【幕間2】魔物の王と政府高官の療養所

「クーハッハッハ! 美味い! このカツ丼という食べ物を作った者を褒めてつかわす!」

 

 魔王様が地球上に存在しない知的生命であるとい事が証明されて数日。

 魔王様は政府高官の療養施設にて隔離されていた。

 そしてそんな魔王様を拾った責任として烏子くろこも自らそこに参加する事を希望し今に至る。

 

「烏子よ。余はこの世界において異端。畏怖し扱われる事もやむなしと心得ている……が貴様も何故囚われているか?」

「いやぁ、自分の仕事は場所を問わずに何処でも出来るんだよぉ。それに、魔王様も興味深いしねぇ」

「クハハハハ! 苦労をかけるな」

「いえいえ、魔王様も居心地が悪かったら言ってくれればいいかんねぇ?」

「良い! この世界の人間は中々に礼儀を知っておる! 故に余も礼儀を尽くそう」

 

 恐らくは盗聴されている会話、逆に礼儀がなければそれ相応の対応を魔王様は行使するとも捉えられる言葉。烏子は日本国が今現在魔王様を恐れている事を知っている。異世界の存在である事を証明する為に魔王様は手の中に炎を生み出し、そして宙を舞ってみせた。さらには大気をかき集め、雷を呼び出し、台風になりかけているような竜巻を作ってみせた。

 容易く天候を操る魔王様、あっけらかんと笑ってみせたその笑顔を政府高官達は引き攣った笑顔で見つめていた。

 

「なるほど、余は招かざれる客というものであるな」

 

 広辞苑を開いて言葉を意味を勉強している魔王様、日本語を瞬時で理解し読めるようになった魔王様は自らを迷惑な存在であると認めていた。

 しかし、それに異議を唱えたのは烏子。

 

「そうでもないけどねぇ」

「ほぉ、申してみよ」

「少なくとも私は、何か摩訶不思議な事が始まるとドキドキしたしぃ、私の妹。飛鳥も魔王様に早く会いたいって言ってるしねぇ」

 

 とスマートフォンのメッセージ画面を見せる。遠くの相手とやり取りできるそれを見て「おぉ! 誠に便利であるな!」と魔王様はギザギザの歯を見せて笑った。

 そして、烏子の言葉がお世辞だけじゃない理由。

 

「あ、アズリエル様! 何かお飲み物をご用意いたします!」

 

 魔王様は、見てくれが恐ろしく良い。本当に作ったような姿、キャラクターとしてしか存在しないような耳に残る良い声。普段みたいな高官のおじさんを相手にしている女性職員達からすれば魔王様のお世話はご褒美と言っても過言ではなかった。

 

宮原みやはらと言ったな? クハハハハ! 余はクリームソーダーを……と言いたいところだが、この世界の飲み物は沢山あろう? 宮原のおすすめを所望する」

「かしこまりましたぁ! ではミルクティーをお持ちしますわ!」

「楽しみにしているぞ!」

 

 烏子からしても魔王様はどこからどう見てもイケメンである。いや、イケメンという言葉すら勿体無い程。性格もまた良くいい男だなと思う。高官達の専用スペースというだけあって広い部屋とはいえ軟禁されているのに文句の一つも言わない。

 時々やってくる野鳥の小鳥を見ては嬉しそうに笑う。

 

「魔王様、聞いてもいいかぁい?」

「良い。許す」

「魔王って魔物の王様だよねぇ?」

「いかにも、それがどうしたのだ?」

「元の世界では世界征服とかそういうのをしようとしていたのかなって思ってねぇ?」

 

 さて、魔王という存在の行動理念は一体なんなのか? 政府高官も聞きたい言葉だろう。それを烏子は引っ張り出してみる事とした。思った通りであれば人間の創作物という物は意外としっかりしている事になるし、違うのであればそれはそれで興味深い。

 

「世界征服か……ふむ、それも悪くないな! クハハハハ! 元々余達、魔物が生息していた地域に人間が入ってきた故、魔物と人間の殺し合いが始まった。双方に被害を出し続ける故、その抑止力として遥か昔に余が生まれた。今まで個としていた魔物を一つに総統する者としてな? 余は人間達にその地を明け渡す事とした。それで平和が来たと思ったのだが、余が生まれ、数千の時が流れた時、人間達はさらに知恵をつけ爆発的に増え、魔物達の生息域を奪い、全ての魔物達を滅ぼす事を掲げた。流石に余もそれには黙ってはおられぬからな。余の甘さが招いた現実、余の責務として相応の報いを人間に受けさせる事を決定したのだ。どうだ? 同じ人間として余が恐ろしいか? 烏子よ」

「いえ、全然。まぁやるかやられるかだからねぇ。人間なんて人間同士でも争うんで、放っておけばその内滅ぶと思うけどねぇ。それまで魔王様達は滅ばないように立ち回ればいいんじゃないかなぁ? 貴重な話をありがとうねぇ。あと、お酒飲んでいいかい?」

 

 良く酒を飲んでいる娘、烏子。なかなかどうして彼女と話していると面白い。魔王様の為にと用意されている冷蔵庫から高そうな発泡ワインを取り出すと烏子はグラスを二つ用意した。

 

「魔王様もどうだぁい? この世界のお酒は、激うまだぜぇ?」

「くーはっはっは! 良い、頂くとしよう」

「なんか、つまみは! おっ、国のお偉いさんはいいもん食ってるなぁ。イチジクのドライフルーツに馬肉ジャーキー。こんなところで」

 

 カツンと魔王様とグラスを合わせ、フランスの高級発泡ワインを喉に流し込む。後ほどアイスミルクティーを持ってきた宮原さんにも魔王様はそれを勧め。三人でしばらく堪能。

 しばらくして魔王様が安全であると判断した政府は魔王様の引取り先、この療養所に継続して住んでも構わない、あるいは高級なホテルも受け入れ先として上がったのだが、魔王様は烏子の頭に手を載せると。

 

「貴様の家に厄介になろうと思っている。ダメか?」

「構わないよぉ。部屋も余ってるしねぇ。狭い城だけど、歓迎するよねぇ?」

「くーはっはっは! 貴様のそういうところが実に嫌いではない」

「恐縮だよぉ魔王様」

 

 そんなこんなで、犬神家に居候する事になり、日本という国を堪能する生活が始まるのである。

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