【幕間11】魔王様と超魔導士のイオンお昼ご飯
「魔王様ぁ、お嬢。2000円置くのでぇ、何か買って食べてねぇ」
「うむ! 行ってくると良い」
「くろこ、気をつけるんじゃぞ」
本日は昼前に烏子が職場の大学に行く事になり、テーブルの上に1000円札が2枚。魔王様と超魔導士ドロテアの二人のお昼ご飯としてそれぞれ1000円ずつという事なんだろう。それを見つめ、超魔導士ドロテアが言う。
「人間とは何処も行きつく先は貨幣経済に縛られるのじゃな」
「余の世界では人間共は金や銀のコインであったな! 500円玉よりもデカいやつである」
「そういえばそうじゃったな。よくまぁあんな重い物を袋に入れて持ち歩いていたものよ。誠、愚かの極み」
遥か昔、地球でも紙幣になる前は金属がお金の全てだった。一説によるとある炭鉱夫がこれって紙でよくね? と言った事で金属より軽くて沢山作れる紙幣という物が登場したわけで、今や地球ではキャッシュレスの大波が押し寄せている。
「くはははは! 烏子はくれじっとかぁどぉや、ぺいとやらを使い支払ってもおるな! あれは中々に見事である」
「フン、貨幣経済という魔法が解けぬとよいがなぁ。しかし魔王よ。烏子は金を置いていった……故、これは妾達にクエスト(お使い)に行けと申しておるのではないかのぉ?」
「くはははは! そういう事であるな! じっとしていても腹のヤツは減る故、参るとするかドロテアよ」
「一世界の魔王如きとクエストとは……妾も落ちたものよ。して何処へゆくのじゃ?」
魔王様は目を瞑る。この世界において……三千世界の全てを知り尽くした超魔道士ドロテアとあらゆる美味を食らいつくした魔王たる自分ですらこの地球、そして日本なる場所には未だ知り得ぬ美味が存在する。そして、このドロテアをも満足させれる場所。
「い・お・ん! ここに参るとしよう」
「ほぉ、イオン。なんとも既視感の感じる名前か! 気に入った」
超魔道士ドロテアの言う言葉はあながち間違ってはいなかった。不滅である超魔道士ドロテアは永遠を生きる人間。そしてイオンもまたラテン語で“永遠”を意味する言葉、お客様への永遠のサービスを、グループが永遠に発展と反映を続けていきたいという願いが込められている。ただ世界を破滅させ続ける超魔道士ドロテアとは似て非ざる考えではあるが。
玄関で靴を履く魔王様、それをじーっとドロテアは眺めながら。
「魔法で転移せぬのか?」
「いたずらに魔法を使うべきではないと知れドロテアよ」
「魔法が使えなくなった事で貴様と同じくここに居座っておるが、魔法が使えるようになったら貴様もこの世界を必ず滅ぼしてやるからなぁ! 覚えてろ!」
そう言ってドロテアは飛鳥がもう履けなくなったお古の運動靴を履く。その姿を見て魔王様はドロテアに問うた。
「魔力が戻れば烏子と飛鳥がいても滅ぼすのであるか?」
「……知れたことじゃ」
魔王様はじっとドロテアを見つめ、ドロテアの瞳に真実を見ると扉を開けた。外出する際に合鍵を渡してもらっている。それを魔王様は大事に首からぶらさげている。
「スマホでロックをかければよかろう。魔王よ!」
「余はそのような物よりも鍵を欲する! くはははは! 見よ、この洗練された鍵のデザイン」
そう言ってディンプルキーを魔王様はドロテアに見せる。はぁとため息をついてドロテアは烏子から支給されたスマホを使って切り忘れた部屋のエアコンを切る。魔法は存在しないが、これらのツールはドロテアには興味深い物だらけだった。二十代から三十代までの成人男性に見える魔王様に対してドロテアは10歳かそこらの少女。いずれも顔がいい。並べば親子に見えるのは必然。
「うわぁ、綺麗な親子」
「ほんとだ!」
と道行く人々の声を聞いてドロテアは地団駄を踏む。
「どちらかと言えば魔法を生み出した妾が親で、魔王。貴様が子じゃろうが!」
「くはははは! 自らを見てみると良い。貴様は完全な童である」
「ぐぬぬぬぬ!」
魔王様はテクテクと歩き、魔王様の歩幅に合わせるドロテアはやや小走りになる。今まで全て魔法でなんとかしてきたドロテア。運動なんて数十万年前にしたかどうかで、地面につまづく。
「うおっ」
地面に激突すると思ったが身体が宙に浮く。魔法か? いいえ、魔王様がドロテアの背中を掴んで持ち上げている。
「くーはっはっは! 超魔導士ドロテアよ。気を付けるとよい」
「うるさい! うるさい! うるさぁーい!」
以前は軽く魔王をあしらっていた自分が、手も足もでないのである。その悔しさときたら今迄に感じた事のないものだった。そんな超魔導士ドロテアと魔王様の目の前に聳える巨大宮殿とも思える大きさのイオンモール。
「ほぉ、みごとな建造物じゃ。この地域の王でも住んで居るのか?」
「くはははは!! 余も最初はそう思ったが、ここは巨大な市。すーぱーである」
「ばかな!」
喜々としている魔王様と戦々恐々としている超魔導士ドロテアは自動扉の前に立ちイオンモールへと入る。
「なんというだだっぴろい! 王宮の中でもこうも広くなかったぞ!」
「ほう、貴様王宮に住んでおったか? 確かに余の城よりも広く、さらに快適である! くははは!」
「遥か昔、妾が超魔道士でも破滅の魔道士でもなかった頃、王宮魔道士であったころじゃ。忘れよ。それよりも腹のヤツが減ったといっておるんじゃ」
ドロテアがお腹に触れてそう上目遣いに言うので魔王様は「ふむ、まずはここであるな!」と魔王様が指さした先、広いスーパーの端のほうにカルディ等とならぶ和菓子屋。
「口福堂のおはぎは実にうまい」
「なんじゃ、黒いぞ?」
400円を支払いおはぎを2つ購入。近くのベンチに並んで座り、自販機でホットの緑茶を購入し、それもドロテアにわたす。
「見た目に反して上品な甘さじゃな。まぁ、うまいと言っておこう。まさか……幸福と口の中が幸せになるから口福としておるじゃなかろうな?」
「かもしれぬな! くはははは! 実にうまい言葉遊びである!」
イオンモールに高確率で出店している口福堂の名前の由来はだいたいドロテアの考えでただしい。補足すると、口腹という食事をするという意味と幸福をあわせた言葉である。美味しいは楽しい、幸せであるという意味が込められている。
食事の前にまずは和菓子とお茶で一休みという古来の日本人の楽しみ方を二人がしているとは二人には知るよしもない。今はデザートといえば食後だが、江戸時代等ではお菓子を食べてから食事(酒)等の流れが多かった。
「さて、腹が落ち着いたところで食事とするか! フードコートである! 余の魔王城の食堂を遥かに凌駕するラインナップに驚きを隠せぬ!」
「フン、どうだのぉ」
と魔王様に連れられてドロテアはイオンモールのフードコートを覗く。多くの席に、多くの店が出店、フードコート以外の場所にも食事処が多々存在している事に目がまわりそうになった。
「なんじゃここは……この建造物の中だけで生活圏が確率されておる。忌々しい神々が生み出そうとした永久機関ではないのか?」
「くはははは! 労働者と消費者による供給期間の完成形である! ドロテアよ。何を食す? 本日の余は……ケンタッキーとしよう!」
「貴様と同じものなどは妾の誇りが許さぬ。そうじゃな。妾はあれじゃ!」
ドロテアが指さした先、長崎の誇る最大勢力。皿うどんがトレードマークの……
「リンガーハットであるか! あれは確かにうまい。余はちゃんぽんが好みである! 烏子の奴はさらうどんにて酒を飲んでおった」
「むむむむむ、妾はこれじゃあ!」
「ほぉ……」
リンガーハットの裏の主役とも言うべき、餃子定食をドロテアは指さした。これもまた実に美味い。魔王様のケンタッキー、ドロテアのリンガーハットの順番に注文を依頼し、呼び出しベルを渡される。それを持ってドロテアは「なんじゃこれは?」と魔王様に聞くが魔王様はにんまりと笑ったまま、何も言わない。
そして数分後。
ピーピー! ガタガタガタ!
「うぉおおお! なんじゃこりゃああ! 動き寄った、鳴きよったぁ」
「くははははは! 驚きよったかぁ! 余も最初は大爆笑であった! 実に面白い仕組みである。それを持って餃子定食を受け取ってくるとよい」
「これをか? 騙してるわけではないようじゃの……」
ドロテアが席を立つと同じくして魔王様の呼び出しベルが鳴った。魔王様もケンタッキーのランチを受け取りに行く。二人は席につくと「では食べるとするか?」「そうじゃの」と二人は手を合わせて「「いただきます」」とそれぞれの食事を食べ始める。バリ、むしゃ。むぐむぐと二人は無言で食べ魔王様は満面の笑みでドロテアをじーっと見つめる。それに業を煮やしたドロテアが「うまいの」と一言、それに魔王様は大満足した表情で「そうであろう! そうであろう! くははははは!」と笑う。
そんな二人の知らないところで、二人と一緒に転移した全てを破滅させる魔法がゆっくりと、されど確実にはるか上空の宇宙で動き出している事をこの時の二人はまだ知らなかった。
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