第24話 溜息をつく少女
◆◆◆
「はあぁ〜…」
ここは、ニルブニカ王国の首都・ニルヴァニア。南方大陸と呼ばれるこの大陸で最も栄えているといわれている街だ。
それもそのはず。南方大陸の北側にある中央大陸と呼ばれる世界最大の大陸の中でも西側・通称ミリア圏と海峡を隔てている。
このミリア圏には五大帝国と呼ばれる世界最強といわれる国が5つ隣接していて、長い間戦火は絶えなかったのだが、その分技術が発展していく土壌があった。
それ故、このニルヴァニアはミリア圏での戦火に巻き込まれることなく、交通の要所ということもあり、交易を通じて莫大な利益をあげることができたからだ。
それに加えて、南方大陸の争いにも巻き込まれることなく発展し続けたことも大きいだろう。
この大陸は大きく分けて4つの地方に分類される。まずは私たちのいる大陸の北側に位置する北ニルブニカ地方、大陸の東方向に突き出るような半島に位置する東イルシプ地方、大陸最南端に位置する南アウロフ地方、そして南アウロフ地方と隣接する形で西側に位置する西アウロフ地方、の4つだ。
この4つの地方の真ん中を塗り潰すかのように帰らずの森という広大な森林地帯が広がっている。この帰らずの森という冒険者ギルドに立入禁止区域に指定された領域によって、各地方が互いに深く干渉することもなく独自に発展していった。
これにより、隣接している南アウロフ地方と西アウロフ地方を
まあ何はともあれ、そんな素敵なニルヴァニアの冒険者ギルドにて、1人の女性が受付カウンターの中からロビーの壁にかけられた大きな地図を見ながら盛大に溜息をついていた。そう私である。なんか心なしか視界がボヤけるような…
「おいおい?どうしたんだアリスちゃん。そんなでかい溜息ついて。せっかくの可愛い顔がもったいないぜ☆」
1人の冒険者が私に話しかけてきた。目の前にいたのに全然気付かなかった。
「え…ああ!みっともないところをお見せしてしまい申し訳ございません!えっと、こちらの冒険者ギルド・ニルヴァニア支部は初めてですか?」
「ちょっと!冗談キツいぜ!おれはニルヴァニア支部の裏のエースといわれている
「それは大変失礼いたしました。以後このようなことがないよう肝に銘じます。」
「いや…それこの間も言ってたぜ…ってか眼鏡!おでこにかかってるぜ!」
そう言われておでこを確認すると、あ…本当だ。どおりで視界がボヤけるわけだ。私はおでこにあった眼鏡を本来の位置に装着する。
「んっと…あ、なんだボブさんじゃないですか。食事なら行きませんよ?」
目の前にいたのはボブという茶色の長髪を後ろでまとめている
「いや、まだ誘ってないのに…誘うつもりだったけど…」
「あ〜、やっぱりフラれたか。これで何回目だ?」
「もう100回から先は数えてねぇよ。いい加減諦めりゃいいのに。」
「ま、そのしつこさが悪いとこでもあり、いいとこでもあるんだけどな。」
ボブさんの後ろから3人の男性の声が聞こえる。あの人たちはたしかボブさんとチームを組んでいる冒険者だ。相変わらず仲がよさそうだ。
「仕方がねぇ!今日のところは出直そう!ま、悩んでいることがあればいつでも言ってくれていいんだぜ☆」
ちなみにこのボブさんは普通にいい人である。無理矢理迫ってくるわけでも、誘いを断っても機嫌を悪くして怒鳴り散らすわけでもない。ただ…なんというか…食事とかはちょっとね…?
「ふふっ、気にかけていただいてありがとうございます。」
「うぐっ!?可愛すぎる…」バタン
そのまま倒れ込んでしまった。なんとも不思議な人だ。
「あー、ったく、毎度みっともねぇなぁ。」
「こういうときは本当に身内であることが恥ずかしいぜ。」
「ま、アリスちゃんも気が紛れたみたいだし、少しくらいは役に立ったんじゃね?じゃ、おれたちはそろそろ行くよ。」
「はい。ありがとうございました。お気をつけて。」
そして3人はボブさんを担ぎ上げ冒険者ギルドに併設されている酒場へと向かった。
酒場か…
ふと受付カウンター内の机に置いてある小さな鏡を覗いてみる。
そこには茶色のポニーテールに茶色い目、赤縁の眼鏡を身につけた少女ともいうべき女性がそこにいた。私の顔だ。微かに表情が曇っているように感じる。
鏡から目を逸らして、もう一度溜息をつく。
私が溜息をついた理由、それはひとりの幼馴染のことが関係している。
ソイツはいつも一流の冒険者になると息巻いており、なんか見ていて不安だった。
彼を放っておくのはどこか心配であったので、私も冒険者になろうと思ったのだけど…父が許してくれなかった。というより、そのことを言った瞬間に大号泣からの土下座というムーブをかまして「頼むからそれだけはやめて!」と懇願されたのだ。流石にドン引きしたよ…お父さん…
その代わりにと、父は私に冒険者ギルドの事務員の仕事を紹介してくれることになった。父は元々冒険者であり現役時代は
冒険者としては無理だったが、冒険者ギルドの事務員として彼から目を離さないようにしようと思ったのだ。
まあ実際はそんな余裕もなく激務が続くことも少なくなかったので、彼を気にかけている暇などなかったのだけれど…
そうして仕事が一段落したある日のこと。
彼の父親…ウルおじさんが冒険者ギルドに来て、息子はどこに行ったと尋ねてきたのだ。
一応、依頼に関しては守秘義務のようなものがあるが、依頼を受けたかどうかくらいなら大丈夫だと思い、少し依頼関連の書類を調べたのだが…
彼が依頼を受けた形跡がなかったのだ。
最後に受けた依頼はしっかり完遂したという記録が残っており、彼の痕跡はそこで途絶えていたのだ。
不審に思いつつもすぐ帰ってきますよ、と私が言ってウルおじさんも表面上は納得して帰った。実際そのうち帰って来ると私も思っていたからだ。正直彼の冒険者としての実力はまだまだ未熟であるといわざるを得ない。そんな遠くには行っていないだろう、と。
しかし半年経ったくらいからようやくおかしいと思い始めた。
その間もウルおじさんは繁々、冒険者ギルドに通っては息子の情報をきき、そのまま肩を落として帰っていく、そんなことを繰り返していた。
ウルおじさんとは彼の父親ということもあり、小さい頃から会う機会もあったのだが、当時の豪快な雰囲気は見る影もなかった。
かく言う私も彼が今どうしているのか、もしくはもう既にどうにかなってしまったのか…そんなことを常に考えてヤキモキする毎日が続いていた。
彼は私にとって弟のような存在だった。私の方が1歳くらい年上だったこともあり、なんだかいつも面倒を見ていた気がする。彼は鬱陶しそうにしていたのだけれど…
そして、とうとう彼が失踪してから1年が経つのだろうか…
もうすっかりウルおじさんはギルドに来ることもなくなり、自分の家の酒場で碌に接客もせずに隅っこで酒を呷る毎日を送っているらしい。彼の母親…ハルおばさんが文句を言っていた。自分も気が気でないのに、それ以上に落ち込んでいる人がいて仕方がなく気丈に振る舞っているように見えた。
こんなにも心配している人がいるのに…なんで帰ってこないのだろう…せめて、無事なら手紙で連絡くらいしてくれてもいいのに…
「はあぁ〜…アルのやつ…早く帰ってきなさいよ…」
今日も私は受付カウンターの中で溜息をついている。
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