【幕間14】魔王様と雪見酒
「飛鳥ぁ、お嬢ぉ、そろそろお風呂に入ってぇ、寝る準備しなぁよぉ」
飛鳥と元超魔導士ドロテアはテレビゲームの協力プレイに熱くなっていた。全年齢向けのゲームであるが子供には少しばかり難しくクリアが困難な状態。かつてはゲームは馬鹿になるだの目が悪くなるだの言われていたが、一番子供に興味を持たせ、そして解決能力を養わせる物の一つだと烏子は考えている。研究員の自分が家にいない間、このテレビゲームも飛鳥の留守番に一躍買ってくれている。
「くっ、もうしばしこの愚か者を攻略してやりたいが、確かに眠くなってきた。飛鳥、風呂に参ろうぞ?」
「そうだね! ドロテアちゃんの頭、飛鳥が洗ってあげるね?」
「そうか、任せるとしようかの」
二人は仲良く浴室へと着替えを持って向かっていく。食事の洗い物も魔王様が手伝ってくれたので烏子も一息つこうかと、冷蔵庫に食べかけのかまぼこを見つけるとそれを切って持ってくる。
「魔王様、一杯付き合いませんか?」
「烏子よ。貴様の一杯は“いっぱい“であるかなら、控えて飲むよう心がけよ」
というから、お酒に付き合ってくれるという事。烏子はいつも一人酒だったわけで魔王様がきてくれてから一緒に飲む相手がいるのは地味に嬉しい。かまぼこにつけるのに、生ワサビと塩ウニを準備。そして本日のお酒は……
「燗付けした日本酒がこの時期は主役だねぇ」
「ほぉ、あの暖かい酒であるな! クハハハハ! 余は大好きであるぞ!」
烏子はチロリを用意すると、「まぁ一献」と「うむ、いただこう」と口に含むと暖かく、飲み込むとじんわり体が熱を帯びる。魔王様が次はチロリを持って「返盃であるぞ」「どうもぉ」と烏子は魔王様にお酒を入れてもらうとこくんと飲み干す。
「くあぁああ! これだねぇ! かまぼこもどうぞぉ」
「うむ」
魔王様はお箸の使い方もとても綺麗で、ワサビをかまぼこにのせてパクりと食べて「美味い! クハハハハ! わさびのツーンとしたのが堪らぬな!」と目を瞑って美味しさを身体全体で表現する。
「あと少しで魔王様、クリスマスだよぉ。何か欲しい物とかあるかぁい? あと、お嬢にも何かあげないとねぇ」
「クリスマスとはあのクリスマスアドペントカレンダーの最後を開けた時に来る日であるな? パーティーの日と言うが、いつになる?」
「12月の24日かイブでこの日にパーティーだねぇ。そして25日が本番、サンタさんがプレゼントをくれる日だねぇ」
「ふむ……25日か」
ドロテアの未来予測、世界を滅ぼす究極崩壊魔法がこの世界に落ちてくるのが丁度その日頃と聞いていた。そして現時点では勝算はあまりない。魔王様がニコニコした表情で考えていると、烏子が気づいた。
「魔王様ぁ、何か悩み事かぁい?」
「ふむ、烏子に隠し事をする必要もなしか、余とドロテアは余の世界で殺し合っていた。あやつの凶暴性は余を少しばかり上回っておってな。あやつ、余の世界を滅ぼうと強大な魔法を放ちおった。クハハハハ! よもや心中するしかあやつを止める方法はなかった。あやつと共に異空間にて消滅するハズであった」
「ははーん、それで魔王様とお嬢がやってきたのかぁー。で、その魔法もやってきちゃったかぁー」
「……すまぬな」
魔王様は笑顔のままだが、申し訳なさそうにしているので烏子は魔王様のぐい呑みにチロリを向けて日本酒を注ぐ。それを魔王様はグイっと飲む。
「まぁ、私はあんまり気にしてないよぉ。まぁ、案外世界ってのはそういう感じで終わるのかもねぇ。世界を救える可能性はあるのかぁい?」
「ふむ、余とドロテアが力を合わせても五分と言ったところであるな」
「案外期待できる数値だねぇ。クリスマスパーティーはちゃんとしようねぇ。私もぉ、飛鳥も魔王様とお嬢は家族みたいなものだと思ってるんだぜぇ」
魔王様はチロリを持つと次はかまぼこをつついている烏子のぐい呑みに熱燗を注ぐ。それを烏子は笑顔でグイっと飲み干す。魔王様はここまで酒を美味そうに飲む者を見た事がない。故に自分も飲む手が進む。
「クハハハハ! ふむ。チキンもケーキも楽しみであるしな。飛鳥ともたくさん遊ばなくてはならぬ。ドロテアのやつともこの世界では割とウマが合う。この世界、損なわせるわけにはいかぬな。さて、どのようにするか……むっ? 何かが舞っておるな?」
「んんっ?」
烏子も目を凝らして外を見ると、そこには白い粉雪が舞っていた。やや遅れ気味とはいえ、冬はやってきている。しばらく烏子と魔王様は雪が舞う様子を眺めながら熱燗を楽しんでいた。クリスマスイブ当日も同じく雪が降れば雰囲気が出るなぁとか思っていると、お風呂から飛鳥とドロテアが上がってきたらしい。
「コーヒーぎゅうにゅーじゃあああ!」
「ドロテアちゃん! 髪をちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうよぉ!」
わしゃわしゃと飛鳥が妹のようにドロテアのお世話をする。烏子は二人が湯冷めしないように寝室のベットメイクを行いにく、ドロテアが風邪を引いたら本当にこの地球は終わるなぁとか思いながら、一人でクスクスとウケてしまった。
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