2-8 依頼と魔物とトンカツと

「スキル、ですか……?」

「そうだぁ。クラ坊の場合は料理系かぁ?」


 スキルって言うと、アレだろうか。

 異世界ファンタジーではお馴染みの、特殊な能力や力、技術なんかを表している言葉。


 僕がそれを持っているのではないか、と。


 そうクライスさんは問いかけてきている。


「いや、持ってませんよスキルなんて。持っていたら少なくともミリーには伝えてますし」

「そうかぁ……。つまり少なくともクラ坊と嬢ちゃんは気がついていないってことかぁ」


 そう言ってボリボリとクライスさんが頭をかく。

 あ、フケみたいなのが落ちてきた。汚い。

 ミリーもそれを見て顔を顰めてる。


 とりあえず、話が進まないしフケのことは一旦忘れよう。


 さて、スキルについてなのだが。

 そもそもの話、この世界にもスキルという概念自体は存在している。


 僕やミリーが悪役として登場するゲームでも何人かの人物がスキルを所持していたし、一般的にもスキルの存在が認知されているので間違いない。

 ただ一点、この世界のスキルというものは基本的に才能に依存するところが大きい、という特徴がある。


 この世界のスキルは大きく分けて三つの種類がある。

 先天性スキル、後天性スキル、ランダム性スキルの三つだ。


 先天性スキルは優れた才能を持つ人物が生まれながらに持っているスキルのことだ。

 例えば、剣術の才能を持った人物が剣術系のスキルを持って生まれてくる、と言った感じだ。


 後天性スキルは優れた才能を持ちながらもスキルを持って生まれてくることはなく、その後の才能に関わる行動を引き金に発現するスキルのことだ。

 何もスキルを持たずに生まれてきた剣の才能を持つ人物が気まぐれで剣を振ったら、剣術系のスキルが発現した、という感じ。


 そして最後のランダム性スキル。

 これだけは唯一才能との関係が存在しないと考えられているスキルだ。


 これは後天的に発現するスキルなのだが、その発現に至るきっかけには才能との関わりが全くと言っていいほどに見られないのだ。


 例えば、なんの才能も持たない人物が剣を振って、剣術系のスキルを発現させる。

 だが、才能のある人物とは異なり剣の扱いは素人と変わらず、成長速度が速いわけでもない。


 他にも例を挙げると、戦闘系の先天性スキルを持つ人物が不得手な料理系のスキルを発現させたり、料理人が鑑定系のスキルを発現させたりなど、だ。


 僕は今挙げた三つのスキルのうち、一つも発現した覚えはない。

 スキルが発現する時にはわかりやすい変化が起こると言われているが、そんなことを体験した覚えもない。


 なのでクライスさんが言っていることは的外れなのだ。


「クライスさん、気がついていないとかじゃなくて、僕は本当にスキルを持っていないんですよ。発現させた覚えもありませんし」

「そんなわけあるかぁ。だったらぁ、俺が今日、オークの首を一発で切り落としたり、ディリティリーを一撃で殺してあまつさえ生き残ってたり。普段ならできないことができてるのはどういうことだぁ?」

「知りませんよ」

「オークの討伐前も、ディリティリーとの戦闘前もお前の作った料理を食ってるんだがなぁ?」

「たまたまですよ。それか武器が良かったか」

「んなわけあるかぁっ!武器は最近手入れしてないしっ、ディリティリーを偶々で殺せてたまるかってんだぁっ!」


 急に立ち上がって叫ばないでほしい。

 耳がキーンとしたし、驚いた。


 ミリーもちょっぴり涙目になってしまっている。

 色々あった後なので少し敏感になってしまっているのだ。

 

 ただまぁ、正直そんなミリーも可愛い。

 しばらく眺めていたかったが、僕の側に来て手を握ってきたので全力で安心させる方向にシフトチェンジする。


 ミリーの手を握り返して安心させつつ、ミリーにも少し尋ねてみることに。


「ミリーは僕の料理を食べた後で何か変化があったりした?」

「……そう言えば、サンドイッチを食べた後、魔法が少し強くなってた気がするわ」

「……」

「あと、トンカツを食べた後もいつもより体が軽く感じたわ」

「嬢ちゃんもこう言ってるが?」

「……」


 ミリーもそう言ったことを感じていたとなると、認めないわけにはいかないなぁ。

 僕はスキルを持っていた、ということを。


「わかりました、認めますよ。僕はスキルを持ってる。でも、本当に効果とかはわかりませんからね?」

「それは問題ないぜぇ。ある程度の効果は予想がついた」


 早いな。


「多分、クラ坊のスキルは自分の作った料理にバフの効果をつけるものだろうな。体力上昇とか筋力向上とかの」

「なるほど」


 確かにそれなら二人の話に対して違和感がない。


 クライスさんの場合は筋力向上のバフによってオークやディリティリーの首を一撃で切り、ミリーの場合は魔法の威力向上なんかのバフで魔法が強くなった。

 そしてそれらを行う前には僕の料理を食べていたからそれがトリガーとなった。


 うん、僕のスキルは中々に優秀なんじゃないだろうか。


「スキルの効果の幅に関しては自分で地道に調べておけよぉ。これからも色々と役立ちそうだしなぁ」

「わかりました」

「それじゃぁ、そろそろ帰るかぁ」


 そう言って立ち上がるクライスさんに続いて僕も立ち上がったところで、ふとディリティリーの死体が目に入った。

 頭の中に唐揚げ、という単語が浮かび上がる。


「あ、その前にディリティリー回収してもいいですか?雄鶏の部分が料理に使えそうなので」

「……好きにしろぉ」

 

 なんとも微妙そうな表情のクライスさんを無視してディリティリーの死体を回収し、三人で帰路についた。




 屋敷についた後、ミリーとクライスさんは説教を受け、何故か引っ張られて行った側の僕も説教を受けた。

 メイナ曰く


「結果として、クラヴィス様も一緒になって行動していたので同罪です」


 らしい。


 解せぬ。

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