【幕間12】魔王様とコストコ・アドペントカレンダー

 魔王様は居候になっている犬神姉妹の住むマンションで不思議な光景を目の当たりにしていた。なにやら穴の空いた箱、そして長女の犬神烏子の方が一つのは箱をボコりと穴を開けると、そこから缶ビールのロング缶を取り出したのだ。


「ん?」


 続いて、次女の犬神飛鳥がこれまた箱をボコりと開けてそこからチョコレートを取り出した。魔王様の聡明な頭脳はそれらの中にビールやチョコレートがあるという事を理解するが、一つの疑問を覚えた為、尋ねる。


「烏子に飛鳥よ。それは何をしているのか? 中にある物を全て取り出さぬのか?」

 

 プシュっとビールのプルトップを開けた烏子はグラスを用意すると、魔王様にもビールをお裾わけし、それを魔王様が受け取ったところで乾杯。


「これはねぇ、12月の25日。クリスマスの日まで毎日1本ずつ飲むアドペントカレンダービールというものだよぉ、何が出てくるかわからない楽しみがあるよねぇ」

「魔王様ぁ! 飛鳥のちょこもどうぞ!」

「ほぉ、飛鳥の方もアドペントなにがしであるか?」

「うん! コストコでお姉ちゃんに買ってもらったの!」

「くはははは! どちらも美味い! そして興味深いぞ!」


 あまり興味なさそうに遠くでドロテアがコストコで買ってもらったハモンセラーノ、生ハムの原木を切ってバゲットに挟んで食べながら「何がたのしいのかわからぬのぉ」と呟く。そんなドロテアのところに烏子が向かうと生ハムを切るナイフを預かり自分が食べる分を切ってビールのおつまみにする。


「実に面白そうであるな! くははははは!」

「そう言うと思ってたのでぁ、魔王様もやりますかぁ?」


 とは言っても烏子も飛鳥も本日分の物を開けてしまっている。まさか、禁じ手として明日の分を開けようと言うのかと思ったところ……烏子が持って来た物は、レゴブロック。


「アドベントカレンダーのレゴ。2024年ハリーポッター。じゃじゃーん!」


 それはミニモデルが16個。ミニフィギュアが8個付属。毎日ひとつずつ開けていき、箱がガレージとなっており、全て開封するとクリスマスパーティーのワンシーンが出来上がる中々凝った作りだった。


「おぉ! これは実に面白そうであるな! 魔法使いのえいがぁのワッパが人形になっておるのか! 実に雅豊だ」


 魔法使いという言葉を聞いてドロテアもピクりと反応する。そして魔王様が1日目のミニモデルを取り出し、箱の日付が書いてある場所に置く、


「おぉお! ここに世界が組みあがるのであるな! 良いこれは実に良い」

「魔王ぉ! 貴様だけずるいではないかっ! 妾も開けたいぞ!」

「そんなお嬢にこれはどうだぁい?」

 

 と、ドロテアが癇癪を起こすと烏子はにぃと笑ってもう一つレゴの箱をドロテアの前に置いた。レゴアドベントカレンダー2024アソート。こちらはハリーポッターではない普通のレゴでクリスマスパーティーが出来上がるそれ、ハリーポッターではないので抗議の一つでもあるかと思ったが、特にそんな事はなく、ドロテアはアドベントカレンダーを持ち上げて、

 

「これは妾の物で良いのだな?」

「そうさぁ。妾の物さぁ!」

「クハハハハハ! 良かったであるなドロテアよ!」

「……そうだの、ふははは! これで毎日に張りが出てくるという物」

 

 そして、魔王様とドロテアはアドベントカレンダーの恐るべき魔力に苦しむ事になる。毎日、一日一個開ける仕様故に……

 

「ぬぉおおおおお! 明日の分を……」

「分かるぞ魔王。妾も全部開けてしまいたい……」

 

 翌日分に指を向ける二人に、飛鳥が止める。

 

「魔王様、ドロテアちゃん! ダメだよ! クリスマスまで一つずつ開けていくんだから!」

「そうそぉ! こいつの誘惑に打ち勝ち、クリスマスを迎えた時ぃ、西洋の奇祭にあやかった我が家のパーティーがいっそう光かがやく事だろうぉ! さぁ、大魔王様に、世紀の大魔導師よぉ! その突き刺した指を戻し、邪念を捨てるのだぁ!」

 

 烏子にそう言われ、魔王様とドロテアは踏みとどまる。二人が作り上げるアドベントカレンダーもパーティーを行なっている。これと同じようなパーティーを犬神家で……烏子の作る料理は控えめに言ってめちゃくちゃ美味しい。魔王様はもちろん、数万の世界を超えてきたドロテアですら食べた事がない程の美食の数々……このアドベントカレンダーを我慢して1日一個ずつ楽しめば、烏子の言うパーティーを、二人は想像を絶する程のそれを味わえるであろうと確信した。

 

「うむわかった」

「やむなしじゃな!」

 

 地球の文化、アドベントカレンダーという物の奥の深い文化を魔王様とドロテアは知りクリスマスの日を楽しみにしていた。

 

 が……クリスマスというXデーに世界に終焉をもたらすプレゼントが送られてきよう事など、わいわいと今日も楽しい晩餐を食べている四人は知るよしもなかった。アドベントカレンダーを進めれば進める程に四人の別れが近づいているという事も……

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