第37話 さあ、ボスの討伐を見守ろう
俺たちが瘴気に入ると、黒い霧が風で一気に払われる。
竜巻のような突風の中から現れたのは、朱色の双頭の馬が4頭。そして中央に二輪が付いた白い箱状のゴーレム。
箱ゴーレムには血管のような赤い筋が幾つも浮かんで、脈動するように明滅していた。
そして突風が止むと、ボスを中心に半径16メートル程度の黒い球状の壁が産まれた。
さらに地面が浮き上がる。
どんどん上昇を続ける。
上昇は決して止まらない。
「逃げられないタイプのボスだね」
「いいか野郎ども、目の前のボスを倒すか、俺たち全員が死ぬまで
金髪の剣士が見事な立ち姿で、スラリと腰の物を抜く。
黒髪の狂戦士が背中から戦斧を二本取り出し、嗤った。
「いけ! ペガサス、フラン!!」
魔獣使いアイシャ・ラブルがボスを指差すと、彼女の背後から栗毛に金の
馬の口元では、炎がチロチロと舌のように揺れている。
「いきますよ、ヤナヤ!!」
次いでナグが、彼女の腕の中で頷く白猫のような白竜を、両手で前に突き出した。
幼生の喉の奥では、青白い光が漏れ始めていた。
「ル ザード ソーハラ エーナム 深き者よ聞け、遠き風、近き風―――」
魔術師アム・ミリハが、捻くれた樫の杖を振って眼前に構える。
杖に結ばれた
恐らく風属性が得意な魔術師だろう。
アム・ミリハは両の腕をクロスさせ目を瞑り、静かに魔術の詠唱を続けた。
その隣では、楽師パルが澄んだ鈴の様な声で高らかに歌い始めた。
「〽おお、勇敢なる者たちよ―――」
楽師の掻き鳴らすハープの旋律と、よく通るソプラノが周囲を包むと、全員のステータスが上昇する。
それらを受けて黒髪の狂戦士ノックス・ガルが、突進してくる双頭の馬の一頭を、二本の戦斧で止める。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
まるで鋼鉄同士が打ち合わされたような音がして、力を拮抗させる両者。
青髪で長髪の槍術士ナイン・ナルディアが、突進してくる馬を華麗に躱して後ろから鋭利な突き。
「ハアァァァァァァァァァ!!」
馬の後ろ足が、反撃を返す。
それを躱して石突で、馬をたじろがせた。
そんな全員の援護を受けて、金髪の剣士デイン・デイライトが突進する。
「行け、デインこいつ等は任せろ」
「すまない!」
剣士の狙いは、中央のゴーレム。
さらにペガサスが、外側からの馬を抑える。
ナグの抱くヤナヤが閃光を放って、最後の一頭の馬を怯ませた。
さてと、俺も。
前に出ようとした時である。
「ッこんでろ!!」
俺の前に出てきて、進路を塞ぐ狂戦士。
ふむ。
「Fランクの出る幕じゃあねぇんだよ!!」
まぁ、今は手出し不要だろう。
ナグは女性だからか、何も文句を言われていないしな。
しばらくは互角の戦いが続いた。
その拮抗を破ったのは槍使いだ。
「【
見事な一撃が、双頭の馬の心臓を貫いた。
瞬時に〈世界石〉に還る馬。
これで一気に形勢は、冒険者に傾く。
槍使いが斧使いに加勢して、もう一頭を屠ると、更に一頭、更にと、残るは箱ゴーレムだけになった。
「【斬鉄剣】!」
「【
「【
「〖
「フラン吐け、【怒りの業火】」
「ヤナヤ、【
「〽猛よ吼えよ、そなたらの魂に―――」
剣士の袈裟斬りが、狂戦士の双撃が、槍使いの連突きが、魔術師のカミソリのような竜巻による数え切れない斬撃が箱ゴーレムを削る。
ペガサスの業火と、ヤナヤの閃光が焼く。
楽師の歌が、味方の攻撃力を上昇させる。
ナグは前衛に近い位置に居るので、〝祝福〟も上手く利いているだろう。
そろそろだな。
剣士がスキルを使い、高く跳び上がった。
「【比翼】!!」
左右で色の違う2枚の翼で羽ばたいた剣士が、加速を付けて落下。
「【連理なるセフィロト】!!」
剣士の剣に不思議な模様が浮かび上がった。
箱ゴーレムから放たれた熱線も翼で弾いて、罅の入った砕けかけの場所に、剣士の縦斬りが叩き込まれる。
発生する11連撃。
連撃によりミシミシと砕ける、ボス――チャリオットビーストだった。
「さて、と」
俺は立ち上がる。
「やった!! 倒したぞ!!」
「ボス討伐完了だ!!」
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
喜び合う冒険者たち。
「すげぇ2レベルも一気に」
「みて! 馬の〈世界石〉! 護衛で、このサイズだヨ!!」
楽師は、拳二つ分はあろうかという世界石を掲げて喜ぶ。
「セウルくん! やりましたよ! ヤナヤとやりました! 聞いて下さい3レベルも一気に・・・・・・・・・―――セウルくん?」
「一旦下がれ、ナグ」
「え?」
そこで槍使いが呟いた。
「あれ? でも討伐報酬宝箱は――」
ヒュン
音と共に、槍使いの体がズレた。
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