第2踊 天使のホームルーム 天使みか
入学式を終えた僕たちは一度教室へ戻り、ホームルームが始まった。
さっきの微笑みはいったいなんだったんだ……
あの明るい髪色の子が僕を見ていたのは間違いない。微笑みも――。
いやいや、さすがにそれは自意識過剰か?
けれど、あの笑顔にはどこか人を惹きつける力があった。それが忘れられない。
「次は、片……」
あれがもし僕に向けられていたものだとしたら……いやいや、ないない
「おーい、片桐くーん」
でも、あの笑顔で名前を呼ばれたら……って、ん?
「戻っておいでー、片桐くーん!」
「あ、え、はい。ただいま?」
我に返ると、教室がどっと沸いた。
どうやら天使先生の呼びかけに気づかず、ぼんやりしていたらしい。
「おかえりー、片桐くん。次は君の順番だから、前に来て自己紹介をしてもらえるかな?」
「わかりました。」
入学式を終えたばかりの新入生に訪れる最初の試練――それは自己紹介だ。
高校生活のスタートを決める重要イベントと言ってもいいだろう。
目立つのは嫌いだけど、平穏に暮らすためには目立ちすぎないちょうどいい自己紹介をしなくちゃ。
教壇に立ち、僕は深呼吸してから口を開いた。
「片桐秋渡です。中学ではソフトテニスをしていました。よろしくお願いします。」
無難。これでいい。
そう思って教壇を降りようとしたその時、天使先生に止められた。
「片桐くん、誕生日と趣味もだよ。黒板に書いてあるでしょ?」
黒板を見ると確かに「誕生日」と「趣味」という項目があった。
マジかよ……言いたくないけど、ここで言わないと余計に目立つよな
「誕生日は4月9日です。趣味は読書です。」
誕生日を聞いた天使先生の顔がぱっと明るくなった。
「えっ、今日が誕生日なんだ!それじゃあ、みんなでお祝いしよう!ハッピーバースデートゥーユー♪」
……歌い始めた。天使先生が。しかも全力で。
「ほらほら、みんなも一緒に!」
その天使の微笑みに逆らえる人間がいるわけもなく、クラス全員が歌い出した。
「ハッピーバースデートゥーユー♪お誕生日おめでとう!」
「……あ、ありがとうございます。」
目立ちたくないという願いは、粉々に打ち砕かれた。
そそくさと席に戻ると、ニヤニヤした顔のヒロキングが話しかけてくる。
「おめでとう、片桐。本日の主役だな。」
「うるせぇ。僕は脇役で十分だ。」
自己紹介タイムが終わると、次は委員会決めだ。
とはいえ、藤樹高校では事前に先生が候補を決めているらしい。
「放送委員は、片桐くんと高塚さんです。」
――直撃した。しかも、絶対にやりたくないやつに。
「先生、それはちょっと――」
抗議しようとしたが、天使先生の微笑みに止められる。
(うん、許す。むしろ選んでくれてありがとうございます。)
ちなみにヒロキングは学級委員に選ばれていた。やっぱり王様だな。
「学級委員めんどくさいなぁ。片桐、お前代わりにやらないか?」
「いや、放送委員あるし。それに目立つのなんて絶対にごめんだ。」
放送委員会は視聴覚室で行われるらしい。
帰り支度をして向かうと、中から楽しそうな声が聞こえてきた。
扉を開けると、そこには入学式で僕に微笑んできたあの女の子が。
明るい髪色の彼女は、にこにこしながら談笑していた。
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