8.転売も普通に許されているコストコに慄く魔王様
嗜好品や薬局用品を最後に見て回る事になった。まずはコーヒーから。
ネスレ ネスカフェ クラシック インスタントコーヒーの三個パックが800円前後で販売されていたのでそれを烏子はカートに入れる。他にもカプセル式のコーヒーメイカーのポーションが公式販売より安く売られていたのでそれも購入。
お次は何をと思った時。
「同じ物ばかり大量にカートに入れておるな?」
魔王様が他のお客さんのカートを指差して言う。
「自分の分以外にも友達の分……あるいは転売用かもねぇ。コストコは転売推奨してるからなぁ」
日本では転売という言葉は悪しきもののイメージが強い。
実際、子供用の玩具を子供が買えずに高額転売されているのは需要と共有が逆転する異常な事態だと思われるが、コストコにおいては品薄商品の購入には制限もあり、逆に大量入荷で安く販売されている人気商品などを会員が買えない状況にはなりくい。
「それで生活ができるのかは不明だけどぉ、小遣い稼ぎしてる人はいるらしいねぇ」
それも会員が少なかった時の話で、最近であれば店舗も増え、会員になった方がお得だと消費者も分かっている。
「転売ヤーですら、会員を増やすための足がかりにしてるやり手企業だねぇ」
生業の本質が、他のスーパーと違う。当然商売は営利目的であるが、日本はそれを全面に持ってくることを美徳としない。
「いい加減、気づかないと日本のスーパーやばいよねぇ」
「ふむ、がこのコストコにも弱点はあろうな? うまい棒一本を買って帰るという事ができぬ故な!」
成程なと烏子は頷く。
「それもそうかぁ、そういう意味では棲み分けはできているのかもねぇ。日本って世界的にみてもコストコの店舗数がかなり多い方なんだよぉ。会員制スーパーってのが定着するのに時間がかかったけど、定着してからは早かったよねぇ。ソースは私さぁ」
「お姉ちゃんコストコ大好きだもんね?」
「おうよぉ。飛鳥とゆっくり長く買い物できるこのお店は重宝するさぁ」
カートを薬局で置いている薬やその他が置かれているフロアへと停めると、そこで烏子は巨大なビタミン剤を一つ掴む。
「昔はこういうマルチビタミン系って買わなかったんだけどぉ、仕事の関係がらぁ、不足している栄養はサプリを使う事にしてんだよねぇ」
「飛鳥それきらーい!」
「クハハハハ! ラムネのように噛んだら激まずであったな!」
「噛んで食べるもんじゃないかんねぇ」
と呆れる。
「あとはマスク買っておこうか?」
コロナ時期よりマスクを常備している犬神家。
「貴様らこのマスクとやらをしている者がどこに行っても必ずおるな。それほどまでに病気に警戒しているのか」
「人類は脅威を一度味わってるからねぇ」
コロナウィルスが流行る前からマスクをしている人は一定数いたが、間違いなく感染症が流行った後の今の方が特に体に不調がなかったとしてもマスクを着用している人が増加していると烏子は思っている。
「ほぉ、それに打ち勝った烏子と飛鳥。そしてこの国の民、褒めてつかわすぞ! くーはっはっは!」
まぁ確かにあの時期は我慢我慢の連続だった。当時の学生は部活動の試合や修学旅行なども中止となり本当に辛かったろう。
「いやー、ほんと大変だったよねぇ?」
「学校に全然行けなかった……」
これ以上何か買う物はもうないと、烏子はカートを長蛇の列が連なるレジへと向ける。店員が手際よく商品を仕分けていく。
長い列だと思っていたが、支払いはカードを選ぶ人が大半である事も相まって烏子達の番はすぐに回ってきた。
大きな商品はカートに残したままにしていて良いので烏子もゴールドカードを取り出してささっと購入。
オイコスのヨーグルに関して、烏子は箱から取り出して予め凍らせたペットボトルを入れているバックに一つずつ丁寧に入れていく。そして箱の方は捨てずに飛鳥も魔王様に渡す。何事か分からない魔王様を差し置いて、飛鳥はその用途を知っているので魔王様に笑いかける。
買い物は全て終わり、コストコのバックに要冷蔵の商品は詰めてあるのでいつでも帰れる状態……だが、三人は帰らない。広い店内を歩いてショッピングをしたので小腹が空いてきた。
「フードコートでなんか食べて行こうかぁ?」
そこで魔王様は成程と理解した。皆、フードコートでの食事を受け取る際に商品の空箱に入れて受け取っているのである。一回で人数分受け取る事ができる先人の知恵である。
「よーし! じゃあ飛鳥と魔王様、好きな物を買いに行きましょうかぁ?」
昼時であれば大混雑、昼時じゃなくても基本的に混雑しているフードーコート。安くて量が多く、美味い。まさにアメリカとはこういうものだと主張しているのようなフードコートに三人は足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます