第38話 さあ、戦いをはじめよう

   ◆◇◆◇◆




 ヒュン


「〖水作成クリエイト・ウォォォォォタァァァァ〗」


 俺は勢いよく放った水で俺たちを囲って、迫りくる〝それ〟を防ぐ。


 不味い、思ったよりも崩壊度が高い。


 出てくるのはカオスボックス辺りかと思ったら、これは―――なんだ。


「え、え、え!?」


 ナグは、状況を理解できず混乱している。

 その時、細い何かが輝いた。


「糸?」


 ナグの呟きの後に、〝それ〟が反転。

 狙うは彼女。


「ヤナヤ!!」


 ナグが竜の幼生を守ろうと、抱きしめてうずくまる。


「〖罪と罰ジャッジメント・ジェイル〗!!」


 俺はナグとヤナヤを鎖で包んで、遠くへ放り投げる。


 本来緑のはずのチャリオットビーストの筋が赤かったから、まだ終わらないとは思っていたが。


「ナグ、ヤナヤを仕舞え」

「は―――はい!」

「冒険者ども、下がれ!!」

「黙れFランク!」


 俺の退しりぞけという声は、狂戦士にかき消される。


 恐慌をきたす冒険者たち。


「ナイン!! ナイン!!」

「イヤァァァァァァ――――――!!」


 そんな彼らに俺は叫んだ。


「冒険者たち、冷静になれ! ――」


 そうして、ナインという槍使いに駆け寄る。


「――大丈夫、両足が切断されただけだ」


 魔獣使いの女性アイシャが、俺の胸ぐらを掴んで食って掛かってきた。


「だ―――大丈夫!? ふざけんじゃ無いわよ!!」


「だ、だれか―――エリクサーを・・・」


 槍使いの治療薬の懇願に返すのは、狂戦士。


「あ、有るわけねぇだろ!!」


 俺は、足の切断面を慎重に合わせて。


 少し全力を出す。


「女神よ力を貸しやがれ!! 〖大治癒ハイ・ヒール〗!! もっぺんだ!! 〖大治癒ハイ・ヒール〗!!」


 よし、繋がった。


 痛みが引いたことに気づいたらしい槍使いが、立ち上がった。


「あれ―――? 足が動く――立てるぞ!!」


「え?」「なんで治ったの!?」


 それはいいが、俺は力を使いすぎた。今のレベルでは完全に使いこなせない〖大治癒〗で、これを接続するのは少し堪えた。

 MPメンタルポイントが一気に半分になったことで、目眩がして意識を失いかける。

 そこへ風切音。

 マズ――、


 ギィィィィィィン


 金髪剣士のバックラーが、俺を護る。


 剣士が、俺に向き直り言う。


「僕は君を【鑑定】済だ、セウル君。僕たちは何をしたらいい!」


 目眩のする頭を振って、俺は答える。


退がれ」

「邪魔なんだね―――分かった!」

「何いってんだデイン!! そいつはF――」「僕は彼をここに来る前に【鑑定】した。彼は、僕らより強い!」


 金髪剣士の声が、狂戦士の声を遮った。

 なるほど、突入前の【鑑定】の声は、この剣士か。


「はぁ!?」


 さらに言ったのは槍使い。


「下がろう、ノックス」

「ナインお前まで!! 勘違いするな、治したのはエリクサーだろう!」


 それに対して、金髪剣士が威圧するように言った。


「いいから下がるんだ。これはAランクで、このボス討伐隊のリーダーである僕からの命令だ!!」

「―――ッ、――くそが!!」


 狂戦士は、斧を背中に仕舞って走り出す。


 他の冒険者もそれを追った。


「それでいい」


 呟く俺に、ナグが遠くから尋ねてくる。


「セウルくん、なんなんですかこれは!!」

「〝魔蝕崩壊ましょくほうかい〟だ」

「な、なんですか―――それって」


 金髪剣士が呟いた。


「やっぱり――――」


 狂戦士の激昂。


「魔蝕崩壊ってなんだよ!」

「ボスの進化だよ。ゲートの中でゲートを開くようなボスが倒れると、力が逆流してボスが進化するんだ――それが〝魔蝕崩壊〟。そのあまりの強さに、災害にすら喩えられる」

「災害!? ・・・なんだよ―――そら、――俺ぁ知らねぇぞ」

「Aランク以上になったら教えてもらえる事なんだ。たまにボス討伐隊が全滅して周辺の街のAランクの冒険者が大量に集められて、ギルドマスターなんかも再攻略に参加することが有るだろう」

「―――ギルマスが参加するパーティー ―――あれか、毎度半数以上が帰ってこない―――?」

「というかAランク以上しか知らない事を、なんであのFランクが知ってんのヨ!!」


 楽師の女性が「おかしい」と指摘する。


「それは分からない。ただ――状況が不味いのだけは分かる。僕も一度参加したけど―――あれは地獄だった、再攻略パーティーにAランク13人、ギルドマスター3名が参加してすら、半数が死んだ。しかも今、目の前にいる魔蝕崩壊は、間違いなくあの時以上の強さだ」

「今より弱い相手に、その戦力で半数死亡って、・・・・俺達じゃ・・・」


 狂戦士の戸惑い。


「―――逃げられないんだよネ? 私たちは全滅するってこコト!?」


 俺は、楽師の質問に答える金髪の視線を、背中に感じた。


「わからない」

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