木霊と女子高生の過去

 友達がいじめられていた。

 きっとそれは、全部自分のせいだった。女でありながら友達を、彼女を好きだったから。それは友情という意味ではなく、もっと邪な、恋愛的な意味で。

 私の思いを彼女に伝えたことはない。嫌われるのが怖かったから。でもバレていたと思う。そうじゃなければ、彼女がいじめられることは無かったのだから。


 彼女の優しい笑顔が好きだった。私のわがままに『しょうがないな』と困ったように笑ってくれる彼女が、とてつもなく愛おしかった。


 彼女の柔らかい手が好きだった。寒いと言って繋いでくれた手から伝わる温もりが私の体温と溶けていくのが、どうしようもなく尊かった。


 私を肯定してくれる彼女が、心の底から好きだった。


 そんな彼女を、あいつらはいじめていた。彼女に「私はいない方が良い」なんて言わせた奴らを、私は許せなかった。でも私は、あいつらと同じ土俵に立つのは嫌だった。

 私がいじめられ始めた時、私は妙な高揚感があった。それは私に被虐的嗜好があるわけではなく、好きな彼女を救うことができたのだという、喜びだった。

 でも、それは逆効果だった。

 彼女は、とても悲しんだ。自分がいじめられていた時より、暗い表情をするようになった。私がいじめられているのを見るのが苦しいらしい。落書きされた私の机を見る度に、花瓶の置かれた席を見る度に。彼女は、自分のことのように追い詰められるのだという。

 私は、自分の無力さを呪った。私には、彼女を救うことはできないらしい。

 もう、二人とも耐えられなかった。

 最期の瞬間、私は彼女に告白した。自分の思いを、彼女を苦しめた呪いを。

 彼女は、笑ってくれた。こんな私すら、肯定してくれた。それが、たまらなく嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて、許せなかった。

 私と彼女の時間を奪ったあいつらを、許せなかった。

 彼女と手を繋いで線路に飛び込む時、私の頭は彼女のことではなく、恨めしいあいつらのことでいっぱいだった。


 だから、私は奪うことにした。


 もう、私たちをいじめていた奴らの顔も名前も覚えていない。死んだときに、頭を強く打ったのかな。覚えているのは、あの地獄のような日々と、彼女への思いだけ。

 霊になって、手あたり次第、制服を着ている人たちを襲った。私が霊になるときに、彼女を巻き込んでしまったことは申し訳ないと思っていた。

 彼女が復讐に前向きではないことも承知の上で、私は巻き込んでしまった。


 これは、私の憂さ晴らしで、ただの、エゴだった。

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