【幕間4】定期検診にて魔王様は飛鳥と食券でホットケーキを堪能する

 魔王様は、地球の史上初となる別世界からの来賓という事で、ひと月に一回定期検診が行われる事になっている。病原菌のような物がない事が分かると次は魔王様の体調の急変などを心配される事になった。

 土曜日という事もあり、魔王様の事が大好きな飛鳥もついてきた。

 

「クハハハハハハ! 余は注射というものがあまり好きではないっ!」

「飛鳥も注射きらーい! 怖い」

「そうか、怖いか飛鳥よ! しかし、プスリと刺されて体液を吸われるだけである! 大した事なし! クハハハハ!」

 

 魔王様の血液は真っ赤、人間と変わらない。だが、どの血液型にも一致する物はなく未知の成分が満載なので健康診断の病院は頭を抱える。筋力、肺活量、運動能力、いずれも人間の……いや地球上の生物のそれを大幅に超えている魔王様。レントゲンに映る魔王様の身体の構造は人間に酷似しているが、骨格が鎧のようで人間ではない事を物語っている。

 

「以上で終わりとなります。魔王様、また来月お呼びしますので、お薬手帳をお忘れなくお願いします」

「うむ! ご苦労であった。貴様らも怪我や病気にならぬように努めると良い。なんでも三種類の病気が今同時に流行っておるらしい故な」

 

 魔王様の言葉、王の目線から相手を労る姿勢は政府関係者や病院の職員達からは意外にも人気であった。二時間程の検査を終えると病院のすぐ近くにあるレストランで食事ができる食券が渡される。

 人間ドックを受けた人と同じ扱いという事でこの後のレストランでの食事が魔王様は楽しみでもあった。今回は飛鳥の分も貰っているので二人で手を繋いで食券が使える施設に向かう。

 

「飛鳥よ何が食べたいか申してみよ! 政府とかいう連中、飛鳥の分の食事の券も用意してくれたらしい! 奴ら、今度褒めてつかわそう! クハハハハ!」

「飛鳥甘いのがいい! でも魔王様が食べたいのが一番いい!」

「くーはっはっはー! 憂やつめ! 余も甘い物が食べたいと思っておったところだ! ではあれだな。を食べに行くとしよう」

「飛鳥、ホットケーキだぁい好き!」

「余も大好きである!」

 

 二人が向かった場所は紅茶専門のカフェ、ホットケーキと紅茶のセットで一人2600円程の中々のお値段を誇る。本来、人間ドックの食券は500円くらいから高くても1500円程なのだが、魔王様に関しては来賓という事で近隣のお店でなんでも食べられるような特別な……所謂上級某民チケットを渡されていた。

 

「本日のオススメの紅茶とホットケーキになります。ごゆっくりどうぞ」

 

 パンケーキではなくホットケーキとメニューに記載があるのが少しばかり嬉しい。ホットケーキミックスという日本固有の最強の食材があるように、ふっくらとしたこのお菓子なのか? 食事なのか? バターとたっぷりの蜂蜜やメープルシロップをかけて食べるこれはホットケーキを名乗るのが相応しい。

 そんな見て幸せ食べて口福なホットケーキを前に手を合わせる二人。

 

「いただきます!」

「いただきますだ!」

 

 二人は大きく切り分けると同じく大きく口を開けてパクりと食べた。甘い、柔らかい、香ばしい、芳しい、そして、

 

「おーいしー!」

「クハハハハ! 美味である!」

 

 そしてフレーバーティーを一口飲んで口の中をリセットする。まだまだホットケーキは沢山ある。魔王様と飛鳥はその幸せを前に笑顔が咲いた。ゆっくりとその時間を楽しむように時折魔王様は飛鳥の口の周りのハチミツを拭いてあげる。

 

「はぅ……」

 

 女性の店員、そして店内の女性客が深いため息をつく、家族なのか? どういう関係か全く分からない魔王様と飛鳥を見て、ただただ飛鳥が羨ましい。自分もこんな綺麗な男性にお世話してもらいたいと。食事の仕方が様になり、そして美しい。一点の曇りもない笑顔。

 

「美味しいね? 魔王様」

「うむ! これほどまでに美味いほっとけぇきを余は……烏子と飛鳥の家でしか食べた事がない! あの““なる魔法のような道具で焼きながら食べるは絶品であったな!」

 

 味、完成度という意味では今食べているお店のホットケーキに勝るとは思えないが、魔王様は家でみんなで作りながら食べるホットケーキこそ至高であるとそう話した。美味しいは楽しいだが、楽しいもまた美味しいなのだ。食事を終えると、魔王様と飛鳥は店員にお礼を言ってお店をでる。

 

 ルルルルル♪

 

 と飛鳥が持っているスマートフォンが着信する。「もしもし、お姉ちゃん? うん、終わってホットケーキ食べた。魔王様?」烏子から魔王様に変わって欲しいと言われて魔王様に飛鳥はスマートフォンを渡す。

 

「クハハハハ! もしもし、余である。うむ、飛鳥か? 実に大人しくしておったぞ! あれである! 良い子である。病院? 余の笑い声しか響いてはおらぬ! お医者の奴も看護師の女も元気で何よりであった。今から帰るとする! 本日の夕餉は何か? なんと! 鍋なる物であるか? では急ぎ帰るとしよう! ゆるりと待つが良い」

 

 魔王様と飛鳥は手を繋いで電車に乗り、烏子が待つマンションへと帰る。魔王様が日本での生活する上でこのような検査が定期的に行われていて、そのデータは世界中に共有されていたりする。


 別世界の知的生命の身体記録として。

 

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