第8話 変化

 森の魔物たちとの交流を経てから、俺たちはこの森に住むものとしてより一層の友情を深めるべく、その後も種族の壁を通り越して積極的に交流していった……というのは冗談だ。



 今まで通りめっちゃ恐れられている。俺の感覚ではこの森で上位存在として君臨してきたヤツほど俺から一心不乱に逃げていく気がする。長らく天敵というものがいなかった反動かもな。



 それにしても食わないといったはずなのになぁ…おさの野郎どもが適当にホラを吹いてるんじゃないだろうなぁ?



 例えば、「出会ったら詰みのあのドラゴンからなんとか逃げ切ることができたぜっ!まあお前らは食われるだろうけどなっ!」的な感じで。



 これは確かめる必要があるな。今度、もう一度あいつらを攫い…もとい平和的な手段で彼らを招集して話をきくことにしようか。



 依然として俺は恐怖の存在らしいが、実はそんななかで俺に近づいてきているヤツらも一定数いた。



 いわゆる弱小勢力といわれる種族だ。今までは上位勢力の魔物からの脅威にさらされ続けてきて、なんとか生き延びてきたようだが…



 俺という絶対的な超存在に守ってもらおうと擦り寄ってきた、という感じだな。



 まあ、前の俺はそんなヤツらも関係なく食い散らかしてきたので、本当にごく一部だけだが…



 そんな変わり者は3種族いた。



 まず1種族目はミツバチみたいな魔物だ。コイツらは森の花から蜜を抽出して、それをペロペロしながら暮らしている。



 どうやらこのハチミツが大変美味いらしく、他の種族から頻繁に奪われるみたいだ。



 そこで、俺に一定の量のハチミツを献上する代わりに、今後はハチミツを奪われぬように守ってもらおうということらしい。



 俺に献上するのはいいのかときくと、自らの意思で差し出すのと略奪されるのでは、圧倒的に前者の方がマシであるとのことだ。まあそうかもな。



 ということで俺の生まれた場所の周囲にある鮮やかな森に住むことを許してやった。せいぜい美味いハチミツをたのむぜ?



 2種族目はゴブリンみたいな魔物だ。コイツらは石や木の道具を使って生活しているなんとも文明的な魔物だ。



 それになんと酒をつくっているらしい!この森にもブドウみたいな果物はあったし、道具さえあればつくれるもんなんだな。



 で、コイツらもその酒をよく奪われるみたいだ。この森で力を持たない者というのは、ものを奪われても文句は言えないとのことだ。



 そういうことで、コイツらも一定の量の酒を献上する代わりに、自分たちの保護を求めてきた。ミツバチと大体同じ感じだ。



 当然、その求めに応じて、俺の周囲の鮮やかな森に住むことを許可した。



 実は前世のころから酒は大好きなのだ。まさか、こんな早いうちに飲める機会が来るとはね…まあ、味は普通に不味いのだが、今後に期待だな!



 そして最後の種族はハムスターみたいな魔物だ。コイツらはこの森で最弱の種族らしく、狩りがうまくいかなかったヤツらの保険的存在で、ほとんどの魔物が天敵らしい。可哀想すぎる…



 しかも、コイツら特に献上できるものもないらしい。せいぜいが蓄えてる木の実や果実といったところか。いらね…



 まあ、せっかく俺を頼ってきたんだ。かなり勇気のいる行動だったはずだ。ということで、前の2種族同様に鮮やかな森に住むことを認めた。



 ただ、コイツらに関しては物ではなく労働を対価として差し出してもらうことにした。意外にも手先が器用そうなので雑用係として控えてもらうことにしたのだ。



 果実を持って来させたり、近くにある湖で俺の体を洗わせたり……魔法の実験体になってもらったりな…



 そうそう!前からやりたかった、俺が生まれた場所のガーデニングも任せたのだ。



 多種多様で雑多な感じも嫌いではないが、どちらかというと統一感のある方が俺好みなのだ。そして、ハムスターどもに真っ赤で美しい花を探してこいと命令したのだ。



 なぜ赤なのかだって?詳しいことはよくわからんが、俺の体は深緑色なので補色にあたる赤色の花畑に仕上げればいい感じになるのではないかと思ったからだ。まあ普通に赤色かっこよくて好きだしちょうどいい。



 ハムスターどもは数多くの赤い花を持ってきた。どれも美しく見ていて安らぐのだが、その中のある一輪の花に俺は思わず目を奪われた。



 それは前世では彼岸花と呼ばれていた花に似ている。



 もちろんその鮮やかな色もあって美しいのだが、普段見慣れた花とは違った独特な形状を見て、思わずその異質さに惹かれてしまった。



 この世界でも異質な存在である俺のようだと…



 こいつが群生したら、さぞ美しい光景が広がるだろう…



 俺がこの彼岸花を気に入ったことで、その後ハムスターどもが大量の彼岸花を持ってきて、もともとあった花と入れ替える形で植えていった。



 そしてついに完成したのだが…



 『これは美しいな…』



 そのあまりにも幻想的な光景に、俺はしばらくの間呆けてしまった。一面を塗りつぶすかのように広がった彼岸花。まさに、地上の楽園とでもいうような尊い景色が広がっていた。



 俺は大いに満足し、ハムスターどもを労ってやった。ハムスターどもは嬉しそうというより、なんかホッとしている感じだ。別に気に入らなかったからといってブチギレるつもりもなかったが…



 早くこの光景を誰かに見せたいな!ミツバチとゴブリンはなんか反応薄かったし…



 まあこんな感じで、少しずつだが森のヤツらとの関係もいい方向へと変化していくといいな。





 ちなみにだが、彼岸花を最初に持ってきたハムスターは後におさになったようだ。




――――――――――――


この作品に興味を持っていただき、ありがとうございます!


皆様の応援は物語を書く上で、大変励みになります...!


『面白い』、『頑張ってるな』、『応援しても良いよ』、『続きが気になる』という方は、


ブックマーク、評価をしていただけると幸いです!


※「☆☆☆」を「★★★」にすると、私のテンションが爆上がりします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る