第8話 転生

わたしはベッドにいた

頭に冷やしたタオルが置かれていた

横にはデイジーが座り、目があうと話しかけてきた

「気がつかれましたか?」

気怠さを受けながら上半身を起こすとコクンと頷く

「お加減は如何ですか?」

「頭痛いし身体重い。。。」

身体の感触を確かめていると胸の奥が暖かい気がする

あの謎の言語をかけられた時の感じだ

胸に手を当て確認しようとしたが違う

心臓じゃない

心臓の横だ

あの押し込められてた場所だ


デイジーの視線に気がつき顔を向ける

「暖かくなってますか?」

「これは。。。?」

「心臓の横は魂の場所。魂にノワールの核が融合しようとする為に熱を持つと聞いています」

「核は殻。殻で魂を守り、成長するものだと」

「ノワールの核。。。」

「ノワールになったんだ。。。」

思い出したように左手をみる

「指輪」

「これつけられたの。。。」

小指には何の装飾もないシンプルな銀の指輪が鈍く光っている

デイジーは指輪は覗き込み

「・・・リングオブディヴォーション。金と銀で主従を表し、一対で一つの意味となすと言われている指輪です」

「主さまがおつけになられたのならきっと意味のあることだと思います」

わたしは左手をかざしながら指輪を見つめていた

 



「もう一対の金の指輪の持ち主を連れて来てますわ」

声と同時にブランとわたしがフッと現れた

「わたしがいる。。。」

ブランはフフッと笑いながらわたしが創ったホムンクルスですわと答えた

ベッドから飛び起きホムンクルスを前後左右から確認する

服と目に光がないのと小指に金の指輪をしている以外は瓜二つのホムンクルス

目の前で手を叩くも反応はない

答えを説明するようにブランは言う

「偽魂の為意識はございません。命じたことのみ動きます」



「さて、宜しいかしら?転生まであまり時間がありませんの?」

「あ、わたしまだこの格好で。。。」

ネグリジェのままのわたしはそう言うと

ハァと溜め息をついたブランは右指をパチンと鳴らす

「これでいいわ」

強制的に着替えさせられたのはビクトリア朝のモスグリーンカラーのポールガウンドレスだった




「行きますわよ」


ブランはわたしとホムンクルスの手を取り、わたしはデイジーの手を取り、デイジーはホムンクルスの手を取った

円陣みたいな感じと思っているとブランは何かを言いスッと視界が消えた


スッと視界が開けると真っ黒な無の空間だった

無の空間に四人が手を繋いで立っている状態


ブランから声がかかる

「ここが貴方の家。今は無。何もないわ」

「頭でイメージしなさい。どんな家がいいか。どんな空間にしたいか。」

「イメージしたら魂で願いなさい。」

「ノワールとなった貴方なら叶うはず。。。」


コクンと頷いて目を閉じてイメージする

写真がペラッペラッとめくられるようにイメージが切り替わっていく

その中でパッと頭に浮かんだイメージがあった

これだ!これがいい!


願う

強く願う

魂が暖かくなってくる

さらに強く願う

段々熱くなってきてスーっと熱が引く感じがした瞬間にブランの声が聞こえた

「いい場所ですわね」


ゆっくり目を開けると夕暮れの懐かしい実家が目の前にあった

玄関前の道路と右手の畑と左隣の林さん宅と実家

実家を中心として畑や林さん宅の先は描写されておらず無の状態だったがわたしには満足だった

わたしはどうしても確かめたくて家に入った

入って廊下を通り左の居間に入る


いた


お茶を飲みながら火付盗賊改方をみている

座布団の上に座り、ちゃぶ台に寄りかかりながら火付盗賊改方をみている

何度も何度も見た光景だ


おばあちゃんと言いながら背中へ抱きついた

夕ちゃんって声が聞きたかった

でも何も言わない

TVの音だけが流れている



「生物は創れませんわ」

背後から言われた




分かってた

何となくそんな気がしてた

でももしかしたらと思ってた

姿を見た時嬉しかった




やっぱり会えなかった



「申し訳ありませんが感傷に浸る時間はありませんの」

「思い出に浸るのは次回でお願いいたしますわ」

厳しい言葉が胸に刺さった





「あなたそこに跪いて頂戴」

ブランに言われるとおりにホムンクルスは畳の上に無表情で片膝をつく

「夕さんは、左手の掌でホムンクルスの額を触れて下さいな」

「それでアデューバメトゥアウィルトゥーテと唱えて頂戴」

「アデューバメ?」

「アデューバメトゥアウィルトゥーテですわ!」

「アデューバメトゥアウィルトゥーテ?」

言った瞬間ホムンクルスの額を中心に光が溢れ出し終息した

「これでいいですわ」

どうなったのかは分からないがホムンクルスから暖かいものを感じることは分かった

「ブランさん?これは、、、?どういう、、、、」

「説明があとになりましたわね。失礼いたしました」

「わたしの眷属だったホムンクルスを夕さんの眷属へと移したのです」

「ホムンクルスより、繋がりを感じますでしょう?ためしにホムンクルスの目を見て何か念じてみるといいですわ」

「念じる。。。?」

---ジャンプして?

するとホムンクルスはピョーンピョーンとジャンプを繰り返す

わたしは無表情でジャンプするわたしそっくりのホムンクルスを見て不気味さを覚えた

永遠とジャンプするホムンクルスをやめさせ、ちゃぶ台を囲んでみんなで座る

もし他人が傍から見てたらポールガウンドレスのわたし、イブニングドレスのブランさん、メイド服のデイジー、謁見の時の服装のホムンクルス、TVをみたまま動かないおばあちゃん、しかもわたしとおばあちゃん以外は土足という異様な光景を見てしまったことだろう


座るとすぐブランがパチンと指を鳴らし、皆の前に紅茶を出して私の目を見て話し始める

「まず言った通り貴方はノワール、ここは貴方の家。貴方も念じれば使えるはずです。」

「念じてみなさい」

不意に言われ、目についたものを念じた

トンと音がしてブランの出した紅茶の横に緑茶の入った湯呑が現れていた

「手に出したいと念じれば手に出てきます」

「貴方の創り出す力です」


創り出す力を試すわたしを満足そうに見ながらブランは続ける

「これからの事になります。長くなりますがとても大事な話になります。覚えておいて頂きたいことです。」


真剣な顔になったブランは話し始める

「明日貴方をランベルツ帝国シュヴァーベン公爵家に第二子の長女の稚児へ転生させます」

「しかしノワールである貴方を転生させると力が大きすぎるために周りにとてつもない影響を及ぼすと考えています」

「ですから主へお願いしてリングオブディヴォーションを用意し、貴方へ付与していただきました」

「その指輪は献身の指輪」

「銀の指輪を通して金の指輪のホムンクルスへと貴方のノワールの力を吸い上げます」

「転生先ではノワールの力がない貴方はただの人間。死んでも蘇生は出来ますが、魂を傷つけぬ様なさい。魂を護るノワールの殻が役目を果たさぬ状態、お気を付けを」

「そのため併せてデイジーも転移させます。シュヴァーベン家のメイドとして入り身の回りのお世話をする様に手筈は整えてあります。困った事や緊急の事態があれば彼女を頼りなさい」

「あとは2ヶ月に一回ほどこの家へ戻って来なさい。吸い上げていく貴方の力をホムンクルスのキャパシティ以上に溜め込むことは出来ません。貴方が戻れば本来のノワールである貴方へ力が戻ります。」

「先程もお話した通り、貴方はノワールでありながらただの人間になります。仮にもし貴方の魂が消滅したといたします。あわせて指輪も消滅いたします。ですが消滅する前に貴方の力全てを主である金の指輪の持ち主のホムンクルスへ飛ばし、吸い上げ次第金の指輪も消滅し、合わせて主従の効果も失われます。ノワールの全ての力が一気に指輪によってホムンクルスへ流れてしまい、眷属にしたとはいえホムンクルス程度では耐えられないでしょう。溢れ出したの力はこの貴方の家どころか、他の管理神の空間にすら影響を及ぼしかねません。」

「その為に夕さん、貴方をわたくしの使徒にいたしまして保護下に置くことに致します」

「ノワールの力程ではありませんが、使徒の力とわたくしの使徒の名が役に立つと思います」

「あと前世の貴方は19歳で亡くなりました。そのことを魂は記憶しております。その為、19歳で肉体的成長が止まってしまいます。ご注意ください」

「長くなりましたが、以上になりますわ。あとは評定がある時はお呼びいたしますから、貴方は主さまの命を果たしつつ、好きなようにお過ごしなされると宜しいかと存じます」


「ありがとうございます。あのいくつか質問を。。。」

わたしはブランに聞いた

どうぞと返ってき、問いかける

「まず、このホムンクルスの人はこれから何を。。。」

「これは貴方のかわりに貴方の家へ居て頂きます。指輪で繋がっただけの偽者のノワールであっても貴方が存在する限りは役目は果たすでしょう。管理神なくば星の安寧は得られません。」


「えっと、生まれた後に指輪を外すのをお願いするとかではダメなんでしょうか?」

「その指輪は消滅することでしか外すことは出来ません。即ち貴方かホムンクルスの魂が消滅した時。故にその指輪は貴重品。主さまの寛大なる御心に感謝なさるといいですわ」


「あと、さっきの話だと今もわたしの力はホムンクルスさんに吸われてるんですよね?何故創り出す力が使えるんでしょうか?」

「あら?ここは貴方の家でしょう」

とフフフッと笑いながら答えた


ブランはじゃあそろそろと立ち上がりながら言うと

「また明日お迎えに上がりますわ」

といつものようにカテーシーをしながらスッと消えた




次の日わたしが創り出した御飯、卵焼き、味噌汁、納豆の朝ごはんを食べていると

「クサッ」

「すごい匂いがしますわ」

と鼻をつまみながらブランが現れた

「ブランさんも御飯どうですか?」

と聞くも納豆を一瞥し

「わたくし腐った豆なんて食べませんわ」

と断られた


食事のあと、ブランさんの家へ転移した

最初に辿り着いた夜空と草原の場所だ

着くと目の前に魔法陣が描いてあった


「さぁ始めますわよ!」

「夕さん、中央へ立ってくださる?」

とブランから声がかかった

「今から転生させますわ。生まれる前日となりますが、生まれるまで冬眠状態になるのであなたには一瞬のことでしょう」

「さぁ始めますわよ!」

ブランは私に魔法を放つようにこちらへ両手を向け、目を閉じて謎の言語を唱えだした

途端に魔法陣の外周から光が溢れ出す

外周より私のほうへ波のように押し寄せる

そのうちひときわ一段と大きな光の波が現れた

一段と大きな光が段々と半径を縮めるように私のほうへ向かってくる

「ブランさん、ありがとうございました。このご恩は。。。」

バシュンと飛ばされた気がした

最後に見えたのはいつものカテーシーをするブランの姿だった









--旦那さま、大奥さま、お嬢さまが。。。

   お嬢さまがお生まれになりました!!!




〖第8話と序章が長くなってしまい。申し訳ありません。次から本編になります。 おもち〗


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