間踊2 あの日の輝きはどこへ

何で秋渡は平穏な日々を望むのだろうかと私、高塚咲乃は昔の記憶を思い出しながら考えていた。


小さい頃、片桐秋渡という男の子が私の世界の中心にいた。


家が近かったこともあり、毎日のように一緒に遊んでいた彼は、明るくて優しくて、どんなときも周りを笑顔にする太陽のような存在だった。


秋渡みたいな太陽になりたい


幼い私はそう思っていた。


それが憧れや恋心だとはまだはっきりわかっていなかった。


ただ、彼のようにみんなを照らす人になりたいと願っていた。


でも、その願いは叶わなかった。


小学校に上がる直前、秋渡は引っ越してしまった。


それ以来、彼のように振る舞おうとした私の努力は空回りしていた。


周りから距離を置かれるようになって、気づいたんだ。


私は太陽にはなれない。


私は、ただ太陽に照らされる月だということに。


私はあの頃の秋渡をずっと心の中に抱えたまま、高校まで来た。


そして、高校の入学式の日に彼と再会した。


クラス分けの掲示板で「片桐秋渡」という名前を見たとき、胸が高鳴るのを止められなかった。


教室で彼を見つけた瞬間、もっとドキドキした。少し背が伸びて、昔よりも落ち着いた雰囲気になっていたけど、それでも私の中の秋渡そのものだった。


けれど、彼は私のことを覚えていなかった。


その現実に悔しくなって、初対面のふりをした。


そして今、彼は宮本いづみという女の子と楽しそうに話している。


いづみさんはまるで太陽みたいだ。


みんなの中心にいて、明るく、周りを照らしている。


でも、それを見ている秋渡は、昔のような輝きを失っているように見えた。


どうして?秋渡。あなたの光はどこに行ったの?


太陽であるべきあなたが、誰かに照らされているなんて。


昼休み、私はこっそり秋渡の後をつけた。


彼が1人で中庭に向かうのを見て、私は何食わぬ顔で後を追った。


そして、藤の花が揺れるテラス席で、向いの席に座る。


私は何食わぬ顔でお弁当箱を開いた。


しばらく無言のまま食事をしていたけれど、秋渡が話しかけてきた。


「高塚さん、部活、どんなのが気になる?」


私は一瞬だけ彼を見て、また視線を前に戻した。


「別に、特に興味があるわけじゃないけど…運動するなら体育館の方が日に焼けなくてよさそうね。」


「そっか、なるほどね。」


秋渡は少しホッとしたように笑った。


でもまた沈黙が訪れそうだったので、彼は続けて話を振った。


「体育館は、バスケ部、バレー部、ダンス部だね。ダンスは踊れたことないなぁ。いつも見ててすごいなと思うけど。」


私はふっと息をついて、軽く答えた。


「そうね、ダンスはまあ…見てて楽しいけど、やるのは結構大変だから。」


「大変そうだよな…僕にはちょっとできそうにないけど。」


弱気な彼の発言に私は思わずらしくないことを言ってしまった。


「できないって言う前に、やってみればいいじゃん。」


その言葉に彼は少し驚いたようで、顔を上げた。


「やってみろ、か…そっか、じゃあ、見学してみるよ。」


「そう。別にやりたくないなら、見てればいいだけだから。」


どうして私は素直になれないのだろう。


再び沈黙が流れる。


だけど、この沈黙はそれほど居心地の悪いものではなかった。


「よかったら、一緒に見学に行かないか?」


そう言う秋渡に、私は軽くため息をついて答えた。


「何を言ってるの?最初から行くことになってるけど。」


驚いたような彼の顔を見ながら、私は少しだけ微笑んだ。


秋渡、私はあなたを取り戻したい。昔のように輝く太陽のあなたを。


そのためなら、どんなことだってする覚悟はできている。

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