第2話 最後

2024年11月30日


横でおばあちゃんが泣いている

何かを言っているようだが分からない

声をかけたいが言葉も出せないし、体も動かない




わたしは秋月夕

肉親はおばあちゃん一人

おじいちゃんは生まれる前に亡くなって見たことないし

両親も6歳の時に事故で亡くなった

わたしも19歳で亡くなった

おばあちゃんは良くしてくれた

家は裕福だったのだろう

元気だった頃や聞いたこともない心臓の奇病で3年も入院していた時にお金に困っている様子は見えなかった

欲しいものは買ってもらえたし、いつも家にいるしなぜだろうと子供ながらに不思議に見えたものだった

おばあちゃんは博識だった

料理、家事はもちろん花や動物、聞けばなんでも教えてくれた

そんなおばあちゃんは時代劇が好きだった

特に火付け盗賊改め方の時代劇が好きで一緒に見たものだった

おじいちゃんに影響されたと笑いながら話していたが

おばあちゃんのおかげでわたしも影響されてしまった

同世代の魔法少女ものやキャラクター系には興味がなかったせいで友達もいなかった


突如高校生16歳の頃に心臓の奇病が発症した

最初は胸の痛みだけだったがそのうち痺れで動けなくなった

それまではすこぶる健康で病気など無縁だったので入院後しばらくはショックを受けた

入院して体の動かないわたしの楽しみはおばあちゃんの面会と時代劇のBD見ることだった

おばあちゃんは病室へほぼほぼ毎日来てくれた

着替えやお土産などを持って面会時間の最初から最後まで病室で過ごし世話をしてもらった


ある日面会時間を過ぎてもおばあちゃんは来なかった

たまにそんな日があったので気にも留めなかった

だから看護師さんにセットをお願いし時代劇を見ていた

なんの気無しに窓の外を見ると白い鳥が街路樹に留まってこちらを見ていた

視線を戻して火付け盗賊改めを見るが無性に白い鳥が気になってしまった


看護師さんに尋ねた

「あの黒い鳥はなんていう名前なんです?」

「わかんないなぁ、カラス?じゃないよね?」

「あぁでも、ちょっと前から見かけ始めたんだよね」


それからもおばあちゃんがいないときに限って黒い鳥がいる

監視しているような風だったが嫌な感じはしなかった


わたしは黒い鳥を黒いからという安直な理由だけでクロと名付けた


わたしの会話相手はおばあちゃん、看護師さんだけだったがクロが増えた

当然クロとの間には窓もあるし、鳥なので会話が成立するわけがないのだがわたしは話しかけた

自分のことやおばあちゃんのこと、時代劇のことやたわいもない話だったがクロは聞いてくれている気がした


おばあちゃんが来る日はおばあちゃんと、来ない日はクロとの会話が日課になった


クロは気が付くといる

いつも同じ木の、同じ枝にとまってこちらを見ている

それでいつの間にかいなくなる


いつか飛び立つところを見る!と試したことがあったが無駄だった

わたしの気が付かないところでいなくなっている

わたしはクロに興味が湧いていた


クロはなんなんだろう。。。と


カラスほど大きくなくカササギくらいだが色合いが違う

ネットで色々調べたが分からなかった

おばあちゃんにも聞いたが

「神の使いかねぇ?会ってみたいねぇ」

と言われ、結局分からずじまいだった



11月30日朝から調子が悪かった


お昼頃になると過去一で激しく胸も痛いし、息をするのもつらい

まわりで先生や看護師さんがせわしなく動いているのがなんとなくわかる


3年も病室へいたので原因不明で対処の仕様がないのはうっすら分かっていた

今日で死ぬのか。。。と達観すらしていた


横でおばあちゃんが泣いている

何かを言っているようだが分からない

ありがとうと声をかけたいが言葉も出せないし、体も動かない


『大丈夫です』


頭に中に声が響いた

朦朧とする中、意識を外へ向けると、窓のふちにクロがいた

その瞬間意識が途絶えた






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る