【幕間8】魔王様、忘れ物届けクエストにて

 ある日、烏子が珍しく仕事が休み、朝食を飛鳥と一緒に食べて、小学校へと送り出した後……

 

「飛鳥ぁ、体操服を忘れてるねぇ。靴紐を結んだ時に置き忘れたのかなぁ? 仕方がないなぁ、届けてあげようかぁ?」

 

 と体操服を持って家を出ようとした烏子を魔王様が「烏子、しばし待つと良い!」と言うので、食後のバナナを食べている魔王様に振り返る。コーヒーのお茶請けに魔王様はいつもバナナを好む。

 

「どうしたんだぁい? 魔王様」

「それは飛鳥の必要な衣装であるな?」

「そうだねぇ。運動するときに汚れてもよくて動きやすい服だよぉ」

「良い! 貴様ら姉妹には世話になっている。余が届けてやろう」

 

 魔王様にお使いを頼むと言うのもなんだか面白そうだと烏子は小学校までの地図を書き、事前に小学校に連絡を入れておく。

 そして……

 

「魔王様、お小遣いだぜぇ。1000円を進呈するのでぇ、帰りにお菓子でも買って食べてくださいなぁ」

「ほぉ! 1000円というと、うまい棒が100本買える計算となるな」

 

 魔王様はうまい棒でお金の計算をする。国から魔王様に支援金はあるのだが、魔王様は受け取っていない。魔王たる者、無償の施しは受けないと国のお偉いさんを困らせた。

 よってそれは補助金という形で犬神家が受け取っているのだが、烏子は意外と稼いでいる。そして両親の遺族年金もあるので魔王様一人分の生活費くらいは誤差の範囲の為、一旦預かっている。こうしてたまに魔王様もお金が必要な時があるだろうとそこから烏子は魔王様に渡している。10000円を以前渡したのだが、魔王様は飛鳥とアイスとジュースとうまい棒しか買ってこなかった為、今後は1000円で様子見をしている。何か高額の物を魔王様が欲した時に考えればいいかと。

 

「しかし、烏子の奴、恐ろしく絵が下手であるな! くーはっはっは! どこがどこか全く分からぬな」

 

 まさかの立体地図を描いて渡した烏子に対して魔王様は空中浮遊すると、学校の位置を探す。明らかに大きな建物、そして子供たちが大勢いる。

 

「あそこか……ん? あれは?」

 

 魔王様は小学校へといく道の道中で、蹲っている老男性を見つけるとそこに向かって飛び、降り立った。

 

「そのほう、襲撃にでもあったか? 傷は浅いぞ」

「イタタタタ! ちょっと腰を痛めてしまって……」

 

 負傷している老男性、成程と魔王様は腰の患部に触れると魔法を使う。致命傷ではないらしいが相当痛がっている男性に魔王様は尋ねた。

 

「まだ痛みはあるか?」

「そりゃぎっくり腰だか……あれ? 痛くない」

「そうか、それは良かった! では余は飛鳥がこの“たいそぉふぅく“を待ち望んでいる故先を急ぐ」

「貴方、小学校にいくんですか?」

「さよう。余が世話になっている姉妹の妹、飛鳥の忘れ物を届けるクエストである! くーはっはっは! 冒険者のようであるな?」

「では、一緒に小学校に行きましょうか? 私は一覧台附属小学校の教頭をしてます。佐竹と申します」

「何か分からんが、佐竹は偉い奴なのであるな! 良きにはからえ! 余は南はザナルガラン、魔王様、または闇魔界の御方おんかたと皆呼ぶ。魔王アズリエルである。くーはっはっはー!」

 

 腰に手をやり王者のポーズ。教頭の佐竹とともに小学校に到着すると職員室へ、すぐに校長とその他教員達が集まってきて教頭に彼が国の来賓である事。そして居候先の犬神飛鳥の為に体操服を持ってきた事。

 

「ではすぐに犬神さんの教室に、いえ! 犬神さんを呼び出して……」

「よい。ここは飛鳥達が学びを得る所であろう? その邪魔を余ができようか? クハハハハ! 物事には領分というものがある。これは飛鳥に渡してもらえればよい。がしかし、少し学びを得ている飛鳥を見てみるのも一興であるな!」

 

 という事で、こっそりと魔王様は算数の授業に励んでいる教室を覗かせてもらった。真剣な顔で鉛筆でノートをとり、手を上げて発言、黒板に答えを書く。普段の飛鳥より幾分が凛々しく見えた。教師達に礼を言って小学校を後にしようとした時、教頭の佐竹が、

 

「まおーさん」

「おぉ、佐竹! 見送りご苦労である!」

「腰の件、本当に助かりました」

「クハハ! 気にするでない! 余はゆかりを大事にする故な」

「今度、食事でもご馳走させてくださいな」

 

 魔王様はそれに対してニッコリと笑って頷いた。施しではない繋がり、それこそ至宝であると、そんな時学校に給食配送のトラックが入っていく。それを見て魔王様は指をさす。

 

「あれは何か?」

「生徒達の給食、昼食ですね。栄養をしっかりと考えられている献立ですよ。最近の小学校は給食が貧相だと言われていますが、ウチは食育にも力を入れているので美味しいですよ!」

 

 なるほど、そうであれば……

 

「ならば余は給食を食べてみたいぞ!」

 

 まさかまさかの回答に教頭の佐竹は少し考える。魔王様を呼んでの給食会を開く事ができないだろうかと……

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