第40話 さあ、実験をしよう

 冒険者達が、ナグの身を案じた時だった。

 ナグが叫んだ。


「【召喚】ゲート開け!! 召喚、セウル!!」


 別に契約した訳では無いが、教えておいた合図を元に、俺は〈ゲート〉から弾けるように飛んで、残った光の剣を全て収束。

 引力で一つにする。


 更に残ったMPのほぼ全てを、剣に注ぎ込んだ。


 生まれるのは、目を灼くような閃光を放つ一本の剣。

 これを右手に握り―――ナグを左腕に抱え、密着する。


 ステータス上昇で、糸が先ほどまでとは比べ物にならないほどゆっくりに見える。

 しかも頭を失い、未だ狙いの定まらない糸だ。


 レベルの低い俺でも、余裕で接近できる。


 糸を切り裂きながら、パンドラに向かい。


 そして、


「チェックメイトだッ!!」


 パンドラを上から真っ二つに両断。

 だが足りない、ヤツが心臓あたりから再生を始めている。


 ―――俺はヤツの心臓を一突き、再生は収まったが、ズタズタの細切れにして――― 一片残らず剣で焼き尽くした。


 ゲートの中の頭もだ。


 とうとうパンドラが巨大な〈世界石〉に還る。


◤ダンジョンボス、絶望の箱パンドラを倒しました。◢


 レベルが7になりました。

 レベルが8になりました。

 レベルが9になりました。

 レベルが10になりました。

              ◢


 討伐報酬宝箱がドロップしました。


「なにこれ、レベルが4つも上がりましたよ!!」

「俺もだ」


「「「やりやがった!! スゲェ!!」」」

「あんなモンスターを、一瞬で切り刻んじまいやがった! 俺の斧でも刃が立たねえだろうに、なんてこった―――と、鳥肌が治まらねぇ!!」

「一発でも当たったら致命傷なのに、ナグって子、なんて勇気なの!?」


 こんどこそ冒険者たちの勝利の声。


「―――本当にすごいよ」


 金髪剣士が剣を仕舞って、軽く手を叩いた。


 そして俺たちの周囲を囲んでいた、黒い障壁が消え去った。

 すると、徐々に周りの景色が揺れていき――


 見慣れた風景が重なりだす。


 ダンジョンの景色が薄くなり。

 ――俺たち冒険者は全員、街道沿いの森にいた。


 ダンジョンが消滅したのである。


「お帰り!! ――」


 ギルドマスターが、俺たちに手をふる。


「――ボスを倒したんだね!! ――」


 ギルドマスターが俺を見ていたので、頷きで答えた。


「――それじゃあ、ギルドで祝勝会だ!!」


 辺りにいた数十人の冒険者が一斉に「わっ」っと声を挙げた。


「さて、ボス宝箱だがどうする?」


 誰かが言ったので、俺も足元にあった赤い宝箱をみた。


 金髪剣士が、討伐隊に参加した冒険者たちを見ながら言った。


「セウル君の物でいいよ――いいよね、みんな」

「そうね、それが当然よね」

「俺は間抜けして足を引っ張ったから、何も言えねぇ」

「足を切られてよね」


 槍使いが、魔獣使いのきついツッコミに頭をかいた。


「私も、セウルくんの物にしてほしいです」

「ナグ、お前は活躍したんだが」

「作戦を考えたのも、止めを刺したのもセウルくんです。私のゲートだと相手が中にはいっちゃって、細切れになんてできませんよ」


 そんなナグの言葉を、金髪剣士が聴いて苦笑しながら、


「全員いいみたいだね、さあ開けてみて」


 宝箱を持ち上げ、俺に示す。


「じゃあ、遠慮なく」


 開くと、一枚のスクロール。


「これは」


 他の冒険者たちも宝箱の中を覗き込んだ。


「スキルスクロールじゃねぇか!」

「それも【鑑定】のスクロールダヨ!」

「いいなぁ!」

「赤箱にしては、大当たりだね」


 なるほど、良いものを貰った。


 スキルには才能スキルとして与えられるものと、こうしてスクロールなどで覚えられる一般スキルが有る。


 一般スキルに覚えられる限界はないが、才能スキルは最大3つしか貰えない。

 それからスキルのスクロールはちょっとした物でも、まず出回らない。


 売っていても数百万タイト、中には数千万などという値がつく。


「売るかい?」


 金髪剣士の問いに、俺は首を振る。


「いや、これは使うべきだな」

「じゃあセウルくん、早速、使ってみてください!」


 ナグが急かすので、スクロールを広げてみる。


「記憶の女神の名に置いて、我は【鑑定】権限を行使せん」


『承認します』


 という声と共に、俺の体が発光した。


「憶えたようだね」

「みたいだな―――【鑑定】」


 自分を鑑定してみる。


 セウル・F・オルセデオ


 レベル10


 HP  80

 MP  400

 力   62(+50)

 素早さ 168(+50)

 器用さ 120(+50)

 魔力  -32668(×2)(-50)

 運   +55

 性質  -20

 称号アビリティ なし

 才能スキル 【魔力2倍】

 スキル 【鑑定】


 確かに【鑑定】だ。


 レベルが上がって、ステータスが上がっているのは分かるが。


 最初の鑑定から運が少し上がって、性質がマイナスに傾いているのは元の性格に戻ったからだな。


 記憶が戻る前は、善人だった訳だ。

 そして、なによりレベルアップで魔力が100上がっているな。


 上昇度合いが異常だ。人間では普通、一生努力しても500から1500程度しか上がらない。


 おそらくマイナスだから、上昇しやすいのだろう。


 家を出てから5レベル上がったから、1レベルに20。

 これはレベルがカンストする頃には、1980近く上がるのか。


 許容範囲だが、面白いものではないな。

 ()内はナグの〝祝福〟だろうな。この距離でも100もアップするのか凄いな。


 彼女なら俺の成長を、抑えきってくれるだろうか。


 俺は少し遠くにいたナグに近づいて、密着するように引き寄せる。


「え、なに? なんですかセウルくん・・・恥ずかしいです」


 と、ナグは口で拒否するが、体では全く拒否していない。


「【鑑定】の実験だ」

「――――――また実験ですか」


 セウル・F・オルセデオ


 レベル10


 HP  80

 MP  400

 力   62(+100)

 素早さ 168(+100)

 器用さ 120(+100)

 魔力  -32768(×2)(-100)

 運   +55

 性質  -20

 称号アビリティ なし

 才能スキル 【魔力2倍】

 スキル 【鑑定】


 なるほど、こんなに上がっていたのか。


 本当にこの祝福は大したものだ。


 まてよ、ナグも【鑑定】しておくか。

 こいつの祝福とはなんなのだ。

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