魔王様、メガドンキ行こうよ!
11.新しい家族とメガ・ドンキへ!
マンションの下で大きなエンジンの車が停車する音が聞こえた。普段犬神家で使っている軽自動車・スズキハスラーとは桁違いだ。
そしてその車は誰かをこのマンションの下におろすとまた轟音を響かせて遠くまでエキゾースト音が聞こえる。実に近所迷惑であるが、この車は国民を蔑ろにする上級国民仕様の車である。
烏子は何事か理解している。魔王様以外の居候が政府お抱えの施設から帰ってきたのだろうという事。何故なら、魔王様が一時期あの慰安所に軟禁されてから解放される際も先程と同じ爆音の高級車に乗って帰ってきたからである。そんな車種を認めているのが驚きである。
しかしながら烏子は車好きであり、魔王様も日本で免許取得する程に自動車に興味津々。少しばかりあのけたたましい爆音を聞いて表情が柔らかくなる。機会があれば運転してみたいなと思いながらこの部屋にやってくる者を待っていた。やがて廊下を歩く音が聞こえる。
珍しい鈴のような物がブーツについたファッショナブルな靴を履いている持ち主はわざと足音をガン、ガンと立ててこの部屋にやってきている。分かりやすい怒りの表現である。
「くそう! とんでもない目に遭った……」
ガチャリとドアを開けると共に10歳くらいの少女が据わった目で言う。
「おかえり! ドロテアちゃん」
飛鳥がドロテアの帰りを歓迎した。
「おかえりお嬢ぉ」
烏子もそれに続くと、
「なんなのだあやつらわ! 妾を実験動物のように……くそう!」
涙無くしては語れない程の怒りに可愛い顔を歪めてドロテアは言う。
「魔法を使えぬドロテアの帰還か」
魔王様がリンゴを齧りながら言った。
「……ただいまじゃ」
魔王様と同じくドロテアも政府監視下の中身体検査諸々を受けて三日間の軟禁の後、ようやく解放されて犬神姉妹の住むマンションに送られ今に至る。魔王様と違い、誰かの言う事を聞くという事に慣れていないドロテアは一つの場所に閉じ込められての検査の日々は苦痛でしかなかった。
「絶対にぃ、絶対に力を取り戻したらこの世界を滅ぼしてやるぅ!」
と激おこぷんぷん丸なので、烏子はふぅむと考える。このドロテアの機嫌を取る為に、
「お腹空いてるでしょ? じゃあ、よく頑張ったお嬢へのご褒美に今からあそこに行こうかぁ?」
あそこと言う言葉を聞いて飛鳥と魔王様はピンと来た。そう、あの倉庫型店舗テーマパーク仕様スーパー。
そうコストコへ!
「今日はメガドンキだ! あそこのお惣菜はギガうまだよぉ!」
「えっ!」
「ぬ?」
二人のアテが外れた。ドンキ・ホーテ近所にあるのでたまにいくのだが、メガドンキは魔王様も行った事がない。あのそこら中に物が所せましと置いてある騒がしい店と表現するのが正しそうなドンキホーテ。
目が点な三人に烏子は簡単にメガドンキについて説明する事にした。ドンキホーテは都市部の忙しい人向けのお店として成り立っており、提供商品もサービスもそういった顧客をターゲットに絞って展開していて24時間営業という便利さを追求している。
方やメガドンキは同じく積み上げ式店内だがファミリー層向けにターゲットを絞っており、店舗の大きさと広さもドンキより広めである。その為ゆったりと落ち着いた環境で買い物を楽しむ事ができるのである。
「ふふふふふ! 古今東西ディスカウントスーパー戦国時代の今、メガドンキは一石を投じるスーパーと言えるねぇ」
普段研究員として長い拘束時間のある仕事をして不定期の休みを強いられる烏子の楽しみはお酒を飲む事。されどまだ幼い妹がいるので外に飲みにいくという事は基本選択肢に入らない。結果として様々なスーパーで買い物する事が趣味となっている。
恍惚の表情でメガドンキを語る烏子を飛鳥はいつものお姉ちゃんだと思い、魔王様とドロテアは自分達の元の世界でも好きな事になると距離感がバグっていてグイグイくる謎の行動力を発揮する奴がいたなと魔王様は感慨深く思い、ドロテアは思いっきりドン引きしていた。されど、烏子の出す食事には定評があるのでドロテアはぶっきらぼうにこう言った。
「妾はなんでも良いがのぉ」
そう言うドロテアの心の中を読んだかのように烏子はにんまりと笑ってドロテアを見つめる。
「なんでもいいかぁ。いいねぇ! メガドンキはなんでもあるからねぇ」
烏子の言った言葉には激しく語弊があるが、そのくらいなんでも揃うのがドンキホーテ。さらに食材系に強いのがメガドンキである。
と言うわけで、軟禁から解放されてショバに出所できたドロテアの為、美味しい物や楽しい物を買いに一行はメガドンキに向かう準備を始める。大きなバッグに氷を入れて、外出する格好に着替えたら地下の駐車場へと降りる。魔王様は遮光グラスにドライバーグローブ。烏子、飛鳥、そしてドロテアはサングラスをかけて愛車・スズキハスラーに搭乗した。
ドンキホーテは近所にあるのだが、今回向かうメガドンキは車で下道2、30分程のところにある。高速を使って行くコストコ程遠くはないが、やはり車がないと不便な場所に立地していると言う事はその分店舗の広さも期待できる。ドロテアは車に乗るなりお酒を煽り始める烏子に少々引いていた。
車が走り始めると、ドロテアは物珍しそうに車の外の景色を楽しんでいる。と言うのも先ほどドロテアをここまで乗せてやってきた車はお世辞にも丁寧な運転という物からかけ離れている。帰還時にドロテアの機嫌が悪かった一因はまぁ間違いなくあの車に搭乗していたからなんだろう。初めて日本にやってきた海外の人のようにドロテアの空いた口は塞がらない。
カーナビが魔王様を補佐しメガドンキの場所を指してくれるのでそれに従って車を転がすだけ、烏子は到着までにロング缶2本くらいかなと自分の酒を飲むペースで時間を測っていた。
「おやぁ、案外早くついちゃったねぇ」
と言って、開けたばかりの2本目のロング缶のビールを烏子はぐいっと上を向いてごきゅごきゅと二、三口で飲み干してしまう。そんな烏子を見てドロテアはやっぱりドン引きしながら眺めていると魔王様の声が響く。
「ではみなの者! めがどんきぃとやらに出陣であるぅ!」
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