3.コストコでの買い物の心得に感銘を覚えた魔王様
魔王様、烏子、飛鳥の三人は持参したサングラスをかちゃりと装着する。
三人はこれより、コストコという店舗でお気に入りの商品を見つけるエージェントになるのである。という気分づくり。
「様になってきたねぇ、魔王様に飛鳥ぁ。そう、コストコに来た時、私たちは今エージェントになってるじゃんねぇ? 基本的に購入すると考えている物、それ以外に今日この時に出会える奇跡の商品とかね」
研究が忙しくなる時は飛鳥を一人にする事も多い。学童で預かってもらえる時間にも限りがある。そんな時、コストコで大量に食材を仕入れているのは本当に助かる。故に、必ず購入する物は決まっており、あとはフィーリングで購入したいと思う物を片っ端から購入するのが烏子の理念、普段寂しい思いをさせている飛鳥の為の大盤振る舞いでもある。
しかし、今は自分が研究で家に帰れずとも魔王様がいてくれる。学童保育無しでも安心できるのだ。
実にありがたい。
“欲しい物を必ず一人、一つ買う“
烏子の買い物のルール。というか信念にも近い考えがある。買い物とは人類が生き物ではなく知的生命としての活動行動の一つ、作業であってはならない。欲望の捌け口にすべきである。
生命とは何処からやってきて、何処へゆくのか、欲望という物が知的生命の根源であるというのであれば、このコストコという場所は実に知的生命を知的生命たらしめる場所である。そして今ここには人間ではない知的生命である魔王様もご一緒しているのである。
入店してすぐにスマートフォンの営業が声をかけてくる。契約している回線会社はどこかとアルバイトからの先制攻撃。決まって烏子はそういう時、十個近いスマートフォンを見せて、「全ての回線を契約しているよねぇ」と微笑む。
コストコという店舗はこのような営業を行うスタッフ区間ごとにいたりする。これは仕方がない事で邪険にする必要はないが、事実仕事で様々な事を行う為烏子は様々な回線SIM契約をしている為、必ず上記のように回答するようにしている。
毎回の事だが、このフロアを抜けて本当に三人のコストコでの買い物が始まることになる。今回、必ず購入する必要のある物は洗濯に使う洗剤、トイレ掃除道具、キッチンペーパー、朝食時に食べるパン、ヨーグルト、マーガリン、インスタントコーヒーである。その他目に付く興味深い物、どうしても欲しいと思う物を選んで購入するという事で三人はまだ何も入っていない巨大な空のカートを押した。日用品が並ぶフロアに入る。
まずは、トイレの掃除道具、花王のクイックルを見つけると飛鳥は魔王様に分かるように指をさすので魔王様は頷いてそれをカートに入れる。
買い物の一つ目のミッションをクリアした事で飛鳥が笑顔で親指を上げるとそれを見て魔王様も飛鳥に親指をあげて見せる。
「いいねぇ! 一つ目のターゲットは軽々とクリアしてしまったねぇ」
と、烏子が言ってくれるので二人のテンションが上がる。見渡す限り商品だらけの倉庫から狙いの品を見つけてゲットする楽しさ。
「トイレのクイックルを切らしてしまうと掃除が大変になるからな! くーはっはっはー! 余のトイレ掃除当番の時にこやつ中々に役立つ故、余も大変気に入っている! 魔王城にも欲しかったものだ!」
魔王様もベタ褒めの品、そしてなんと魔王様は部屋のトイレ掃除も率先して行ってくれるのである。盛り上がっている三人に人影、そして……
「これそんなに安いのかい?」
楽しそうな三人に老夫婦が尋ねる。
「12パックで1380円なのでぇ、一枚当たり大体11円なんですよぉ、これスーパーや、ホームセンターより3円以上一枚当たり安いんですよぉ」
コストコマニアの烏子が枚数当たりの値段の安さと掃除に使う際、どのくらい持つかを説明すると、
「へぇ、じゃあ母さん、一つ買おうか?」
コストコの販売員顔負けの説明で老夫婦にお得感を感じてもらい手を振って買い物に戻る。
次に必ず購入する物はコストコの代名詞といってもいいディナーロールなのだが、パンコーナーの前には烏子をダメにするお酒コーナーが聳え立ち、高確率でここでは試飲コーナーが開かれていたりする物だから烏子の足が向かう。
ずらりと並ぶ、洋酒と日本酒、焼酎、ビールを前にして烏子は恋する乙女の表情でそれらを見つめ、遊園地に来たようにはしゃぐ。
そして、当然試飲も開催されていた。
「お飲みになりますか?」
フランス産のワインが普段の販売価格より安く売られており、車を運転しない烏子はぶんぶんと首を振って、全てのワインの試飲を試した。
「やばい、どれも美味しい。どれか買おうかなぁ」
コストコの術中というべきか、これぞコストコの醍醐味である。試してみたいものが試食や試飲という形で味わえ選ぶ参考になる。
「こちら、お店で買うようり一千円近くお安くなっておりますぅ」
マジっすか! という顔を烏子は見せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます