第13話 胡椒と塩と砂糖

わたし達はキースに案内され、日用品店へ来た

メイン通りより少し離れ、路地へ入ったところにあった

店の前へ来ると「ここです」と中へ入っていった

魔法の件が噂になっていたのであろう、自分の息子が該当者だとは気づかずにキースに「どこに行ってたんだ。街中で魔法を撃った人がいたらしいけど捕まったか聞いてないかい?」と問いただしていて、わたしたちが入ったのに気づくと「いらっしゃい。どうぞご覧になって下さい」と招き入れてきた


マリスさんは前に出てキースの父親に経緯を話す

マリスさんは「お前なんてこと。。。」を怒る両親を制し、借金のあらましについて聞いた

信用をしていた人間に金を持ち逃げされたのが始まりだったという

最初は少額だったが、何度かのやり取りで仕入れに大銀貨3枚を渡した

問題なくきちんと仕入れて来る商人を信用してしまったという

次の仕入れで胡椒が手に入ると言われ、大銀貨5枚を出した

少量だったが手に入った

次の仕入れで金貨3枚あれば大量に胡椒が手に入ると言われ、金貨1枚借金して金貨3枚を出したがウソだった

騙されたと気づいた頃には金貨1枚借金が金貨3枚に膨れ上がっていて家の権利で勘弁すると脅されているそうだ

わたしは話を聞きながらよくあるやつねと思っていた

話を聞きながらマリスから習った貨幣計算も合わせてしていた

今日街を回って売り物や食べ物の金額を考えて

鉄貨1枚 10円

銅貨1枚 100円

大銅貨1枚 1000円

銀貨1枚 10000円

大銀貨1枚 10万円

金貨1枚 100万円

大金貨1枚 1000万円

白金貨1枚 1億

日本円ならこのくらいじゃないかと目星をつけた


わたしは店内を見渡し、値札を見る

胡椒はスプーン一杯で銀貨5枚

高っかと思った

いわゆる小さじ一杯で5万円か。。。と

一般的な人々は大銀貨1枚から2枚で生活しているらしい

とても手の出るものではない

塩はスプーン一杯で銅貨3枚

塩が小さじ一杯で300円かと唖然とした

砂糖も探したが売れてしまったとのことだった


あと気になるものがった

窓際のプランターにトマトが植えてあった

実っているのに摘まない理由を聞くと案の定、毒があるので鑑賞用ですと言われた

わたしの知る中世の時代と同じように食用として認知されてないことを知った

わたしは金貨3枚で胡椒と塩とトマトをプランターごと買い占めた

多すぎます。。。というキースの両親に

「それで借金を返済してください」

といい、屋敷までの配達を頼んだ



日用品店を出て商人ギルドへ向かう

途中、なぜトマトを買ったのか分からないゴスリングさんたちにトマトは食べれることを説明するも納得しないので「わたしが今度実演します」と言ってやった


商人ギルドはキースの家の日用品店から近く、メイン通り沿いの門側にあった

ギルドそばでは慌ただしく荷下ろし中の馬車が何台も見える

出入りの激しい商人ギルドから中に入り、ゴスリングさんが受付嬢と話す

笑顔で応対していたがギルド内にいる用心棒たちからは警戒されているのがなんとなく分かった

ゴスリングさんがわたしたちのことを話したのだろう

受付嬢は「奥へどうぞ」と応接室へ案内してくれた

座って待っていると小太りのギルド長と若い男性の秘書?が冊子を抱えて入ってきた


「これは極秘。我らの命綱となりますので。。。」

小太りのギルド長はと言いながら冊子を見せてくれた

胡椒の仕入れ値は通常でもスプーン一杯で銀貨3枚

今はウォルシー港周辺海域の海賊の影響で銀貨4枚と大銅貨5枚の

5割増し

塩もスプーン一杯で銅貨1枚のところが銅貨1枚と鉄貨6枚へと同様に6割増し

砂糖はスプーン一杯で大銅貨1枚のところが大銅貨1枚と銅貨3枚の3割増しとなっていた

ギルド長曰く、塩は塩山のある王国のほぼ独占状態

胡椒は王国よりまだ南からの仕入れの為、護衛代含む輸送費でこの金額なのだという


話を聞いたわたしたちは商人ギルドを出た

ゴスリングさんに海賊について尋ねる

海賊は海を進む船を襲い、積み荷や船員を捕虜にし、奴隷商へ売り払うというわたしの海賊のイメージの通りだった

話を聞くとまだ火薬は存在してないようで弓や魔法で射掛け、動けなくなったところで乗り込み拿捕するのがよくある戦法のようだった

魔法は面倒だなぁと考えていたが前提としてわたしには船がない

わたしは海賊を潰すことで胡椒の値を下げ、天日塩で塩を生産することで塩の値を下げることを考えたが、まず出来る塩を生産を優先しようと考えた

塩が生産出来れば輸入の必要がなく値が下がる

さらに他国へと売れる為、一石二鳥だった

砂糖については手がない

サトウキビかテンサイが手に入れば作れるかもしれないが。。。


「お嬢ちゃん」


考えながら歩いていると男より声がかかる

呼ばれて振り返るとまた声がかかった

「どうだい?見ていかないかい?」

ゴザの上に商品を並べて手招きしている露天商だった

瑪瑙のネックレスやブレスレットなどのビーズ作品が並ぶ

「うわぁ」といいながら白と茶の不揃いな瑪瑙のブレスレットを手に取った

なぜかこの色にひかれたのでデイジーから左手へつけてもらった

わたしはこれを2つと薄ピンクベースの瑪瑙のブレスレットを2つ買った

露天商は4つも売れるとは思ってなかったらしく上機嫌だった

やれやれという顔で支払いを終えたデイジーにわたしは「あげる」といいながら同じ左手首にブレスレットを付けてあげた

デイジーは自分の分だとは気づかなかったみたいで

「ありがとうございます。大事にいたします」

わたしを抱きながら涙声で言った




デイジーが手をギュッと握ってきた

しばらく歩くとマリスさんが小声でポツリと言った

「つけられてますわ」

それを聞いたゴスリングさんは「リンツッ!」と声をかけ、リンツさんは人込みへ消えていった

ゴスリングさんはわたしへ「そろそろ日が落ちます。屋敷へ戻りましょう」と落ち着かせるように言った


屋敷の門のところでリンツさんが後ろから追いついた

「すみません」

と謝りながら、ゴスリングさんへ報告していたので相手に巻かれたのだろう

わたしはデイジーに目配せし、デイジーもコクンと頷いた

調べてくれるはずだ



屋敷へ戻ってすぐに父ノーランとクレアさんに先ほど買った薄ピンクベースの瑪瑙のブレスレットをプレゼントした

クレアさんは「ありがとう」と喜んでつけてくれたが

「ユーディから初めてもらったものだ。やすやすとは付けられん。大切にしまっておく」

と、父ノーランは手の上で眺め大事そうに机へしまった



夜、父ノーランとクレアさんに今日の出来事を話した

もちろんつけられたことは言わなかった

マリスさんの魔法の件は父ノーランも知っていたが特に何も言われなかった

で、本題の塩を生産の件を話した

マリスさんからの案だということにして天日塩方法で海より海水を引き込み太陽と風によって水分を蒸発させ塩を作る

雨が少なく暖かく風が強い場所

2年ほどかかるが試す価値はある

風魔法を使える人がいればまだ早くなる旨も説いた

実際に塩水を作り、暖かい部屋で風魔法の使えるララさんを呼び、実践したのが功を奏したのだろう

父ノーランは一度王に許可を仰ぐと言っていたが乗り気なのが分かった

さっと手紙を書きあげ、伝令に手紙を持たせたようだった


許可を得た父ノーランは天日塩方法を海事都市ウォルシーからゴスリングさん領地の漁村カーモモの間で行うことにしたようだった

マリスさんをしばらく借りると言われ、父ノーランとマリスさんたちは現地へ向かっていった

どうせそうなるだろうと思っていたわたしは理論と方法をマリスさんにレクチャーしておいたが正解だったようだ






夜中、久方ぶりにわたしの家へ戻った

やはり、おばあちゃんはお茶を飲み、ちゃぶ台に寄りかかりながら火付盗賊改方をみている

ホムンクルスもおばあちゃんの対面へ座り、TVを見ていた

TVの音のみが流れ、いつ来ても不気味だ

わたしは空いたところに座り、創り出した緑茶をススりながらデイジーと話す

「例えばここで出したものをユーフォリアへ持っていくのはマズいかな?」

「持っていくは可能ですが、オススメ出来ません。信頼できる人間が少ない現状、それ流れたらそのせいで文明が急に発展する恐れがあります」

とデイジーから念を押された

やはり。。。とわたしが一番危惧していた点だ

「逆にいまあるものならどう?」

「アプラータの気候ではサトウキビは厳しいだろうけど砂糖の原料のテンサイなら作れる」

「あと手もかからず何にでも使えるトモウロコシあたりがあるといいわ。どうだろう?」

「戻ったらあとで調べてみましょう」

「お願い」

わたしも火付盗賊改方を見ながらデイジーのいうことに返事を返した



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