14.魔王様とドンキスイーツを買おう
ドンキホーテはお菓子のラインナップも中々素晴らしい。情熱価格のプライベートブランドもナショナルブランドも驚きの価格で提供されている。暴飲暴食を促しているのかと言わんばかりに積み上げられているスナック菓子も、冷蔵庫コーナーに所せましと並んでいるスーパーの半額以下で売られていたりする生菓子も消費者の購買意欲をくすぐってくる。
酒飲みである烏子はあまりお菓子を好んで食べる事はないが、飛鳥、魔王様、そして今回の主役であるドロテアは甘いお菓子もしょっぱいお菓子も大好きである。普段はお菓子は一人一個までという制約でどれを食べようかと三人とも頭を捻って楽しんでいるが、こういう時は何を選んで何を買ってもいい。要するに無制限、食べ放題なわけで目を輝かせる。
我先にとお菓子売り場へと向かう三人を横目に、烏子はちょいちょいとお酒売り場に離れて、アサヒビールが販売している新しいお酒。未来のレモンサワーを箱でカートの下に忍ばせる。
「お菓子天国じゃ!」
ドロテアがメガ・ドンキのお菓子売り場を見て空いた口が塞がらない。近所のスーパーのお菓子売り場とは規模が違う。
かといって、コストコのように、大量業務用みたいな販売をされているわけでもない。単純に近所のお菓子売り場を数倍にした広さ、そして種類、さらにはナショナルメーカーのドンキでしか売られていない物まで。
三人はひとまず乾き系、要するにスナック菓子コーナーを見て回る。ナッツ類もとんでもない量で販売されており、烏子はしれっとピーナッツをカートに入れた。
「ドロテアちゃん、何買うか決まった?」
フルフルと首を横に振るドロテアに飛鳥は珍しいスナック菓子を見せる。茨城県のご当地チップスであり、なんと現地では焼きそばの具にしてしまうという料理もある。
「ハート型、うまそうじゃな!」
ドロテアは年上風を吹かせる飛鳥には甘い。
今までの自分であればこんな子供に偉そうな態度を取られていれば即殺していただろうなと思っていたが、飛鳥は割とよくできた子で、ドロテアはなぜか不快にはならない。そして地球で生まれ、育っているので一日の長があるので、お菓子について非常に詳しい。飛鳥が教えてくれるお菓子に間違いはない。
そしてドロテアの目の上のたんこぶ。魔王様は満面の笑顔で、スニッカーズを使用したポップコーン。キャンディーポップコーンを持ってくる。どう考えてもまずいわけがない組み合わせ。
それを魔王様がカートに入れるのでドロテアはこれよりももっと美味しそうなお菓子を入れてやるとムキになって辺りを見渡した。いや、今まで食べていたお菓子の中で不味い物など一つとしてなかった。なかったのだが、なんでもいい。味じゃなくても大きさでも見た目のインパクトでもなんでもいい。
格下だと思っている魔王様にだけは絶対に、なんとしても負けたと思いたくない。これは超魔導士ドロテア。全ての魔法の母と呼ばれた彼女の意地であった。魔王様は一つの世界に存在したただ一人の取るに足らない魔物達の王だった。だが、その魔王は自分に一度土をつけた。ドロテアが滅ぶ時はいつも自らの力を持って世界と共に心中してきたというのに、圧倒的な屈辱、世界は滅せず、かつ自分は滅ぼされた。本来自分に足りうる命が生まれたという事に歓喜しない器の小ささ。
されどドロテアからすればそれはもう二度と、魔王様には遅れを取るまいという鬼気迫る物があった。ドロテアはこの世界に来てから魔法力が枯渇した。されど、犬神家に居候し、美味しいご飯やオヤツを食べる事で少しずつ、ゆっくりとドロテアの魔法力は溜まって来ていたのだ。魔王様には絶対に負けたくないという譲れない想いと犬神家での美味しい食事の日々が、超魔導士ドロテアのユニークスキル、究極鑑識眼を再び開眼させた!
ドロテアは機械のようにぐりんと動く眼球、このメガドンキ内に魔王様が持ってきたお菓子よりも優れた物をサーチされる。そしてそれは瞬時にドロテアの瞳にロックされた。ドロテアの口元が緩む、そこには数多の世界を滅ぼし尽くした超魔導士の姿があったと魔王様は後に語る。そしてドロテアはあの究極的に美味しいお煎餅雪の宿がラベリングされた瓶を持ち烏子のいるカートへと戻る。
「お嬢ぉ、これはお酒だからお嬢は飲めないぜぇ」
絶句、ドロテアは烏子の言葉の意味をしばらく理解しないでいた。というかなんでお煎餅の雪の宿がお酒に?
これは厳密に言えばお煎餅の雪の宿のお酒ではなく、雪の宿のあの白い部分をイメージしたお酒なのである。コンセプトは意味不明だが、一時期SNS界隈をざわつかせたれっきとしたお酒。
[雪の宿のあま~いココがお酒になりました]という名称のそれをドロテアの手の中から烏子は取ると、それを元あった場所に戻すわけでもなく、しばらく見つめてそれをカートの中に入れた。
要するにお酒なので、これは烏子のステージであるという事だろう。よってドロテアはまだお菓子を選べていない。
「な、なぜだぁ!」
烏子は雪の宿のお酒をじっと見つめてニンマリ笑う。
そして、ドロテアはまたお菓子の森とも言えるドンキホーテのスイーツ売り場の中へと姿を消していった。
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