5.コストコの試食と魔王様②

「四種のチーズのピザでいいんですか? まぁ、間違いなく美味しいですけど」

 

 クワトロチーズピザ、直径40cm。税込1980円

 日本の宅配ピザを平然と上回る大きさで価格破壊、ちなみにフードコートのピザはそれをも上回る45cmで同じ価格である。


 それに魔王様は大きく頷く。

 他にも冷蔵販売のピザはあるのだが、このピザが一番魔王様の口にあったのと、もう一つ。

 

「これは大きい故、で長く楽しめるからな」

 

 烏子は一応言った。

 

「それなら家計から普通に出そうかぁ? と言いたいところだけどぉ。魔王様は魔王様のピザを私達に振る舞いたいんだよねぇ?」

 

 烏子は長年の友人のように魔王様にそう話しかけると魔王様はその通りと頷いた。それに烏子も頷く。

 魔王様の欲しい物も決まった。

 どの道烏子は自分の選んだワインも大量にあるので魔王様と一緒に飲む事になるだろうなと思って飛鳥が飲めるウェルチをカートに入れた。こうなるとワインとピザを引き立たせるサイドメニューも欲しくなる。コストコならではの安いナチュラルチーズに生ハムなんかが良いだろう。


 1000円未満のナチュラルチーズを発見。

 

「ル・ルスティック ブリー。これカマンベールなんだよねぇ。買っちゃおう」

 

 ありがたい事にナチュラルチーズが苦手な者はこの中にはいない。日本人はプロセスチーズに慣れているがやはりワインとの組み合わせはナチュラルチーズが一歩秀でている。それにおつまみにも料理にも使えるしコスパがいい。

 

「お姉ちゃん欲しいの二つ目ぇ!」

 

 烏子は苦笑して、しれっと生ハムも入れた。「三つ目じゃんねぇ」

 

 これもまた値段が少しだけ安く売られていた。

 新商品の生ハムという事で今買わないと売り切れるかもと。

 ノエルタパストレーという商品で三種類の生ハムが入っている。2500円ほど。スーパーで売っている国産生ハムと違って塩味が強そうでこれまた美味しそう。

 

「お姉ちゃん、三つ目入れちゃったもんねぇ! これは絶対美味しいやつだから家に帰ってみんなで食べましょうぉ」

 

 改めてカートの中を見ると、パン、ワイン、鶏の丸焼き、ピザ、チーズ、生ハム。物語の中の海賊が食してそうな食材で溢れている。

 

「くーはっはっはー! 実に良い! が、烏子よ。これらを見るに野菜がちと足りぬのではないか? 貴様、野菜もしっかり食べよと日々言っておるぞ? 飛鳥は育ち盛りであろう? 余の世界では冬には人間どもはパンと干し肉ばかり食べて病に伏せておる者も数多くいたからな!」

 

 そう、魔王様に痛い所を突かれてしまった。好きな物を購入していくと偏る野菜不足、決して野菜が嫌いなわけではないのだが、なぜかこうなる世の不思議。

 野菜コーナーはまだ魚コーナーと冷食コーナーを超えた先。

 

「野菜はこれからだよぉ。飛鳥は何か食べたいものあるぅ?」

 

 飛鳥は好き嫌いなく育ってくれた。烏子の料理の腕もあるが自分の妹ながらできた子だなぁと思う。

 飛鳥は魚のコーナを見て、茹でエビのシュリンプカクテルを指差した。確かにこれは美味しい。

 

「いいねぇ、ブロッコリーとタルタルソースであえようかぁ?」

「うん! 飛鳥それだぁーいすきぃ!」

 

 瞬時に野菜不足を解消する為の料理を烏子が提案するので、魔王様は感心する。料理の上でもさることながら頭の回転が早い。魔王具の参謀より、秀でている。

 飛鳥が何度もうんうんと頷く事からその料理はかなり美味しいのだろう。魔王様としてはそれぞれ素材そのまま食べても普通に美味しいと思えるが、この世界の料理のおいしさは異常だと思えた。

 特に烏子はどんな食材をも逸品料理に変えてくれる。

 

「烏子よ。貴様は錬金術師のようであるな。それは実に美味いのであろうな? 時にそこで試食を行なっておるぞ?」

 

 魔王様が指差す先、ブリの刺身の試食、それも試食というには大きすぎる切り身を配っているので列も凄い長く並んでも食べられるか怪しい程だ。

 コストコの肉や刺身の試食は人気故に目の前で打ち切られる事も多々ある。


「並びましょうぉ、魔王様ぁ。飛鳥ぁ。これ絶対美味しいやつじゃんねぇ? あんな大きさの試食中々ないよぉ」


※試食担当の人の采配なのか、適当だったのか、大の大人が頬張るようなサイズの試食が行われている時が極々稀にあります。 


 少し前で試食が無くなった……かに思えた。

 

「少し待ってくださいねぇ、次準備しますのでそのままお並びください」

 

 たまにある試食の継続配布、これなら十分試食ができる。

 

「ふふ、思惑通りぃ」

 

 と、烏子は笑う。

 

「お姉ちゃん凄い!」

 

 妹の飛鳥ですら感嘆する烏子の読みに魔王様も笑う。

 かなりのコストコマニアである烏子はある程度の店内運営について熟知していた。

 

「多分、これ売りたい商品だねぇ」

 

 だから、試食も長い事行われていると烏子は試食を受け取りながら呟く。

 

「普通に飲み屋とかでこの試食三つで600円とかでありそうな大きさだぁ」

「うむ! 食べ応えがあるな。くーはっはっは! しかし近所のスーパーでもこんな大きさではないな」

 

 コストコの試食は商品によっては丸まるもらえる事がある。

 有名なのはキャンディーバー(スニッカーズみたいなのね)などはこれ100円くらいするんじゃない? みたいな大盤振る舞い。


「ちょっと洒落にならないくらいの大量仕入れをしてるのとぉ、コストコの売り上げはカード会員なんだよぉ。だから売れるに越したことはないんだけどぉ。それだけ宣伝できるんだよねぇ。いやぁ、日本酒が飲みたくなるなぁ」

 

 試食したブリの刺身を買うべきか迷った挙句。美味しかったという理由で烏子はそれをカートの中に入れた。

 日本人の買い物は財布の紐が硬い傾向にある。それでもたまにはハメを外してコストコのカートがパンパンになるくらい買い物をする方がストレス発散になる。それが烏子の息抜きで普段寂しい思いをさせている飛鳥と楽しい時間を過ごすひと時。

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