9.魔王様とコストコのフードコート

 何を食べても基本美味しいんだろう。何を食べようかと三人は考えながら、宅配ピザLサイズの二倍はありそうな巨大なピザが目を引く、それが一枚2000円しない価格というのがコストコクオリティである。

 180円で巨大なホットドックにフリードリンクまで付いているなんてまず日本のフードコートではお目にかかれないだろう。フリードリンクは入店時に購入しているのでホットドックを購入してもカップは貰わない。


 スーパーや量販店のフードコートといえば、一時期ネット界隈では底辺が食事をする所だなんて言われていたが、烏子はフードコートで食事をする事が底辺だというのであれば自分は底辺の人間で構わないと思っていた。

 それだけ烏子にはフードコートという場所が家族の団欒としての思い出の場所だったりするので単純に好きだった。

 言って、飲む専門の自分はあまり食べれないけれどとも思った。

 

「決めたぞ!」

 

 魔王様が指を差した先、それはやはりと言うべきか……

 

「魔王様はホットドックだねぇ! 一度食べて欲しいよねぇ」

 

 と烏子は笑う。

 飛鳥は魔王様と同じ物を選ぶのかなと思いきや、メニューを眺めてどうしようか迷っている。子供が食べるには単純に量が多いので悩んでいるのだろう。

 烏子はここで助け舟を出す。メニューをいくつか指さして、自分自身も指さしてみせる。要するにシェアして食べようか? というサイン。

 それに飛鳥は目を輝かせてうんうんと頷いた。飛鳥の選んだ物は。

 

「ミネストローネとローストポークサンドイッチ!」

 

 中々の高カロリーな組み合わせ。

 烏子はスポーツジムを契約し毎週水曜日は欠かさずトレーニングをしている。悲しいかな小学生の妹とは代謝が違うのだ。

 

「魔王様は他には何か食べるかいぃ?」

 

 魔王様はふむと頷くと巨大なピザを指さしたかと思うとその指を少しずつずらしていく。チキンステック&ポテト。

 これはシェアして食べるつもりなのだろう。


「あれであれば皆で分けながら食べられるのではないか? クハハハハ!」

 

 それには飛鳥も瞳を大きく開いて喜んだ。

 

「うん! 飛鳥もチキン食べたーい! 魔王様もわけわけしよーね!」

 

 メニューが決まったところで並んで注文を厨房のスタッフさんに伝えるとここでも烏子はクレジットカードを用意して支払う。

 そしてここで先ほど渡されていた箱が役立つ事になる。どれもアメリカサイズのフードなわけで大きい。箱に入れて運ぶのである。魔王様はホットドックを受け取ると烏子にトッピングを教わった。

 

「あそこで、玉ねぎとレリッシュにケチャップとマスタードつけてきてねぇ」

 

 魔王様は他のお客さんがホットドックにトッピングしている様子を見て頷く。

 

「ほぉ! これは実に良いな! 自分で好きな物をつけて食すようになっているのか! クハハハハ! 魔王城にも一つ用意したい物である」

 

 そう言って魔王様も自分のホットドックに玉ねぎとレリッシュ、そしてケチャップにマスタードを適量つける。

 

 魔王様が自分のホットドックを完成させると席を見つけた飛鳥が手を振る。

 食事時に座れる席が空いたのは実に運が良かった。魔王様は炭酸飲料も人数分入れると烏子と飛鳥が待つ席に到着し、腰を下ろした。とてもジャンクで美味しそうな匂いのがする。

 食事をする前の儀式、飛鳥が手を合わせて笑顔で二人を見るので烏子も手を合わせる。そして魔王様も飛鳥に負けず劣らずの満面の笑顔で手を合わせる。魔王様達魔物にはない文化、されど実に心躍り、素晴らしい文化だと魔王様は頷き言った。

 

「「「いただきます!」」」

 

 魔王様はホットドックを、烏子と飛鳥は半分こしているローストポークさんドイッチに齧り付いた。子供が大好きな味が口に広がる。

 大人になるとこの類の食べ物とは段々距離を置くようになっていく。安価でお腹が一杯になる食事。アメリカの肥満を象徴するようなそれは地味に美味しい。食べすぎるとヤバいんだろうな。しかし、そういうものは総じて上手いのである。魔王様は口元についたケチャップを拭い、再び牙の生えた口でパクりとかぶりつく。

 

「クハハハハハ! 美味い! 烏子の作る料理程ではないが、これはこれでいけるな! ちきんとぽてぇとも美味い!」

 

 コストコのフードコートは異世界の魔王様のお墨付きをもらえる程には美味しいという事が確定した。美味しそうに食べる魔王様に飛鳥も倣う。

 そこまで沢山食べる子じゃない飛鳥、むしろ少し食が細いのが心配だったが魔王様が来てから魔王様がなんでも美味しそうに食べる姿を見て飛鳥も同じように元気よく食べてくれるようになった。


 そんな二人を見ながら烏子も食べ進める。半分こしているとはいえ、飛鳥食べる量より大きくローストポークサンドイッチを割っているわけで意外ともうお腹が一杯になってきている烏子。学生時代はこれでも陸上の運動部に所属していた。その頃はマクドナルドのセットを食べてから自宅で夕飯とか余裕だったのになぁと二十代前半なのに年を取ったのだろうかと少しばかり自己嫌悪に陥りながらミネストローネを啜る。とてもじゃないが、チキンステック&ポテトは遠慮しておこう。


 そんな烏子をよそに、飛鳥は魔王様と笑いながらメニューを指さしていた。そう、デザートである。

 ソフトクリームにスムージー。二人はきっとソフトクリームを食べるんだろうが自分はもうソフトクリームが入る胃のスペースはない。

 クレジットカードではなく、小銭入れを飛鳥に渡して魔王様と一緒に買いに行かせる。お金の勉強も時折させないといけないなと、親という存在はこういう時どうしているのか烏子は手を繋ぐ魔王様と飛鳥を見つめる。

 思った通り飛鳥と魔王様はソフトクリームを持って戻ってきた。

 

「烏子よ、こぉひぃであれば飲めるであろう?」

 

 と言ってホットコーヒーを渡してくれる。

 これは素直にありがたかった。お酒の販売はフードコートではされていないので一息つくのに丁度コーヒーが飲みたかった。

 

「魔王様ぁ、あざぁーすぅ」

 

 魔王様は北海道ソフトクリーム。飛鳥はパイナップルのソフトクリーム。二人はスプーンで食べて、お互いのソフトクリームを交換して食べて笑い合っている。

 やはり、フードコートはいつの時代もいい場所だ。

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