第3踊 からかい上手の宮本さん


彼女の笑顔が周囲に伝播しているのか、談笑している周りの人達も楽しうな笑顔を浮かべていた。


まるで太陽みたいに笑う人だなと思った。


でもそれと同時に少し心配になった。


そんなに周囲にエネルギーをばらまいてたら疲れちゃいそうだな


明るい髪色と素敵な笑顔で太陽を彷彿とさせる彼女だが、月の光を宿したような色白な肌とあいまってどこか壊れそうな儚さを併せ持っているみたいに感じた。


まるで自分には陽の光が届かないことを表しているみたいだ。


まあ、見ず知らずの男に心配されることじゃないよな


僕はそう思いつつ彼女を見ると、彼女も視線に気がついたのか目が合った。


「ヤバっ」


僕は慌てて目を逸らした。


チラリともう一度彼女の方を見てみると彼女は近づいてきていた。


「あなたも1年生ですよね?私は1年1組の宮本いづみです。」


藤樹高校では学年によって上履きの色が事なる。


1年生は青、2年生は黄色、3年生は緑だ。


おそらく上履きの色で判断したのだろう。


だが、突然話しかけられたことで僕はテンパってしまった。


「え、あっ、カタギリデス」


言ってしまった後に後悔した。

なんだよカタギリデスって。

なんでカタコトになってんだよ。

外国人かよ。


僕が慌てているのが伝わってしまったのか分からないが、彼女はクスクスと笑っていた。


「なんでカタコトなの〜。君って面白いね!

えーっと、片桐くん?であってるかな?それともカタギリデスかな?」


と軽く僕のモノマネを交えながら肘で小突いてきた。


小突かれた拍子に彼女から甘い魅惑的な香りが漂い、心臓の鼓動がはやまったのを感じた。


だがそれのおかげでいつもの調子を取り戻すことに成功した。


「いや、片桐です。1年2組の片桐秋渡です。」


あぶない。

また不用意に目立ってしまうところだった。僕は平穏な日々を過ごしたいだけなんだ。


すると彼女は笑うのをやめ、太陽のように微笑みながら手を差し出してきた。


「じゃあ、よろしくね!片桐くん。」


宮本さんの華奢な手に触れていいのか?いや、これは握手だ。あいさつだ。やるんだ僕!


「ああ、よろしく宮本さん。」


僕は内心ドキドキしながら握手をしようと手を伸ばした。

仕方がないだろ。ヒロキングみたいに女子に耐性がないんだ。


すると手をひっこめられた。


「いきなり女の子の手を握ろうとするのはどうかと思うよー?」


そこには先程までの太陽のような微笑みはなく、新しいおもちゃを見つけた子供のようないじらしい笑顔を浮かべた宮本さんがいた。


それと同時に先生が到着し、委員会が始まった。


いや、どうしろっちゅーねん。

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