第36話 さあ、ボス戦の準備をしよう

   ◆◇◆◇◆




「おい、見ろよ。アイツ等が」

「男の方、見たことない顔よね」

「セウルズとかいうトコ?」

「なんでFランクがいるんだ!」


 討伐隊の集合場所に行くと、物凄い勢いで他のパーティーメンバーから睨まれた。

 まあ、よく有ることだ。


 ただ、一つだけ「【鑑定】・・・――――なんだ・・・・このステータスは、強いと見るべきなのか・・・?」という声が聞こえた。どうやら俺を鑑定した人物がいるみたいだ。


 あと、集合場所にはギルドの人間がいた。


「頑張ってねセウル君。ボクは君に期待しているよ」


 そんな声にナグがうなだれて、


「実行犯がここにいました」


 とか呟いている。

 実行犯は、もちろんロファだった。


「ああ、ナグくん、君もすごい召喚獣と契約できたらしいって報告があってね」

「ええ、まあ」


 言いながらちんちくりんの鼠獣人は、ナグの肩に乗るヤナヤの頭を撫でている。

 しかしこのギルドマスターは、いつでも水着みたいな格好なんだな。

 ダンジョンの中までこんな格好で来れるとは、痴女なのか?

 俺とギルドマスターの様子を遠巻きに見る冒険者からは「なんだ、あの羽の生えた白猫」などという声が聞こえた。


「やっぱり君だってちゃんと契約できるんだよ、おめでとう! 本当によかったね!」

「無邪気ににそう言われてしまうと、もう何も言う気が無くなってしまいます」


 ナグが、ギルドマスターの素直さに撃沈されていた。

 微笑んだギルドマスターは、他のボス討伐隊メンバーに向き直る。


「さあ、集まったみんな――」「なんでだ!」


 彼女が手を叩いて注目を集めた所で、一人の魔剣士が駆け込んできた。

 ゴージャスな格好をしている。


 「なんだ、なんだ」と全員が視線をやった。


「君か」


 ギルドマスターロファが駆け込んできた男を見て、わずかにため息を吐いた。

 ナグを追い出したリゲルだ。

 後ろにはゴージャス女と、巨漢坊主頭もいる。


「ふざけるな! なんでコイツ等が、ボス討伐メンバーなんだ!」

「コイツ等とは?」

「そこの蝕み子と、Fランクだ!」

「なるほどナグ君とセウル君だね、君の気にすることじゃないじゃないか」

「昨日から狩りが上手く行かないんだよ! そんな時にこんな奴等がボス討伐隊に寄生して報酬を貰えるなんて言われたら、許せると思うか!」

「やれやれ」


 なるほど、あの魔剣士は〖着火スパーク〗すら上手く使えない様子の魔術の腕だ。


 魔力を下げられても、他のステータスが上がるナグの加護があった方が都合は良かったのだろう。

 それに、そもそも魔術は仲間から距離を取って使うことが多い。


 ナグにも壁役をやらせていたらしいから、遠近と相応しいステータスになっていたのを追い出したんだ、前のようには行かないだろうな。


「なんでだ! なんでソイツ等を選んだ!」

「強いからだよ」


 それを訊いたリゲルが、顔を真っ赤にする。


「強い!? コイツ等が!? コイツ等が選ばれるなら、俺の方がずっと強い!! ――つか、選んだって――あんたギルドマスターか!?」

「そうだよ。なんにしても、彼らは君よりはずっと強いよ」

「そいつFランクだろう、俺はDだぞ!」

「Fランクだからなんなんだい、ランクだけで人を見るのは止めた方が良いよ。――あと、君はEだよ」

「は??」

「色々有って連絡が遅れていたんだね、君のDランク昇格は取り消した、君にはまだDは早い」

「はぁあああ?! ・・・ふざけんな! バンソン!!」


 ゴージャスがギルドマスターを指すと、坊主頭の巨漢がギルドマスターに突進した。


「ギルドマスターさん! その人強いです!!」


 ナグが危険だと叫んだが。


 迫ってきた巨漢の下で鼠獣人の体が一瞬ブレたかと思うと、巨漢の顔の前に現れ鋭い一回転。

 つま先を相手の顎に当てる。

 バンソンとかいう坊主頭の巨躯が、地面に崩れ落ちた。


「・・・・な・・・な・・・」


 ギルドマスターのあまりの強さに、ゴージャスが声も出なくなっている。

 あの巨漢を一発昏倒とは、流石ギルドマスターだな。

 「あらゆる道具を、何も考えず武器として振り回せ」という捨流しゃりゅうを修めているだけあって、剣も体術も大した物だ。

 後ろではゴージャス女も、青ざめている。


「君等もやるかい?」


 鼠獣人が若干乱れた髪を直しながら、ゴージャスに冷ややかな笑顔を向けた。


「や・・・やらない―――というか俺はそのFランク達より強いって言ってんだ! あんたより強いって言ってるわけじゃない!」

「そうかい。まあそんなボクの決定を、君が覆せるのかい?」


 ゴージャスが舌打ちをする。


「お、憶えてろ!!」


 ゴージャス二人は、脱兎のごとく逃げ去った。


「いや、ギルマスに手を出した事なんて忘れて貰った方が良いと思うんだけどね」


 肩をすくめて、向き直るロファ。


「ま、ボクに立ち向かった勇気に免じて許してあげよう」


 言いながらギルマスは、意識を失ったままの巨漢に活を入れて目を覚まさせると「ホラ帰った帰った」と指を差した。


 巨漢は慌てて、小動物のようにゴージャスたちの後を追ったのだった。


「いいのか?」


 俺の問いに、


「あの程度のこといちいち相手してたら、冒険者ギルドのマスターなんてやってられないよ」


 と笑った。

 大したもんだ。


「さてじゃあ、ちょっとチャチャが入ったけど、ボスはこの崖の下だ」


 俺たちが崖下を見ると、黒い霧のような何かに覆われて見えないが、確かに強い気配がする。


「敵は恐らくチャリオットビースト、みんな頼んだよ」


 冒険者たちがそれぞれ返事する。


「任せて下さい」

「ハイ!」

「滾るぜ!!」


 俺たちも返事する。


「了解」

「は、はひ」


 冒険者たちは瘴気へ向かって、崖を滑り降り始めた。

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