮かべた。
「どうしたの? 灯里さん。」
「いや、本当に心から『似合っているよ。』って言ってくれたのか確かめていたの。でも、少し恥ずかしそうにしているから、本当なんだな~って思って嬉しくなっちゃった。」
「俺はお世辞は言わないよ。」
そう話す灯里さんから顔を逸らすと、後ろから声を掛けられた。
「灯里さん、大地くん、今日は楽しんでいって頂戴ね。」
声の主は夜空さんだ。夜空さんはシンプルな黒色のビキニの上から白色のパーカーを羽織っている。
恐らくサイズ的には丁度良い水着なのだろう。しかし、胸が大きすぎてビキニの大きさが小さく見えた。夜空さんが動くたびに、水着に隠されているにも関わらず、重力に逆らってしっかりと前へと主張している2つの山が上下に揺れる。
夜空さんは、腕を組みながらこちらをチラチラと見た。腕を組んでいるせいで間に作られた谷間が更に深くなり、空き缶を挟んだら見えなくなってしまいそうだ。いや確実に見えなくなり、その圧力で押しつぶされてしまうだろう。
俺はなるべく夜空さんの首から下を見ず、夜空さんの瞳を見ることだけに集中しながら話す。
「夜空さんもメッチャ似合っていますね。」
夜空さんはどこか ホッとした表情を浮かべ俺の二の腕をポンポンと叩く。
「大地くんも似合っているわよ。それに中々良い身体をしているじゃない。もっと華奢なんだと思っていたわ。」
「学内にジムが合って、時々使わせてもらっているんですよ。」
実は受験が終わった頃、俺の腹はぷっくらと膨らんでいたのだ。
部活をしていた頃は良かったのだが、引退してからは受験勉強に専念していたため一日中机へと向かっていた。しかも灯里さんの手料理は美味しく、ついつい食べすぎてしまう。その結果、受験が終わった頃には過去最高体重を更新していた。入学式までには何とか標準体型に戻そうと努力をしたのだが、この体型に戻るまで少し時期が過ぎてしまい……今、ようやく普通の体型へと戻ったところだ。
水着になるまでに標準体型に戻ってよかった。
別に俺一人であればどんな体型であろうと問題は無い。しかし、灯里さんや夜空さんと並んだ時に、まるまると太った姿をしていては彼女達に申し訳ないような気がしてしまうのだ。
「学内にジムがあるなんて素敵ね~。ちなみに私もパーソナルのヨガとピラティスをやっているわ。そうだ、灯里さんも今度一緒にどうかしら?」
「え! 私、ヨガに興味があったんです。でも、やる機会がなくて――是非、ご一緒したいです!」
灯里さんは目を輝かせて夜空さんの手を握る。夜空さんも乗り気だ。
基本的に灯里さんは身体を動かすことが好きだ。執筆中にアイディアが浮かばない時はふらっと散歩に出る事があるし、家の中では時々、付属のリング状のコントローラーを使って身体を動かすゲームをしている。俺もそのゲームに付き合わされて2人で汗だくのクタクタになったこともあった。
灯里さんと夜空さんはどうやら、いつヨガに行くか話し合っているようだ。そんな姿を眺めていると、2人が示し合わせたかの様にこちらを見る。
「大地くんも一緒にやるわよね。」
「大地も来るでしょ?」
灯里さんと夜空さん……そして、夜空さんことだからインストラクターも女性だろう。女性3人に囲まれてトレーニングなんてあまりにも気まずい……。
「俺は遠慮していきます。女性2人で気ままに楽しんで来て下さい。」
灯里さんと夜空さんはわざとらしく大きな溜息を吐く。
「大地くんが来てくれないんじゃあ、辞めましょうか灯里さん……。」
「そうねぇ。大地が来ないんだったら私も諦めるわ……。」
2人共、こちらをチラチラと見てくる。そんなのズルいだろ……。
「……ご一緒します。」
俺が了承した瞬間、灯里さんと夜空さんは顔を見合わせてハイタッチをした。
◆◆◆◆
夜空さんがみんなの前に出てマイクを持つ。もう一方の手には、もう一つの夜空のようにパチパチと輝くシャンパンで満たされた、細いシャンパングラスを持っている。
普段の凛々しくもどこか可愛らしい夜空さんではなく、凛とした表情を浮かべ社員を鼓舞する言葉を述べる彼女を見て、改めて一つの会社をまとめ上げる代表なのだと実感した。
俺が夜空さんと出会ってから、まだ1月と少ししか経っていない。そのため、夜空さんについて知らないことが山ほどある。俺の知らない夜空さんを新しく見ることが出来た気がして胸の奥がドキドキとした。
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