◆4
侯爵から、今まで預かってもらっていたものを返してもらい、晴れて俺は公爵家当主としての責務を全うするための第一歩を踏み出したわけだ。
俺の目的は、とりあえず平和な日常を手に入れる事。そのためには、まず俺の酷すぎる地に落ちた評判を戻す事が先決だ。
公爵家当主となってしまった為やる事はやらねばならないが、といっても俺には初めての事ばかり。そのため余計なことは取っ払ってしまわないと面倒ごとに直面しかねない。それは一番避けなきゃならない。
ダンテ本人はちゃんと教育は受けていたが、これまでそういった領地管理などには一切手を付けなかった。それに中身はただの成人し会社勤めをしていた日本人。そのため仕事面では不安はいくつもある。文字は読めるし書けるが、帳簿や書類に目を通しても理解出来るだろうか。そんな不安を持っていたのだが……
「へぇ、こんなもんか」
「ルアニスト侯爵は、8年間ブルフォード公爵領を管理なさっていましたからね」
両親達が亡くなったのは今から8年前。それからずっと代理人として勤めてきた。
8年間、毎年国に領地などの現状報告を記載した書類を提出しなくてはならないため、ズルは出来ないとちゃんとしていたようだ。
横領に関する事は、行うたびにもみ消したようだから書いていない。とはいえ、俺はその件に関しては目をつぶるつもりであるから必要ない。
「よろしく頼むよ、カーチェス」
「はい、かしこまりました」
俺がおっかなびっくりやるより、執事として今まで先代を支えてきた経験者に教えてもらった方が一番いい。まぁ、しばらくはカーチェスにおんぶに抱っこになるがな。
「さすがですね、ダンテ様」
「先生の教え方がいいんだろう」
「そう言っていただき光栄です」
とはいえ、俺が憑依したダンテも優秀だ。本も読んでいたから知識も豊富。勿体無いやつだなと絶賛呆れている最中だ。
まぁ、これで当分は安心だな。
「……それで、公爵様。今夜はいかがなさいますか」
「……」
その言葉の意味は、ダンテの記憶を見た俺はよく知っている。
俺が憑依して2日も爆睡し、今日は侯爵家に実権を取り戻しに行った。そして、その夜。カーチェスからこのタイミングでその言葉を聞いた。
それは、どういう事か。
「疲れたからこのまま寝る。湯浴みの準備をしてくれ」
「っ!? かしこまりました……!」
その返答を聞いたカーチェスは、驚愕していた。それもそうだ、ダンテは毎夜毎夜出かけていたのだから。
その行き先は……ギャンブル場だ。まぁ、ハマっていたというわけではないが……暇つぶしでギャンブル場に行っていたのだ。
とはいえ、こいつは才能に溢れた逸材である為全勝無敗を貫いていた。負け知らずではつまらないと思うだろうが……楽しんでいたのはそこじゃない。
ダンテはこの国一の皇族の血を受け継いだ公爵家の当主。もしギャンブルをしていることがバレたら一大事だ。もうすでに評判は地に落ちている為これ以上は由緒正しいブルフォード家にヒビが入る事だろう。
そのため身分を隠し、スリルを味わって楽しんでいた、といったところか。この事実を知っているのはカーチェス一人だけ。馬車だってカーチェスが用意して引いていた。
ダンテは、カーチェスがこの事実を口外する、という可能性は全く考えていなかった。彼は決して言わないと確信していたのだ。
彼はこの由緒正しく歴史の深いブルフォード家を一番に考えている。この家の執事として働けていることを誇りに思っているのだ。だからこそ、この家が大打撃を受ける事は決してあってはならないと思っている。それをダンテはよく分かっていた。
……クソ野郎だな、全く。カーチェスの立派な誇りを利用するとはな。一発殴りたい気分だ。……俺が憑依しているから、俺が殴れば自分が痛いだけだが。
「……はぁぁぁぁぁぁぁ……」
「いかがなさいました? 公爵様」
「……いや、何でもない。カーチェス、長生きしてくれよ?」
「は、はい……老いぼれではありますが、動ける限り、誠心誠意ダンテ様にお仕えする事をお約束いたします」
「あぁ、よろしく頼むよ先生」
とりあえず、カーチェスには優しくしておこう。俺、カーチェスがいないと何にも出来ない事は丸分かりだからな。
「……あぁ、明日の午後に理容師とブティックを呼んでおいてくれ」
「……え?」
そんな俺の発言に、カーチェスはだいぶ驚愕しているようだ。まぁそうだろうな。散髪なんて、他人に触れられるのが嫌いなダンテは絶対に呼ばない。この長髪がその証拠だ。
そして、服は全てカーチェスに一任している。そもそも、ダンテは興味がなく放ったらかしにしていた為仕方なくカーチェスが代わりに用意している、が正解だ。
俺としては、早くこのうっとおしい髪と、真っ黒な服をどうにかしたい。早急に。どよーんという効果音が聞こえてきそうだ。
動き出す前に、まずは身なりを整えないとな。生活しづらいまま放っておくのは絶対に無理だ。
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