第8話 特別な存在(パートナー)

 ミアさんからの唐突な告白を受けて理解が追いつかない僕に彼女はさらに重ねる。


「は、裸で倒れていた私に手を出すどころか人目に付かないようにタオルで隠してくださった優しさ。御両親から冷遇されているにも係わらず前を向いているマイト様あなたが……」


 潤んだ瞳で「おかしいでしょうか?」って、はにかんだ表情かおを前に我慢出来なかった。


「……んむ"ぅっ!?…………ん、ちゅっ……」


 強引にミアさんの唇を奪った僕に、彼女は驚き大きく目を見開いて――蕩けそうな笑みで瞳を閉じ受け入れてくれた。


 長いようで一分にも満たないその口付けは、時間それ以上に濃密で何よりも甘く、離れたお互いの舌先から伸びた唾液の糸が惜しむかのようにじんわりと細くなって……途切れた。


 熱い吐息を洩らし妖艶のオーラを纏った彼女に向け覚悟を決める。


「ミアさんっ!」

「ふぁっ、ふぅゃいっ!?」


 彼女の奇声へんじに思わず噴き出しそうになり、寸でのところで持ちこたえ告白ほんだいを切りだす。


「こんな形での出会い且つ即飛ばしで悪いけれど、君は断じて使い魔ではなく僕の特別な存在パートナーになって欲し――「こんな私で宜しければ喜んでお受け致します。マイト様!」」


 全てを言い切る前に感極まったミアさんに抱き付かれ温かい気持ちで満たされる。


 だけど――


「その【マイト様】っていうのを止めてくれるともっと嬉しいんだけど?」

「こればっかりは、マイト様のお願いであってもお譲り出来ません」


 そっかぁ、ムリかぁ~。


 なんて、幸せを噛み締めてるだけじゃダメだ。


 彼女、ミアさんにはまだを訊いていない。


「今更だけど、まだ君が帰れる方法があるかも知れないのに僕のパートナーになってしまって。心配している家族や友達がいるんじゃ……」

「本当に今更でずるい訊き方ですね」


 頬を膨らませつつジト目で見上げる姿も可愛らしい。

 そして、尖らせた口を開く。


「学園の友達はともかく、お父さんやお母さん、本当の家族のように温かかった村の皆さんは悲しむかもしれません。例え親不孝な娘だと見限られたとしても、マイト様の、御主人様のお傍でです」

「あ、あはは……」


 嬉しいけれど……この子も色々と急ぎ過ぎでは、と最早苦笑いするしかない。


 それでも、幼い頃から欲していた特別な存在ものがこの手に――



 バリバリバリバリッ、ピッシャ――――ンッ!


「「――っ!?」」


 甘い空気を切り裂くような雷鳴が轟き、そこにはローブを纏った人影が佇んでいた。

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