2.コストコで最初にやるべき事を知った魔王様

 車を屋上の駐車場に駐車して魔王様はドライビンググローブと調光サングラスを外すとそれらをダッシュボードに丁寧に入れる。ギアをバックに入れたままエンジンを切ってサイドブレーキをかけて運転席から降り立った。

 

「飛鳥よ、余の手を取ると良い」

 

 魔王様が助手席側に回って降ろしてくれる。

 

「わーい! 魔王様ありがとう! 魔王様、だぁーいすき!」

 

 そう言って飛鳥は魔王様に抱きついて甘える。そんな飛鳥にニコニコと笑って受け止める魔王様。

 

「クーハッハッハ! 余は魔王軍でも全ての魔物共に好かれておったからな! 飛鳥も余を大好きになるのも必然である!」

 

 飛鳥を下ろすと魔王様は次は後部座席の扉をガラガラと開いた。出発時からお酒を飲んでいる烏子にも手を差し出す。

 ビールのロング缶の一パックや二パック程度で酔い潰れる事はまずあり得ない烏子だったがわざわざ魔王様がこうして手を差し出してくださっているのを取らないのも失礼に当たると、烏子は魔王様の手にコストコ専用のバックを乗せる。中には凍らせたペットボトルが入っている。

 コストコ会員になった際にキャンペーン等でもらえる大きなバックなのだが、その時々で形状が違い当たり外れもあったりする。

 

「便利なカバンであるな?」

 

 受け取って魔王様はそれをみてしみじみとそう言った。

 大容量で持ちやすい。

 

「新型のバックだかんねぇー」

 

 烏子も車から降りると、自然と飛鳥と手を繋ぐ。そして入り口のある一階へ続く長いエスカレーターに乗った。

 その際に……大きなカートを渡される。

 

「飛鳥ぁ、カートを持つときは両手でしっかりと持ちたまえよぉ。車輪がロックする形状になっているとはいえ、注意しなきゃねぇ?」

 

 力の弱い飛鳥が両手で持っているので魔王様も同じくカートを両手で持って支える。

 

「クーハッハッハ! でかい買い物カートである!」

 

 普段スーパーにあるカートの1.5倍から3倍近くある大きさのカート。

 魔王様はコストコ商品を家で見る事はあっても来るのは実は初めてである。何故なら、普段住んでいる場所から車で40分程離れた場所にあるコストコに毎日は行かない。何か足りないなと思えば近所のスーパーで事足りるわけでそちらのカートを見る事の方が遥かに多い。そして、普段目にしない物を見ると不思議と心躍る。魔王様もキラキラと目を輝かせて巨大な海外の倉庫式スーパーコストコのカートを握る。


 これから始まる買い物もまた楽しみで、飛鳥と見合って笑った。

 

 なんと、魔王様は政府に認知されている存在である。

 

 というのも、烏子は大学の研究員であり魔王様に地球あるいは日本にはない病原菌などを持っていても困るなと早々に届け出を出したのである。人間と殆ど変わらない容姿をしているが、少なくとも遺伝子配列などが異なり、いくつかは地球上に存在しない物も見つかって一部で大騒ぎとなった。


 周知されているわけでもない異世界を語る魔王様。半信半疑だった政府関係者は魔王様が魔法という力を使い、空を飛び、たった一人で一国の軍事力に匹敵する力を保有している事を目の当たりにし考えを改めた。


 そして、数日の勾留と検査、烏子を交えた政府関係者との交流により魔王様が友好的かつ危険性は少ないと判断され、魔王様の希望に則り犬神家に滞在、保護観察となっている。

 しかし、異世界とはいえ王様である魔王様に対して日本政府は当然ながら寛容だった。

 あらゆる待遇、魔王様がホームステイしている犬神家には補助金を、魔王様が車を運転したいと言えば、政府の監視下の中で自動車学校に通い見事魔王様は免許取得に成功し、今に至るのだ。

 

「ふははは! ではコストコにいざ!」

 

 と、魔王様と飛鳥はカートを押してコストコの店内、あるいは倉庫内に入る。

 烏子は少し遅れて、コストコメンバーズカードを出して身分を証明する。会員カードは一枚で所有者を除きさらに二名まで、18歳未満の子供は何人でも入店が可能だ。

 

「二人とも気持ちは分かるがまぁまぁ、待ちたまえぇ! 先にすべき事があるんだぁ」

 

 ニヤリと眼光を光らせて烏子は店内ではなくフードコートを指差す。

 

「烏子よ。空腹であったか? 余はまだ問題ないが」

「私もまだ大丈夫」

「ふふん、お店の確認も必要だけどぉ、この店舗はドリンク持ち込み可能なのさぁ!」

 

 コロナ以降禁止されていたが、最近解禁した店舗も数多くあり、コストコ店内ではフードコートで飲み放題のフリードリンクを購入できる。なんと単品60円飲み放題、ホットドック付きであれば190円という価格破壊の値段である。店内がやばいくらい広いので喉が渇くこともある。またあちこちで試食が催されているので飲み物があった方がいい。

 お店への貢献にもなるし、水筒などを持ち込むよりずっといい。

 

 ※店舗によっては禁止されているところもあるかもしれないので確認をお願いします。今のところ東西十店舗近く入った限りではそういうところはなかったです。ジュース持ち込みは行儀が悪いという意見もありますので、コストコあるあるとしてご了承をお願いします。

 

 という事で、カートを見ておいてくれる烏子から離れて魔王様と飛鳥はフードコートにドリンクバーを買いに行く。烏子の分も合わせて三つ、烏子は烏龍茶、魔王様はマウンテンデュー。飛鳥はなっちゃんオレンジ。

 

「はいおかえり! じゃあ、準備も整ったところで、お宝探しのコストコショッピングを始めようか!」

「おー!」

「クハハハハ! おー! である!」

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