2/4話

 次の月曜日の朝だった。席に座るとすぐに佐倉さんが、


「新開さん! 見て見て見て!!!」

「おはよう。どうしたの?」

「みて! これ! ほら!」


 佐倉さんが出すスマホ画面、そこにはEasyPhotoのタイムライン。


「……佐倉さんの投稿?」

「そう! めっちゃバズった! ヤバいって! いいねが10万とかマジヤバいって! フォロワーも5万人超えて今も増えてるんだよ!」

「これって確か……」


 昨日のことだ。

 日曜日、都内の某所で大規模な玉突き事故が発生したのだ。ニュースにもなっていて、そこで流れた事故瞬間の映像と同じ動画が、佐倉さんのスマホに映っていた。


「ほんっとうに偶然なんだ。お母さんとショッピングモールに行ってさ、お母さんは『晩御飯のおかず買ってくる』って別行動になって。それでヒマだったから六階の窓から外を眺めてたんだ。なんか空が綺麗だったから動画撮ろうってスマホ出して。それでほんとになんとなくだよ? 下に向けたら事故があって!!」


 早口でまくし立てる佐倉さんは、増え続けるいいねと閲覧数の画面をこちらの向け、


「すごいでしょー! まさかフォロワー数十の私がこんなことになるなんて!」

「びっくりしたよ」

「でしょでしょ! ニュースでも動画使わせてくださいってDM来てさ。そのことも投稿したらそれもバズってさ!」


 テンションが爆上がりの佐倉さんが「これも、これも……前に乗せた写真も全部いっぱいいいねが付いたんだ! もうめっちゃ気持ちよくて!」とはしゃいでいる。

 すると、一人のクラスメイトが佐倉さんに声をかけた。


「おはよう。佐倉さん」

「篠沢さん?」


 声の主は篠沢美佳しのさわみかさんだった。


「投稿見たわ。すごわね。フォロワーも私と同じで5万人になったみたいじゃない」

「え!? 美佳さんも見てくれたの?」

「もちろんよ。よかったら相互しない?」


 絶交した松崎あや子さんは今日になっても登校していない。幼稚園からの付き合いといえば幼馴染も同然のはず。だけど篠沢さんの興味はすでに佐倉さんのフォロワーに向いている。


「いいの!?」

「ええ、私も佐倉さんのセンスを勉強したいわ」

「でも私のは偶然で」

「それも実力のうちよ。お互いタイムラインを見れば、どうしたらバズるかもわかるじゃない? それにEasy Photoは相互フォロワーの質も大切。佐倉さんにとっても悪い話じゃないと思うわ」

「やった! 篠沢さんありがとう」

「美佳でいいわよ」

「じゃあ私も。朱音あかねでいいわ」

 

 その日から美佳と佐倉さんはすごく仲がよくなって、佐倉さんの投稿はコンスタントに数字を叩き出していった。

 あっという間にフォロワーは10万人を超え、別の媒体でも『今大人気女子高生』と持て囃され、佐倉さんの投稿は色んなところで紹介した。

 Easy Photoのプロフィール欄には『成功の秘訣』と題された優良外部リンクも設置され、佐倉さんのタイムラインには広告案件の動画がぎゅうぎゅうに詰まっている。

 佐倉さんは成功したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る