第22話 外出

あれからるーちゃんは結構な頻度でうちにいる

父ノーランから公爵家の一部屋を与えられ、自分の家にいるとき以外はわたしにくっ付いて回っている

わたしは久しぶりにメンタルタイムルームでデイジーの剣の修練をしていた

当然るーちゃんもいる

椅子に座り、緑茶とぜんざいを食べながらわたしの修練を見ていた

ひと段落したのがわかったのだろう、るーちゃんから声がかかった

「夕お姉様!お茶如何でしょう」

わたしは「ありがとう」と言いながら椅子に座る

「あなたぜんざい好きね」

わたしは何となしに言った

「わたくし、とても気に入りましたの。上品な甘さなのも好きなのですが、この白玉がわたくしの心を掴んで離しませんわ」

にこやかに話するーちゃんに聞きたいことがあった

「あの、剣術指南役って言ってたよね?剣使えるの?」

「刺突剣なら有りますが、直剣は使ったことありません。でも、大丈夫ですわ」

何が大丈夫なのか分からないが、続ける

「そうなんだ。剣を持ってるのを見たことないから、あれなら創ってプレゼントしようかなとおも。。。」

「ホントですか!?夕お姉様からプレゼントだなんて。。。」

両手を頬に当てながら喰い気味に言われた

「わたし剣は分かんないからなぁ。どんな剣がいい?希望ある?」

「夕お姉様から頂けるものなら何でも嬉しいです。わたくしもあまり剣は詳しくはないのですが、そうですわね。。。」

美少女が首を傾げながら考えているのは絵になる

わたしの持つ木刀を見てピンと来たようで希望を言った

「お姉様の家で見たおかしらさんがお持ちになっていた剣を希望致しますわ」

わたしの頭に???が浮かぶ

わたしが混乱してるのをみたデイジーから助け船が出る

「ノワールさま、TVの時代劇の。。。」

「あー、火付盗賊改のおかしらね。じゃ刀かぁ」

「んー、平蔵さんは刀と脇差の二本だったよね。どんな刀だったかな。とりま調べてみよう。」

頭で平蔵さんを思い浮かべながら言った

「今度調べて創ってプレゼントするね」

わたしは満面の笑みで「はい」と答えるるーちゃんを見ながらぜんざいを啜った


後日、わたしは平蔵さんの愛刀粟田口国綱(二尺二寸九分)の大刀と井上真改(二尺三寸四分)の大刀と備前長船兼光(一尺一寸)の小脇差の合わせて三振りをるーちゃんにプレゼントした

粟田口国綱を鞘から抜き、刃紋を見たるーちゃんはわぁと感嘆の声を上げていた

あらかじめ「仕舞わないで使ってね」と言ったからか、粟田口国綱は持ち歩くようになった

ドレスに左手で刀を持ち歩くるーちゃんは他を寄せ付けさせないオーラを醸し出しており、非常に絵になっていた




春が過ぎ、夏終わりになった頃に父ノーランより呼ばれた

いつものようにノックし、部屋に入る

前回は頭痛の種がいたが、今日は父ノーランだけだった

「ユーディ、呼び出してすまんな。」

「さっそくだが、明後日から塩の収穫を確認にウォルシーへ行く。」

知っている

先駆けてマリスさんが現地へ向かう時にわたしに塩の収穫について聞きに来たからだ

「その際、マリス嬢よりお前も見分の為に外を見させたらどうかと提案を受けた。わたしは早いと思ったが使徒の話が大きいうちに本人を出すことのメリットを説かれた。」

「それでだ、お前もウォルシーへ同行してもらおうかと思う」

わたしは心でガッツポーズをした

「わたし行きたいです」

「そうか」

「ゴスリングとルビー嬢にはわたしから話しておく。戻っていいぞ。」


自室へ戻ったわたしはあらためて降って湧いた幸運に感謝した

デイジーへその旨を説明すると「さっそく準備致します」といい、準備しはじめた


当日になり、わたしたちは馬車でウォルシーへ向かう

わたし、デイジー、るーちゃん、ゴスリングさん、父ノーラン、父の専任メイドディアナさん、父の護衛で騎士ノーリンさんの7人

馬車移動とはいえ1日ちょっとの距離の為、10日もかかる帝都より楽だった

ウォルシーは思ってた通りの港町だった

懐かしい潮の香りがする

街へ着いたら塩を作ると決めた時に買ったという別邸へ向かう

マリスさんたちの宿にもなっているそうだ

領都よりの荷物を置いて馬車を降りると、マリスさんの護衛でついて行ってた騎士ラスさんより声がかかった

「閣下、お待ちしておりました。来られると聞き、塩田より戻り待っておりました」

「出来はどうだ?」

「確かに塩が出来ております。これをどうぞ」

ラスさんは父ノーランへ作った塩を渡した

ペロッと塩を舐めた父ノーランは頷きながらラスさんと話す

「確かに出来ておる。流石はマリス嬢の知恵だな」

「ハッ。あとマリス嬢が申すには時間短縮の策があると言います。しかし、いささか費用が。。。」

「ふむ、あとでマリス嬢に聞こう」

話に夢中の父ノーランはハッとこちらを見て

「そうだった。わたしはこれからラスと塩田へ向かうがお前たちはどうする?」

わたしは父ノーランがはやく塩田へ行きたそうなそぶりを見せていたので「わたしたちが行ってもお邪魔でしょう?ウォルシーにおります」と答えた

結局、父ノーラン、騎士ノーリンさんと騎士ラスさんで塩田へ向かっていった

ディアナさんは父の荷物の荷解きや部屋の準備をすると別宅に残り、わたしたちは街に出ることにした

わたしはウォルシーへ残ると言ったが別宅へ残るとは言ってない

街中へ出て散策してもいいはずだ


わたしはいつものように冒険者ギルドに向かった

ここの冒険者ギルドか商人ギルドなら海賊について知れるかもしれないと考えていた

ウォルシーの冒険者ギルドは酒場と冒険者用の宿と一体になっており意外に大きかった

わたしたちが中に入ると、予想通りからまれた

るーちゃんはいつものワインレッドと黒のドレス

美少女な上、場違い感が半端じゃない

「ドレスの嬢ちゃん、こっちへ来て飲まないか?」

冒険者であろう50くらいの男がるーちゃんの肩を組もうとしたところ、るーちゃんは「汚い手で触らないで下さいませ」と男の手を払いのけた

男はへこまずにるーちゃんへからむ

「いいじゃねぇか。せっかくの出会いだろ。なんなら飲んだ後もベットでお世話してやるぜ」

「やめとけ。あっちで飲んでろ」と言うゴスリングさんの警告に男は怒った

「俺たちが誘ってんだ。オヤジの出る幕じゃねぇんだよ!」

と、ゴスリングさんへ向かって剣を抜こうとした瞬間、男の首筋にるーちゃんの粟田口国綱の刀身が当たっている

「あなたしつこいですわ。静かになるよう首を跳ね飛ばして差し上げましょうか?」

あまりの早業にフロアの喧騒が静まり返った中、るーちゃんの凍てついた声だけが聞こえた

男は一気に酒が抜けたのであろう

「すまねぇ。冗談だ。許してくれ」と震えながらうわごとのようにるーちゃんへ嘆願する

男たちの連れもグラスを持った手すら動かせない

ヤバいオーラが出て目がイってるるーちゃんへ周りの冒険者や受付嬢すら恐怖し声が出せずにいるので、わたしは声をかけた

「るーちゃん、もういいでしょ。行こうよ」

わたしの声を聴いたるーちゃんは「はい」とだけ言い、男に向かって「夕お姉様に感謝なさい」と刀を鞘へ戻した

奥へ進むと後ろからガタガタバタンと音がしたが、出ていったのだろうか?


わたしは周りの注目を無視して、受付嬢のほうへ向かう

受付嬢が自分の方へ向かってくるわたしたちに畏怖するのがわかった

わたしは笑顔で受付嬢へ声をかけた

「こんにちわ。わたしユーディって言います。ここで海賊のことについて詳しい人っていませんか?」




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