第16話 祝福の儀

わたしは5歳になった

目先の予定は2月にある祝福の儀と、春に植える予定のテンサイ、カブ、トマトの準備だ

カブはこの世界にも存在しており、皆が知っている野菜だ

わたしは似た見た目のテンサイとカブを作り、他へ気づかせない為の対応策とした

父ノーランへも話すと、とりあえずは庭で試してみるといいと言われ畑を借してくれた

問題なのは2月の祝福の儀のことだった

色々調べたがそもそも一番最近で天啓があったのは80云年前だそうで詳しい内容まではわからなかった

聖堂へ行けば詳しい内容が残ってそうだが、あの司教に会いたくない為に行けておらず結局のところ分からずじまいであった



そして祝福の儀の日をを迎える

その年の子供の数にもよるが1日目は貴族、町の有力者、平民の順で席が足りなければ2日目に平民が割り当てられる

聖堂では最大5人まで入ることが許され、5歳の子供、両親二人、御付二人以外は柵で囲った外周より見守ることとなる

「ジルのときも多かったが今日も多いな」

と今日でわたしが使徒であることがばれる為か、父ノーランが厳しい顔をしながら母クレアさんと話していた

わたしたちは父ノーラン、クレアさん、専任護衛騎士ゴスリングさん、専任メイドデイジーの5人で中へ入った

案の定、領主の公爵令嬢という立場のせいで1日目の1番になってしまった

席へ着き司祭たちから簡単に流れの説明を受ける

当然だが天啓のあるタイミングとは教えてくれなかった


しばらくすると件の司教冠の司教が司祭達複数人引き連れ現れた

さっそく十字架の祭壇を方へ振り返り、十字架を見ながら祝詞を詠んでいた

わたしはいつ天啓があるのか?のみが気になっていて司教が何を言っているのかまったく興味がなかった

はやく終わらないかなと思いながら聞いていると書がパタンとしまる音が響き、司教たちがこちらへ振り返る

そのタイミングで助司祭?が金のツボらしきものを持ってきた

キリスト教の洗礼みたいな感じかな?と見ていると司教が司祭、助司祭達を引き連れながらこちらへやってきた

「ユーディス・フォン・シュヴァーベン」

司教から名前を呼ばれる

最初に聞いた流れの通り、立ち上がり頭を出した

司教は助司祭?が抱える金のツボから水だろうか?を手に少し掬い、わたしの頭へサッとかけた

冷たッと思った瞬間、聖堂の中がまばゆい光に包まれた



まばゆい光が収まり、目を擦ると祭壇の十字架の上の空中にボンヤリとぼやけた光のオーラが湧き出ているブランさんが立っていた


目の前の司教たちは尻もちをついてブランさんを見ている

「あぁぁぁぁ」「おぉ神よ。。。」との声も聞こえる

デイジーは当然という顔だが、あらかじめ天啓が起こることを理解していた父ノーラン、クレアさん、ゴスリングさんですら口を開けたまま唖然としていた



やがてブランさんが声を発する

声が通り、聖堂内に木霊する

「わたしはブラン」

「ノワールとともにあるもの」

「ユーディス・フォン・シュヴァーベン」

「あなたをわたしの使徒へ迎え入れましょう」


それだけ言うと光のオーラが消えていくと共もにブランさんも消えていった

わたしはいつものカテーシーじゃなかったなぁと思っていたら、司教冠を落としたU字ハゲの司教が「本日の祝福の儀はいったん延期とする!!」と叫び出した

司教や助司祭たちが他の人々の退出を促す中、司教冠を被りなおした司教から別室へと案内された

---やっぱりこうなったか


父ノーランは司教からはオレリア神聖宗教国への訪国と宗主オレリアへの対面等いろいろ言われていたが、臣下の為、王に相談してからと頑として譲らなかった

さらに王に相談する為と適度の話で切り上げさせた

わたしは父ノーランの政治の才に、感謝した

80云年ぶりの天啓があり、使徒が生まれたというのは一気に領都中に広がった

聖堂を出ると新たな使徒誕生に人だかりができており、あたしを見つけると歓声が上がった

わたしたちが歩く前は道が開かれ、避けた先で平伏されるというモーセの十戒のようになっていた

わたしはこの短時間でこれなら、1,2週間で帝国へ広がるのではと思っていた


人込みを受け屋敷へ戻ってからも、門の前には人だかりができていた

父ノーランの自室へ戻ってから開口一番言われた

「やはりブラン神の使徒の紋章だったか。。。」

「まずいな。領都に広がるのが早い」

「まず王に報告を入れる」

あらかじめ手紙を書いていたのだろう机より手紙を出すと何かを付け加えて書き、「至急だ」と伝令に手紙を持たせた

部屋には父ノーラン、クレアさん、エルナおばあちゃん、執事のヴォルドン、ゴスリングさんとデイジーとわたし

これから大変になると前置きしつつ、父ノーランが話す

「まずは、帝都へ行き王に謁見になるだろう」

「王のまわりのコバンザメやユーディーとの関係を狙う貴族どもは何とかする。だが、野盗のゴロツキ共や、他国から雇われた裏からちょっかいをかける奴らはお前たちが護ってやってほしい」

父ノーランはヴォルドンさん、ゴスリングさん、デイジーたちを見ながら言った

「あなたオレリアはどうなさるの?」

クレアさんから疑問が飛んだ

「今帝国は厳しい。王は要求献金額を下げるからと言われれば訪国をお願いしてくるかもしれない」

「何か案を考える」




自室へ戻ったわたしは「どう思う?」とデイジーに聞いた

「公爵令嬢がブランさまの使徒だということが大陸へ駆け巡りさえすれば大丈夫かと。帝国の使者として向かう為に、オレリアは簡単には手が出せません。オレリア神聖宗教国としての信頼を他国や信徒より失います。訪国・謁見しても問題ないかと思います」

「逆に話が広まるまでの間が一番危険です」

「それに話が広がったら広がったらで貴族達や雇われ共の裏からの行動が増えると思います」

「どっちでも同じね」

わたしはため息をつきながら言った

「ご安心ください。ノワールさまのことはお護りいたします」

デイジーは笑顔で言った


わたしは街へ出なくなった

父ノーランが今は自重しなさいと制限したのもあるが、わたしが街へ出ると大名行列のように後ろをついてくる人々やわたしを見るたびに平伏したり、拝まれるのに嫌気がさしたせいだ

しばらくすれば元に戻るだろうと屋敷でおとなしくしていた



わたしは久しぶりにわたしの家へ帰った

ホムンクルスに貯まったわたしの力を回収しながら緑茶を飲んでいると

「久しいわね」

と後ろから懐かしい声がかかった

「お久しぶりです。ブランさん」

ブランさんはわたしが言うのを聞きながら対面へと座り、いつものように右指をパチンと鳴らして紅茶を出した

ブランさんは一口紅茶を含み、まじめな顔をして言った

「次の年の1月、評定があるわ。」

「あなたも出席するようご沙汰がありましたわ」

「評定?わたし何も成してはいないんですけど。。。」

面食らった表情で答えるわたしを見て、笑みを浮かべながら続ける

「まぁ話をお聞きなさい」

「あなたがいてホムスクルスが存在するおかげで大地は改善している。主さまはお喜びよ。」

わたしはホっと胸をなでおろしながら続きを聞く

「完全になるまでにはまだ5年10年はかかるでしょう」

「主さまの命、お忘れになっていないでしょう?」

「第一に星が乱れないように心掛けなさい」

「はい」と答えるわたしを見てブランさんは満足そうに立ち上がった

「じゃあまた評定の時にお会いいたしましょう」

いつものようにカテーシーをしながらブランさんはスッと消えた



星を乱さないように。。。

ゴミを掃除しないと。。。



わたしは緑茶を飲みながらブランさんのいた場所を見つめていた

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