第1踊 太陽のような女の子 宮本いづみ
桜の花びらがひらひらと舞い落ちる。
誰もが「出会いの季節」なんて言うけれど、それを実感するのは今日みたいな日だ。
4月9日。入学式だ。
校門の前には「藤樹高校」の看板。
地元では進学校として知られているその前で、在校生らしき人たちが笑顔で新入生を案内している。
「あ、新入生ですね!ご入学おめでとうございます。お名前を教えてください。」
「片桐秋渡です。」
「片桐くんですね!クラスは……1年2組です。教室まで案内しますね〜。」
柔らかい声に促され、僕は新しい校舎の中へ足を踏み入れた。
藤樹高校には旧棟と新棟がある。
僕たち普通科の1年生は旧棟を使い、2年生から新棟へ移るらしい。
勉学に集中させるためなんて説明を聞いたが、正直なところそんなに違うのか?と思うばかりだ。
そう考えているうちに、案内してくれた先輩が立ち止まった。
「ここが2組の教室だよ。それじゃ、頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
一礼して扉を開けると、視線を感じた。
けれど、それは一瞬。
すぐにみんな目をそらしてしまった。
緊張感が漂う教室には、早くもグループを作っている生徒がちらほら。
中学時代からの友達だろう。
黒板に書かれた座席表を確認し、自分の席に向かう。すると、左隣から声が聞こえた。
「おはよう片桐、同じクラスになるとは奇遇だね。」
聞き慣れた声がした。
「おはようヒロキング。腐れ縁ってやつだな。」
こいつの名前は新谷ひろき、通称ヒロキング。
昔からの親友であり、幼馴染。茶髪のイケメンで、クラスの王様気取りだ。
幼馴染なら、せめて可愛い女の子が良かった。
「片桐と一緒のクラスになれてよかったよ」
そう言いながら、ヒロキングは女子たちの視線が集まっていることを悟り手を振った。
教室内から黄色い声援が飛び交う。
許すまじ。
「ヒロキング、僕は目立ちたくないんだ。手当たり次第にちょっかいをかけるなよ。」
「王様として声援に答えるのは当然だろ?」
何が当然だよ。
けれど、どこか納得してしまう自分が悔しい。
チャイムが鳴ると、教室は静まり返った。
扉が開き、カツカツとヒールの音が響く。
入ってきたのは、金髪のショートボブヘアに色白の肌が眩しい女性だった。
「私が今日から君たち、1年2組の担任になる天使みかです。教師としてはまだまだだけど、よろしくね!」
天使のような笑顔。いや、これ本当に天使じゃないか?
「天使が舞い降りた!」とどこかから声が上がるのも当然だと思えた。
僕は何も言えず見つめるだけだったけれど、隣のヒロキングが大きくうなずいている。
いや、うんうんってなんだよ。
入学式の会場は体育館だ。
1組から5組までの1年生が並ぶ中、僕たち2組は1組の隣に整列する。
1組の方から聞こえてきた笑い声に気づいて視線を向けた。すると目が合った。
明るい髪色の女の子がこちらを見て微笑んでいた。
その笑顔は、まるで太陽のようだった。
春の陽だまりみたいに柔らかくて、けれど何か底知れない力を感じさせた。
「いづみちゃん、急に微笑んでどうしたの?」
「なんでもないよ〜♪」
これが後に僕を手のひらで踊らせる彼女との最初の出会いだった。
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