第20話 第三位神ルージュ
「どうぞ、好きなところに座って下さい」
はじめて家に来た子犬のようにあたりをキョロキョロ見回すルージュさんへ言った
ブランさんも誘ったが、「用があるからまた次回に」と気を利かせてくれたのだろうか?わたしたちを送るとスッと帰ってしまった
「あっ、ドレスだと座りにくいですよね。椅子を用意しましょうか?」
「かまいませんことよ」と言いながら座る
「あー、そこの座布団使ってください」
ドレスに座布団いいのかな?と思いながら座布団を勧めた
あのドレスでどうやったか不思議だがルージュさんはキレイに座る
「ルージュさん緑茶大丈夫ですか?」と聞きながら緑茶とぜんざいを出す
「ええと、自己紹介がまだでしたよね?」
「わたしがノワールになった秋月夕と言います。で、こっちが眷属のデイジー。よろしくね」
わたしが挨拶するとデイジーも合わせて頭を下げた
こちらも見ながらドレスで湯飲み茶碗で緑茶を飲むアンバランスなルージュさんは言う
「先ほども言った通りノワールさん、あなたお友達になって差し上げますわ」
「わたくしお友達や家族というものが一人もいませんの。だから人様のおうちへ御呼ばれしたの初めてですの」
「人様のおうちへ御呼ばれして、お茶を楽しむのが夢でしたの。夢がかないましたわ」
目をキラキラさせながらルージュさんは言った
「あはは、いつでも来てもらっていいですよ」
「あー、あと友達ならあだ名で呼ぶとか。。。」
「あだ名?」
虚を突かれたようにこちらをみる
「んー、たとえばルージュだからるーちゃんとか。。。」
「決めましたわ!ノワールさん、今度からわたくしのことるーちゃんとお呼びなさい」
「わたくしもノワールさんのことをノワお姉様と呼ぶことに決めましたわ」
あだ名がびみょーなのと何故お姉様なのかは置いといて夕で呼んでもらうようにお願いした
はからずしも夕とユーディスどっちのあだ名にしても大丈夫
「分かりましたわ。夕お姉様」
わたしはるーちゃんのドレスに見とれていた
るーちゃん本人もとても美人なのだが、赤、黒のドレスと本人のビジュアルが合わさって得も言わぬ妖艶な雰囲気を醸し出していた
「さっきも言ったけどそのドレス綺麗ねー。見とれちゃったわ。」
「赤、黒の2色ってところもいいし」
「それにるーちゃんみたいな綺麗な娘が着ると映えるよねぇ」
るーちゃんのお茶を飲む手が止まる
「わたし動きやすいシンプルな服ばっかりだけど、一回は着てみたいなって思っちゃうわ」
デイジーとるーちゃんの眉がピクッと動いた
「夕お姉様」
「わたくしがお姉様のドレスを見立てて差し上げますわ」
「いえ、このデイジーがドレスを探してまいります」
被せるようにデイジーが言う
お世話だけは譲らないデイジーとドレスを誉められドレスを探したいるーちゃんの目が合う
バチバチッと火花が散った気がした
怖い。。。まず前提としてわたしがドレスを着ることになっているのが怖い
マズいこと言ったかと思っている中もデイジーとるーちゃんのバトルは続く
「メイド、下がってなさい。これはわたくしとお姉様との会話」
「いえお嬢さまのメイドとして下がれません」
「お嬢さまのお世話は私の役目。ルージュさまにはご遠慮くださいますよう。」
「ハァ?」
「わたしくがお姉様の為にドレスを見立てて差し上げたいの。メイドは黙っててくださる?」
「わたしがいつもお嬢さまのお召し物を用意しています。人様に。。。。」
ヤバいと思ったわたしが口をはさむ
「あー、じゃあさ。せっかくだから二人にそれぞれ一着ずつお願いしようかなぁ。。。なんて」
「お姉様」「お嬢さま」とそれぞれに言われる
なんとか納得したみたいだが、火種はくすぶっている
「あんたよりお姉様に似合うドレスをご用意いたしますわ」
「・・・」
藪蛇だった。。。
甘い、美味しいと言いながらぜんざいをスプーンで食べるるーちゃんが言う
「この白いのはなんですの?」
「それ白玉。食べてみて」
「不思議な感じ。こんな不思議な美味しいものを創れるのなんてわたくし感動いたしましたわ」
「口に合ってよかった」
そう笑顔で返すと顔を赤くして「。。。ッ」と目線をそらされた
ヤバい感じがしたので話を変える
「あー、あとここに来てもらうのはいいんだけどわたしは自分の星にいることが多いから用があればこのホムンクルスに手紙でも渡してもらえれば。。。」
「えっ。。。いつもはここにいないのですか?」
悲しそうな表情になったるーちゃんに言った
「うん、勉強でね。自分の星のこと知らないと主さまの命をキチンとこなせないでしょ。だからユーフォリアで生活してるの」
「向こうじゃ5歳なんだけどやることや学ぶこと多くてね。人手も足りないし。。。」
怪訝に思ったるーちゃんが聞く
「夕お姉様はノワールなのですから力でなんとかすればよろしいのでは?」
「えとね、転生の時に惨事になるからって指輪で力を封じられてて、だからここに代理のホムンクルスを置いてるのよ」
「それに現地の生活に満足してるし、あんまりノワールの力を使って文明をかえてしまうのは傲慢だなぁと思って」
「そうなんですね。分かりました夕お姉様」
スッと立ち上がってるーちゃんが言った
「夕お姉様のお考えを聞いている途中で申し訳ございません」
「わたくし用事を思い出しましたの。今日のところはお暇致しますわ」
「お茶と甘味、大変おいしゅうございました」
「では。。。」
ワインレッドと黒のドレスがバックの夕陽に重なり、絵画のように美しく見える
そのままるーちゃんはブランさんと同じくカーテシーをしながら消えた
---不思議な娘。。。
わたしは気を取り直し、ぜんざいをつまんだ
お茶を飲み終えてからデイジーへ目配せし、部屋へ戻った
帰る間際にデイジーが何やらガサゴソしてて、嫌な予感がした
部屋に戻るとすでにユーフォリアでは年が明け、明け方前だった
やはりわたしの感はよく当たる
戻るとすぐデイジーから声がかかる
「お嬢さま、先ほどのドレスのお話ですがご用意いたしましたので合わせましょう」
「え゛っ」
覚えてたのか。。。と思いながらデイジーへ言う
「あー、もう明け方近いから今度でよくないかな?」
「いけません」
断固たる拒否だった
「あんな小娘に負けたとあってはわたしがお世話する意味がありません」
デイジーは「勝ち負けとかは関係ないんじゃないかなぁ」というわたしを無視して語り出した
「それにお嬢さまからはじめてドレスを着たいとおっしゃっていただけたのです」
「一世一代の素晴らしいドレスにするためにもまず仮合わせだけでも致しましょう」
「お嬢さまのドレス姿。きっと誰もがひれ伏す神々しいものになるでしょう」
「御髪がプラチナブロンドですから、それならこの色が。。。」
「まだ5歳ですから、あまり華美すぎるものは。。。」
「あっ、華美なのはノワールのお姿の際にお召しになっていただきましょう」
ガサゴソしながら語り出していたデイジーが振り返った
「さぁ、たくさんございますから色々試着してみましょう」
わたしはデイジーの後ろを見て唖然とした
5着近いドレスがあることに唖然としたが、デイジーの次の言葉に恐怖した
「明日からは夜に毎日20着ほど合わせてみましょう」
「きっとお似合いになるドレスが見つかります」
「今日はまずはこれなんていかがでしょうか?」
狂信者のような発言のデイジーを見て、明日から地獄だと感じた
平穏な夜は失われてしまった
帝国歴989年1月1日
あと4日で6歳になることになるこの日
生まれた日と同じように雪の舞う日であった
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