2-3 依頼と魔物とトンカツと

 昼食のメニューが決まり、早速材料のオーク肉を買いに行こうとメイナと数人の護衛、それとなぜかクライスさんも一緒に屋敷を出た僕とミリー。



 何故か現在、僕は王都の周りを囲む城壁の外にいた。



 メイナと護衛の騎士たちはいない。

 いるのは瞳がやる気に満ち溢れているミリーと、一人ぶつぶつと呟きながら金勘定をしているクライスさんだけである。


 いや、待ってほしい。

 僕の話を聞いてくれ。


 最初は本当にオーク肉を買いに行くだけの予定だったのだ。

 でも最初に向かった肉屋が運悪くオーク肉を切らしており、それならと向かった別の店も品切れ。

 その後も二、三店舗ほど巡ってみたが何故か全てオーク肉がなかったのだ。


 ないなら仕方がない。

 何か別の肉を買って違う料理を――、と僕が考え始めたのと同時。

 クライスさんが口を開いてしまった。


「売ってねぇならよぉ、狩りに行けばいいんじゃねぇかぁ?ちょうど王都のすぐ側の森でオークの討伐依頼が出てたはずだぜぇ」


 変な場面で冒険者らしい言葉を口にしたクライスさん。


 普段なら誰もがそんな言葉はスルーするのだが、今日は違った。

 僕の好奇心旺盛な婚約者様が反応してしまったのだ。


「オークの討伐依頼っ!?行くっ!行くわっ!」

「えっ、ちょっ、ミリーっ!?」


 僕もメイナも護衛の騎士たちも必死に止めようとしたさ。


 ミリーは僕と同じく十歳。

 いくら家庭教師をつけてもらって魔法の特訓をしているとは言え、オークの討伐なんて危険が多すぎる。


 全員で宥めて何とか屋敷に戻ろうとしていたところで、またしてもクライスさんが口を開いた。


「安心しろよぉ。ここに折り紙付きの実力を持つ冒険者がいるだろぉ?オークごときなぁんも怖くねぇよぉ」


 お前はまた余計なことをっ、と僕とメイナ、護衛たちがミリーから意識を逸らしたその一瞬。

 

 いつの間にか僕の後ろに回り込んでいたミリーが僕の襟首を掴み、そのまま引き摺るようにして走り出した。

 遅れて気がついたメイナたちが驚きつつも慌てて追いかけてくるが――


「そんじゃぁ、こいつら連れてくなぁ。夕方までには帰るからよぉ」


 これまたいつの間にか僕とミリーの真横まで来ていたクライスさんに抱え上げられ、ものすごい速さでメイナたちとの距離を引き離されてしまった。

 その後、クライスさんがオークの討伐依頼を受注するために冒険者ギルドに寄り、ギルド併設の道具屋で最低限の準備を整え城壁の外へ。



 そして、今に至る。



「ラヴィっ、クライスっ!早く!早くオークを倒しに行くわよっ!」


 ウッキウキ、ワックワクの興奮状態のミリー。


「確か森にいるオークの数は三体から六体の通常個体。オーク一体あたりの討伐報酬は三万、そこにプラスでオークの素材が入ってくるから綺麗な状態で持っていけば二十万……いや、待てよ?確か今の時期は夏季だけ花を咲かせる特殊な薬草があったな。それの値段が一つあたり――」


 ぶつぶつと一人金勘定をしつつ、ニヤニヤと欲にまみれた笑みを浮かべるクライスさん。


 あんたは僕の剣術師範としてウチから十分な報酬を貰っているだろ、とは思いつつも口には出さない。

 クライスさんがこういう人間であることは剣術の指導をしてもらっている時に大体わかっていたのだ。

 それが今回わかりやすく表に出てきたというだけだ。



 ……嗚呼、もう僕の手で二人を屋敷に連れて帰るのは無理そうだ。


 ここまできたのなら僕も楽しんでしまおうか。

 うん、そうしよう。


 でも、このままだといつまで経っても出発しそうにない。

 ミリーもそろそろ我慢の限界だとでも言うように足踏みを始めているし。


「クライスさん、行くなら行きましょうよ。あんまり帰りが遅くなると捜索隊を出されかねませんから」

「お?あぁ、そうだなぁ。じゃぁ行くかぁ」

「やっと出発ね!」


 ミリーが意気揚々と戦闘を歩き、その後ろに僕とクライスさんが並んでついていく。


 その途中、太陽がとっくに空の頂点を過ぎており空腹感が強くなってきていることに気がついたので、マジックバックの中にストックしてあるサンドイッチを取り出して歩きながらお腹に入れた。

 これからオークを討伐するのに空腹では力が出せなくなってしまう。

 

 それにこの状態でオークを討伐すればいい感じにお腹が減って、オーク肉のトンカツを美味しく食べられるだろう。


「あ、そうだ。クライスさんは屋敷に戻ったら多分、メイナたちから怒られると思いますので。覚悟しておいてくださいね」

「うぇっ!?」

「アッハハッ!頑張りなさいクライス!」

「笑ってるけど、ミリーもだよ」

「――へっ?」

「ミリーはメイナたちに加えてご両親からも怒られるかもね。頑張れ」


 ミリーの大きな瞳が潤んだ。

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