第26話 アルの帰路

 ◆◆◆



 あれから10日ほど経っただろうか?



 オレの旅は行きと比べても十分に順調であるといえた。



 まず移動に関してだが、基本的にずっと走っている。帰らずの森での特訓によって基礎体力が上がったというのもあるが、やはり魔術の影響が大きいだろう。



 身体強化魔術で移動速度は上がり、治癒魔術によって体力を回復する、それだけでここまでオレ1人で移動距離が稼げるとはな…これに関しては公開はやめとくか…?



 実は行きの時点で金銭は使い切っていたので、北方向行きの馬車に乗れなかったのだ。だが現状然程さほど問題はない。いや…むしろ都合がいいかもしれない。



 馬車も人がいっぱい乗っていると狭くて不快だからな…揺れてケツも痛くなるし…馬車に頼らず移動できることはオレの精神衛生的にも役立っている。



 そうは言っても、オレの体力と魔力は無尽蔵ではないし休憩はまあまあな頻度で挟んでいるので、トータルで見ても行きと比較して移動距離が伸びているというわけではない。



 ニルヴァニアに着くのは当初の予定からそこまで縮まることもないので、焦らずに着実に進むことを心掛けよう。



 おっと、前の方に商隊のような馬車列がいるな。しかも…なんか盗賊のような集団に囲まれている…?うわぁ…これ助けないとダメだよなぁ…あまりトラブルに巻き込まれるのはなぁ…



 そんなことを考えつつも走り続けているので、前方の一団は当然オレの存在に気付く。めっちゃ驚いているなぁ…まあ、こんな平原のど真ん中で走っているヤツがいればヤバいと思うかもな…



 そして追いついてしまった。まだ商隊と盗賊は衝突しておらず、睨み合っている状態であった。奇跡的なタイミングで居合わせてしまったな。

 


 「チッ…奇妙なガキだな。殺せっ…」



 盗賊の中の1人がそう言って、オレの方に向けて2人の盗賊をけしかける。クソッ!こうなったら反撃しないわけにはいかないな…!



 オレは肩に担いだ宝剣を鞘をつけたまま両手で正面に構える。ちなみに肩に担いでいたのは、腰に差した状態だと走るときにプラプラして邪魔だからだ。



 「はあ?なんでコイツ鞘つけたまんまなんだ?」



 「剣の使い方も知らねぇアホなんだろ?さっさと殺すぞ…」



 そう言って2人でオレを囲む。どうやらさっきの盗賊の言葉を合図に商隊と盗賊たちが衝突し始めたようだ。商隊の方にも護衛のような冒険者がいるので、ひとまず大丈夫そうだ。



 盗賊の方が数は多いので油断はできないが…



 「オラッ!死ねっ!」



 オレの左手側にいた盗賊が剣を高く振り上げ、切り掛かってきた。



 オレはそれを宝剣で受け止めてから後方に誘うように、盗賊の体ごと攻撃を受け流した。



 切り掛かってきた盗賊と右手側にいた盗賊とが向かい合うような形になり、相手は一瞬混乱したようだ。



 そして今切り掛かってきた盗賊の背後にいるオレが無防備な後頭部に向けて宝剣を…



 ゴンッ!!!



 「うぐぅあっ…!!」バタリ



 上段の構えから一気に振り下ろし、一瞬で気絶させた。



 面白いほど上手くいったな…



 魔物との戦いの経験がまさか盗賊相手に役に立つとは…



 ちなみにだが鞘をつけたままの理由だが…この宝剣の剣身が非常に目立つからだ。金色に輝く剣身を振り回してたら、なんか悪い意味で目立ちそうじゃん…?



 それに、別に鞘がついた状態でも強いのだ。この宝剣は不思議とオレの体に馴染み、振り回しやすくも一撃は重たい、そんな不思議な特性を持っている。流石、ノヴァス様の素材を使っているだけのことはあるな…



 「なっ!?コイツッ!?」



 オレの右手側にいた盗賊が距離を取って警戒を強めた。



 正直さっきのは相手が油断してくれていたから、たまたま上手くいっただけだろう。オレがあの森で学んだのはあくまで生き延びるためのすべだ。こう真正面から人間と対峙するのは流石に盗賊側の方が慣れているはずだ…どうするべきか…



 「よくも仲間をやってくれたな…下手に首を突っ込んだこと後悔させてやrブフオヮァッ!!」ドサッ



 「おおっ!よく持ちこたえたなっ!後はおれらに任せろっ!残り片付けるぞっ!」



 「「「「おおっ!!」」」」



 オレと対峙していた盗賊は横からやってきた商隊の護衛冒険者の一撃で吹き飛ばされた。そして、その冒険者はオレを激励し、さっさと残りの盗賊の対処に行ってしまった。あれ…強くね…?これ無視してもよかった感じ?



 周りを見ると既にほぼ全ての盗賊の制圧が完了している。数人の護衛冒険者が残党狩りに遠くまで行っているが、決着はついたみたいだ。



 少しは強くなったつもりだったが、やはり歴戦のベテラン冒険者は一味違うなぁ…



 ◇◇◇



 「お前のおかげで隙をつけたから、こっちの被害も軽微で済んだぜっ!礼を言うぜっ!坊主っ!」



 先程オレと対峙していた盗賊を吹き飛ばしたオッサンが、残党狩りを終えてオレに話しかけてきた。

その手にはオレを始末するよう命令した盗賊が泡を吹いた状態で首根っこを掴まれて運ばれていた。コイツが首領っぽいな…



 他の護衛や商隊の人たちは積荷などの確認をしているようだ。



 「いやぁ…余計に手出しした感じになって申し訳ないです…」



 実際オレがいなくてもなんの問題もなかった気がする。



 このオッサンはスキンヘッドに黒のモジャ髭、ゴリゴリの筋肉マッチョで持ち手がついたまるで柱みたいな鉄の棒を肩に担いでいた。肌の色はオレと比べてもかなり濃く、身体中には多くの傷の跡がついている。他の連中も似たような見た目をしている。本当はこっちが盗賊なんじゃねぇの…?



 「あぁん!?感謝してるって言ってんだろっ!素直に受け取りやがれっ!んで?お前こんなところで何してたんだ?」



 なんでキレてんだよ…見た目も相まって恐いって…



 「えっと、実はニルヴァニアを目指していて…」

 


 「おっ!まじかっ!この商隊はニルヴァニア行きだぜっ!なんなら一緒に行くかっ?」



 お!そいつは都合がいい。



 「是非お願いします!」



 「おうっ!おれの名はガスだっ!冒険者ランクは3等級冒険者だっ!よろしくなっ!」



 その胸元には確かに銅色の石のついたペンダントがあった。3等級冒険者かよ…どおりで強いわけだな。



 「オレはアルです。冒険者ランクは7等級冒険者で…これ冒険証石です。」



 「はぁっ!?7等級冒険者とか嘘ついてんじゃねぇぞっ!…って冒険証石は本物だな…」



 今のオレは上級冒険者の目から見ても最下級冒険者には見えないみたいだ。嬉しいけどいちいち疑われると思うと今後が面倒かもな…早くランクを上げてしまいたいな。



 「まあいいかっ!おっ、向こうも準備ができたみたいだっ!おれらも行くかっ!」



 そう言ってガスさんが商隊の方に向かっていったので、オレもその後に続いた。



 ◇◇◇



 商隊と共にニルヴァニアを目指して進んでいた。



 他の護衛や商人たちもオレをあっさり受け入れてくれたので、今は護衛の冒険者用の馬車のうちの1つに乗せてもらっている。この馬車、座面が柔らかく揺れも少ない…かなり快適だなぁ…結構いいとこの商会っぽいな。



 「さっきみたいな盗賊ってよく出るんですか?」



 オレはガスさんのチームと同じ馬車に乗っていた。筋肉比率が高くて少し不快だが、いい人っぽいので少し話をしようと声をかけた。



 「よく出るってことはないが…まあ、たまにだなっ。」



 答えてくれたのはガスさんだ。他の人は聞き役に徹するようだ。このチームのリーダーはガスさんってことか?まあ他の人は冒険証石を見るに4等級冒険者5等級冒険者だしな。



 「オレ初めて遭遇しましたよ。」



 ちなみにさっきの盗賊たちは縄で縛って粗末な馬車に無理矢理詰め込んだみたいだ。次の街に着いたらまとめて引き渡すらしい。いや、慣れすぎだろ…



 「まあ今は西アウロフと南アウロフ間の紛争が少し激しくなってるらしくてなぁ…難民がここまで辿り着いたっていうのが1番可能性が高いんだが…さっきのヤツらはどうかな?」



 「さっきの盗賊は違うんですか?」



 「妙に手慣れていたように感じるし、ヤツらどうにもイルシプ側から来たようだしなぁ。この大陸の人間でもなさそうだった…まあ!少し面倒そうだがあまり気にするなっ!おれたちが悩むようなことでもねぇしなっ!」



 なにやらきな臭いなぁ…



 「それよりお前だよっ!あんなところ走ってたのはなんなんだよっ!しかも実力も7等級冒険者とは思えねぇしなっ!」



 「たしかにな。」「なかなかいい動きだったぞ。」「冒険者がメインではないのか?」「よい筋肉だ。」



 ガスさんが話を変えてきた。盗賊の件はオレたちが考えたところで仕方がないようなことなのかもな。そして周りの筋肉たちも話に入ってきた。どうやらオレのことが気になるようだ。



 「いやぁ、ちょっと人里を離れて修行していたので…あと金がなかったんで…」



 「はぁっ!?なんだそりゃ?お前未開の地からでも来たのかっ?」



 うん、まあそう思うか。普通にヤバいもんな。



 「むしろニルヴァニアに帰るところですよ。」



 「よくわからんが…あまり詮索するのはよくねぇな…ま、この商隊はあと10日程度でニルヴァニアに着く予定だっ!その間アルも護衛を頼んだぜっ!」



 実はタダで乗せてもらっているわけではない。馬車に乗せてもらう代わりに他の冒険者と同様に護衛をすることになった。まあガスさんが商隊の代表に頼み込んでくれたので、彼には頭が上がらない…



 「はい!頑張ります!」



 「おうっ!いい返事だなっ!若いのに関心だっ!お前いくつだ?」



 「えーっと…多分16です。」



 「おうっ!そうか!ガキなのにしっかりしてるなっ!ちなみにおれは25だっ!」



 はっ?冗談だろ?この筋肉だるまが?



 「ははっ!コイツ童顔だから驚いただろっ!」「リーダーならもう少し貫禄が欲しいところだな。」「髭が足りてないんじゃないか?」「いや、筋肉だろ。」



 この意味不明な話題を皮切りに、他の人も交えて会話がどんどん広がっていった。なんとガスさんのチームの冒険者はみんな20から25くらいの年齢層らしい。どうやらイルシプ出身のようで、オレのイルシプに対する印象はスキンヘッド髭モジャ筋肉マッチョになってしまった。



 そんな感じでオレのニルヴァニアまでの旅路は急に賑やかになり、当初より早いペースで進むことになった。



 「しかし、お前の筋肉もなかなかだが…やはり何か足りないな…そうだっ!お前も頭を剃り、髭を生やそうっ!次の街に着いたらさっそく剃るかっ!いやっ!今剃るかっ!」



 「それはいいなっ!」「そのあかつきには是非チームに入らないか?」「剣を棍棒のように扱っているのも芸術点が高い…おれたちとの親和性は高いと見たっ!」「もう少し筋肉は欲しいがな。」




 今からでも下車するべきか…?





――――――――――――


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