第7話 拝謁2

重い空気が平伏するわたしへのしかかってくる

潰されないように耐える

額からも前髪を伝って汗がポタポタ垂れてくる

ブラウスの背中や脇もびっしょり濡れている

素肌に引っ付く嫌な感触を我慢しながら待つ


長い長い長い長い長い長い

10秒が1時間に感じる


---主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない主が出られるまで顔を上げない


無限に繰り返しているとチリンチリンと風鈴のような音が聞こえた

反射的にハッと顔を上げてしまいそうになったがグッと我慢した



後ろからカツッカツッと足音が聞こえる

カツッカツッカツッカツッ

近づいてきているが分かる

怖くなって体が震えだした

目の前は汗で水たまりになっている


カツッカツッカッ・・・

真横にいる!気配で分かった



いきなり固いもので平伏する腰の中心を触られた

ビクッとして声が出そうになった

震えも止まらないが顔は上げないよう食いしばる

固いものは腰の中心から背骨に沿ってスススーと這わせていき胸部でいったん止まり、その後背骨に沿って首までなぞると離れていった


・・・カツッカツッカツッ

足音が離れていく


ドスンと椅子に座った音がした






ふいに声がかかる

「そなたがブランたちが言っておったものだな」

---老人?

フッとよぎるが待たせていけないとすぐに返事を返す

「はい。秋月夕と申します。」

驚くほどすんなり声が出た

「たしかに見た目は老人だな」

---心が読まれた

鳥肌と冷や汗が噴出して来た

---心を無に心を無に心を無に



「まぁいい」

「ところでブランが言っておったが、ノワールになる前に知識を得るためにユーフォリアで生活したいと?」

「はい。お願いしたく存じます」

震える声でなんとか紡ぎ出す



「聞いておろうがユーフォリアには管理神がおらぬ」

「ノワールが去ってしまったからだ」

−−−去った?

「そうだ。ヤツの願いを叶えたからな」

また心を読まれて情け無さと恐怖の感情に包まれるわたしに言葉は続く

「管理神おらぬと大地が乱れる。草木は枯れ、水は汚れ、大地は荒れる。まだ荒れる程度ならいい。荒れたまましばらくたつと不浄が生まれ腐敗が始まる。腐敗は腐食へと成長する。腐食は周りを飲み込みながら更に不浄を生む。腐食はすべて喰らいつくしていき、最後は何物も住めぬ死の星になる」

「わしは国内の権力争いや、魔物どもの襲撃なぞ興味はない」

「種族間の対立や、国同士の戦なぞ考えるにも値せぬ」

声質が変わった

「だが、管理神がおらんのは気に入らん」

「いくつか荒れた場所もあると聞く」

声圧が上がる

空気の圧がまでも強くなる

「それにわしが創ったユーフォリアが死の星になるのは許せん」

「わしの星に住みながら我らへの信仰が気薄になり、薄汚い邪教がはびこり、あまつさえ聞いたことない僭称した使徒の作った国が建っておるというのはなお我慢ならん」

「おまえのかわりに生きとし生けるものすべてを一層してやりたいくらいだ」

「わかるかわしの怒りがッ!」

「わしのかわりに反吐が出る汚物どもを掃除し、管理神として星を正せ!よいかッッ!」

空気が震えて、前方寄りの圧で胃酸が上がり吐き気を催してきた

はいと涙ながらに小さな声を出すが精いっぱいだった



「ふむ」

スッと空気が元に戻った

前方寄りの圧も消えた

「ブランよ、案は決まったか?」

「先日提案いたしましたホムンクルス案が最善かと愚考致します」

「第三位神を転生させるとなると魂が肉体へ宿った時、生まれた時の影響と衝撃が計り知れないものとなると思われます」

「第七位神を転生させましたときですらあの有様でしたので。。。」


「あと、あの指輪をお借りせねばなりません」

「ふむ」


「仕方なかろう」



「して、どこに転生させるかは適任はおるのか?」

「直近の生まれで4人ほど探しております」

「2日後にハイエルフ種・ユーノー族族長星詠みの巫女アグラリエルの長女ミーリエルの第一子に長女が生まれます」

「彼女らと共にする精霊シルフたちよりの嘆願もございます、いかがでございましょう」

「ミーリエルは知らんが、アグラリエルは我らに不遜な上申をしてきた輩。却下だ」

「では、こちらを。4日後に人間種・ランベルツ帝国シュヴァーベン公爵家ノーラン・フォン・シュヴァーベンの正妻クレアに第二子の長女が生まれます」

「ランベルツ帝国は人間種の中でも主さまの信仰が一番大きい地、いかがでございましょう?」

「それでよかろう」

頭を伏せている為見えないが、こちらを見ている気がした




静けさのみが空間を漂う

定期的にピチャッピチャッと前髪より落ちるわたしの汗の音のみが響いている




急に足音がし始めた

カツッカツッカツッカツッ・・・


気配を感じる

目の前にいるのを感じる

頭の上から声がかかり、ビクっとなった

「夕よ、おぬしの望みをかなえる」

「ノワールにもすぐになってもらう」


またあの固いものが押し付けられた

さきほど一旦止まった胸部の位置だ

グッと押し込められ今度はさっきより強い

押し込んだまま頭の上より聞いたことのない言語の呪文の詠唱のような言葉を受ける

何を言っているか分からないが、聞き入ってしまい胸の奥が暖かくなる気がする

心地よい響きに微睡みへ誘われそうな感覚から背中の押し込みの重さがフッと抜け、またあの重い空気が身体に纏わりつく


「左手を出せ」

震えながら頭の上へ手を差し出す

グッと手をとらえれた先には革のグローブの感触があった


また頭の上から聞いたことない言語を受けると小指が締め付けれる感触がした



「よいぞ」

クククッと言われながら手を離される

カツッカツッカツッカツッと遠くなる足音を聞きながら、手を元に戻すと左手小指に銀の指輪が鈍く光っていた


「ブランよ、ノワールを連れて帰れ。お前は後でまた来い」


声がかかると後ろからカツンカツンとヒールの音が近づいてくる

ヒールの音がそばまで来たら肩に手を回されたのが分かった

「戻るわね」の声でスッと視界が消えた





スッと視界が開けると目の前にデイジーがいた

デイジーを見ると胸が暖かくなった

戻ったんだと思うとまたポロポロ涙が出てきた

恐怖や緊張から解放されても、震えや涙が止まらない

デイジーは泣き出したわたしに驚きながらも「おかえりなさいませ」と言いながらハンカチで涙でぐちゃぐちゃになっているわたしの顔をぬぐう


デイジーは私の肩を支えながら言った

「落ち着きますよ、紅茶でもいかがでしょう」


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