【幕間9】魔王様は手作り餃子の奥の深さを知る

「明日は休みになったー! 本日は餃子を作るぜぇ! ニンニクヘヴンだぁい!」

「やったー! 餃子だぁ!」

「ぎょーざぁーであるか? なんだか分からぬが、飛鳥が喜ぶという事は美味いという事であるな! クハハハハ! 良い」

 

 ホットプレートを用意、ニンニク、ひき肉、ニラ、キャベツ、生姜、各調味料。それらの具材を烏子が混ぜ合わせてタネを作る。魔王様はこの雑な調理過程でどんな物が出来上がるのか見ていると、烏子は餃子の皮を持ってくる。

 

「お楽しみの手作りたーいむぅ! 飛鳥は餃子作りのキット使おうねぇ?」

「うん!」

 

 烏子が器用に餃子を作って、飛鳥が餃子を作るキットに皮を乗せてタネを乗せて餃子を作る。しばらくその様子を眺めて魔王様も一枚餃子の皮を摘むと餃子のタネを見よう見まねで包む。

 

「ふむ、実に奥ゆかしい食べ物であるな?」

「魔王様上手だねぇ」

「魔王様上手!」

「くーはっはっは! 上手であるか! クハハハハ!」

 

 三人は大きな餃子や小さい餃子、タネが漏れてしまった物など作るだけでも楽しいそれを延々と100個できるまで作り続けた。100個できるまでにタネがなくなったので、チーズとジャムを入れたアタリを作って完成。

 

「これをどのようにして食べるのか?」

「それはねぇ! このホットプレートを使って焼くんだよぅ! 焼きながら食べる。鉄板焼き料理の一つだねぇ。油を引いて……」

 

 餃子を綺麗に並べていく烏子。しばらくするとパチパチといい感じの音と共に香ばしい香りが広がってくる。魔王様も食べなくてもこれが美味しいものだとすぐに察知。しばらく焼いていると、烏子は解いた小麦粉入りの水を入れてホットプレートに蓋をした。


 ジュ……ワワワァアアアア!

 

 小気味よい音が広がり、魔王様の尖った耳がピクピクと反応する。

 

「ふむ……これは何をしているのか?」

「ふっふっふ! 蒸し焼きにしてるんだよぉ! 超美味いからぶっとぶぜぇ! 魔王様ぁ!」

「羽ができるのー!」

「羽根? 理解できぬな」

 

 蓋を取ると綺麗に餃子が蒸し焼き上がっている。それをフライ返しで器用にお皿に盛ると一面びっしりと小麦粉の焼けた膜で繋がっている。

 

「これが羽。ポン酢にラー油を入れて、飛鳥は少しにしようねぇ? 食べて見てぇ」

 

 魔王様と飛鳥は言われるがままに、餃子にタレをつけて、フーフーと冷ましてからゆっくりと餃子を口にする。

 言葉にするまでもない。魔王様と飛鳥の表情から美味しいという文字が飛び出てきそうだった。

 

「これはー! 美味い! 実にうまいぞ!」

「魔王様美味しいねぇ!」

「うむ! これは飛鳥が作ったものであるな! 実にうまい!」

「魔王様の作ったのも美味しいよー!」

「クハハハハハ! 余はぎょぉざぁを作る事も極めたという事であるな!」

 

 冷蔵庫から烏子は微炭酸のグレープサイダーと、自分。そして魔王様用のビールを持ってくる。餃子といえばこれだろうと言わんばかりに、

 

 三人はそれぞれの缶をカツンと合わせて、どこでも共通の、

 

「「「乾杯!」」」

  

 んっんっんと烏子は軽々とビールを一缶飲み干して「ぷひゃああああ! うめぇええ! もう1本」と冷蔵庫から2本目を取り出す。魔王様は餃子をパクりと食べて、ビールを一口。

 

「おぉ! なんとも形容し難いうまさである!」

「ジュースと食べると美味しい!」

 

 餃子のニンニクと炭酸の相性の良さといえば、姉妹都市くらいの仲のよさである。沢山ある餃子を楽しんでいると、烏子が、酢と胡椒を持ってきた。

 

「お二人さん。酢胡椒で食べる餃子も中々だよぅ」

 

 烏子が美味しいという物は総じてハズレがない。烏子の仕事が忙しい時以外はいつも手料理を食べている飛鳥としても周知の事実。魔王様はまが居候になって日が浅いものの烏子の料理上手に関しては感心している。

 

「烏子が言うのであれば間違いないのであろう! いただこう」

 

 パクりと魔王様が口にした餃子をしばらく咀嚼。そして魔王様は開眼。

 

「うむ! うまい! そしてチーズの入った当たりであったな! これもまた悪くない」

「魔王様もビールおかわり入るかぁい?」

「いただこう!」

 

 流石に100個も作ったので三人では食べきれない。残った分は冷凍して、また別の機会に食べるもよし、鍋の具として使うもよし、揚げ物の時に揚げ餃子としてアレンジするのも悪くない。

 魔王様は自家製、ホットプレートで食べる餃子というご馳走を知り、この世界の深さをさらに知った。

 

「この餃子にも弱点があるんだよねぇ」

「ほぉ、一見すると完璧とも思える食べ物であるが? それはいかに?」

「餃子に限らずなんだけどねぇ。ホットプレートで調理すると、部屋の中に匂いがつくかんねぇ……これが問題かなぁ?」

 

 なるほどと魔王様は、部屋の匂い、そして煙や油の見えない汚れに対して手を掲げた。

 

「余の魔王城を清潔に保つために作った魔法を使ってやるとしよう! バニッシュ!」

「うわぁ! 魔王様、凄い!」

「ほえぇえ!」

 

 なんという事でしょう。マンションの部屋が、新居かと言わんくらいに美しく真っ白に変わっていくではないですか。

 そしてこれは犬神家の部屋だけでなく、マンション全体に及んでおり、新築みたいに綺麗になった事件として一時期話題になった。

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