第34話 さあ、ダンジョンでは珍しいキャンプをしよう

   ◆◇◆◇◆




「〖聖撃フォース〗」


 俺が放った法術が、周囲のゴブリンを一掃する。


「い、一撃ですか。30体もでてきた時は慌てましたけど――これが伝説の法術ですか・・・攻撃力は低いって聴いてましたけど、どうなってるんでしょうか」


 ヤナヤを肩に乗せたナグが、乾いた笑いを挙げている。


「ゴブリンの素材は要らんな」


 オーラセイバーで全て〈世界石〉に還した。

 親指サイズの〈世界石〉が残った。


「にしても本当に沢山狩りましたね――私、なにもしてませんけど」

「ヤナヤが一体倒しただろう」


 小さくとも白竜、見事な光線を口から放ってゴブリンを貫いた。すでに強い。


「ヤナヤが強いだけで」

「召喚術師とはそういう物だ――と、宝箱も出たな」

「それも二つです!」


 ダンジョンのモンスターは低確率だが、宝箱を出すことがある。

 中には武器防具、マジックアイテム、雑貨など様々な物が入っていたりする。


「ゴブリンキャップとゴブリンシャーマンの物だな。中身はゴブリンダガーと、――〖大治癒ハイ・ヒール〗のスクロールか。ナグ、このダガーは護身用にもっておけ、その代わり俺はスクロールを貰うが、いいか?」


 俺はダガーを投げて渡す。


「もちろんです! セウルくん以外にはゴミですから、法術のスクロール――あれ? 私も使えるのかな? いや、なんの練習もしていない私が使っても役に立ちそうにないですし・・・」

「後から俺から教えてやっても良いしな、使わせてもらうぞ」

「はい、どうぞどうぞ」


 俺はスクロールを開く。


 スクロールが光って消滅した。


 スクロールを使えば、勝手に聖法陣が憶えられるのが楽だ。

 そして、


「〖大治癒ハイ・ヒール〗」


 自分の胸にある、蝕み子の烙印に使ってみる。


 指から出た光で撫でると、火傷の痕が洗い流す様に消えていく。


 消えたか。


「ナグ」

「なんですか?」

「お前、なんで尻に烙印があるんだ?」

「まあ―――ちょっと色々有りまして・・・」

「言いたくない話か?」

「――――――はい」

「そうか――」


 ナグは姿勢を低くして、ゴブリンダガーを振り回す練習をしている。


「――ナグ、尻を出せ」

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

「なんだ、そのこの世の汚濁を全て煮詰めたような目は」

「蝕み子の烙印を見たいならそう言ってください。今の言い方では、衝撃が強すぎます」

「別に見るつもりはない、尻だけ、出せ」

「変態です! 変態がいます!」

「いいから出せ」

「なんですかこの堂々とした変態! ――セウルくんが出せと言うなら出しますけど!」


 文句を言いながらも素直にパンツを降ろしてローブをめくり上げ、後ろを向くナグ。

 しかし、ナグが裸になったりすると謎の光か影が覆うな。


 ナグの肩で、ヤナヤが首を傾げている。


 ぺたり


 俺は白く浮かぶそれに、手を乗せる。


「ぴぎゃああああああああああああああああああああああ!!」

「〖大治癒〗」


 反射で蹴り上げられそうになったので、避ける。

 その後はしばらく、口を聴いてもらえない状態だった。


 お陰で烙印を消したことを言い損ねたが、まぁいいだろう。

 さらにその後、襲ってきたゴブリンを全滅させた辺りで。


 俺は、空を見上げ呟く。


「日も暮れてきたな」

「そうですね、じゃあ帰りましょうか」


 〖帰還〗の時とは違い、今回はナグから答えがあった。


 髪にじゃれ付くヤナヤを宥めながら、ナグも空を見る。


 〝ダンジョン〟と言っても普通に空もあるし、山も有る。


 完全に草原と森だ。ただし移動できる距離は、ゲートのサイズによる。


 今回はサイズEなので、半径30キロメートルルデ・ペタル程度、それ以上遠くへ行くと、歪んだ世界エラー落ちが待っている。


「キャンプをするぞ」

「えっ、ダンジョン内でキャンプですか!?」

「俺たちは荷物が一杯になったからといって、いちいち街に戻る必要はない、ここで野宿する」

「そ、それはそう――と、納得して良いんでしょうか!? ・・・・ダンジョン内デキャンプとか、聴いたことないですよ・・・頭おかしい」


 ナグが混乱しているが、街に戻らないで良いのは非常に助かる。


 俺は特に、狩りをするより往復する時間の方が長いのだ。


 数秒狩って荷物が一杯になって、街に戻ってを繰り返していては狩りの速さも意味がない。


 空を飛べば速いが、MPは無限ではない。


 〖帰還リーブ〗は、荷運びには向かないみたいだしな。


「じゃあ食事の準備しますね、さっき狩ったチャージャーボアを料理していいですか」

「頼む。俺は薪を拾ってくる」

「はい!」


 ナグはゲートを開いて、その中から切り分けたチャージャーボアの肉を取り出していた。


 俺は薪を拾いながら考える。


「今日の収穫はギルドへの手数料を加味して、だいたい15万タイトくらいだな」


 俺は遠くで、白竜の幼生をなだめるナグをみた。

 ヤナヤが羽ばたいて、ヤナヤを抱えるナグが「こわいこわい」と言いながら数メートルペタル浮いて飛んでいる。


「白竜を狩って売るつもりだったが、まさかヤナヤの前で彼の同族を狩るわけにもいくまい。誰でも狩っても良いという風に覚えて、人食い竜になられても困るからな」


 なら、どうやって残りの金を稼ぐか。


「やはりボス退治か。――しかし、勝手に見つけて勝手に狩ると他の冒険者が嫌がるしな、冒険者ギルドに従うか、討伐メンバーに選ばれると良いがな」


 ボスの居場所を探すのが大変だから、面倒なのも在る。


 その後、俺はチャージャーボアに特製タレを掛けて食べた。


 屋敷にある、時を止める壺の中にあったので取り出してきた。


「え――っ!? なんですかこの美味しいソース!!」

「東洋で手に入る醤油という物と、ニンニクと野菜を混ぜて熟成されせたタレだ」

「た、たれっていうんですか・・・凄いです、こんな物が作れるんですね」

「まあな」

「ほ、ほんとセウルくんは何者なんですか・・・?」

「昔料理を齧った事があるだけだ、それより」


 俺は【召喚】の細かいことをナグに教える。


「普通ゲートを開く先は、デフォルトのなにもない真っ暗な空間だが。契約した召喚獣の近くにも開ける」

「そうだったんですか!」


 ナグの側にゲートが開き、少し離れたヤナヤの側にもゲートが開いている。


 ヤナヤがゲートに入ると、ナグの側のゲートに出てきた。


 竜の幼生はそれが楽しいのか、何度もゲートへ入って出てを繰り返していた。


「ちなみに表向き、裏向きは〈ゲート〉を開く時、自由に設定可能だから練習しておくと良い」


 ナグは自分の〈ゲート〉を見ながら「え、どっちが表でどっちが裏?」とか首を傾げている。

 そうしてしばらく観察した、ナグがゲートを閉じた。

 すると、勝手にまたゲートが開いた。


 目を白黒させるナグ。


 竜の幼生がまたゲートを出入りする。


「今のように、召喚獣側からも開ける」

「これは・・・・勝手に開かないように、躾けないとですね」

「しかし、主のピンチには勝手に開いて貰ったほうがいい場合もある。召喚獣と主人は神聖力や魔力で繋がっているからな。ただ気をつけろ、ゲートを開くのも維持するのもMPを使う――もちろん大きければ大きい程だ。お前は毎日、召喚獣にMPを吸われている事を忘れるな。下手なタイミングで開いたり開かれたりすると、さっきみたいに気を失うぞ。それから大きなゲートを開くのは容易ではない」

「なるほどです・・・」


 真剣な表情で頷くナグ。真剣なあまり、コイツの食事の手が止まっていたので、俺は食事の続きを促すように、自分から肉に齧り付いた。


「うん、やはり美味いな」

「はい、凄いです。チャージャーボアを食べられるなんて・・・」

「そうか?」

「高級食材ですよ!! この甘い油・・・ほんとうに美味しいです。さらにセウルくんの〝たれ〟でもう、ほっぺたが落ちそうですよ。セウルくんと居るとこんなに美味しい物が食べれるんですね」

「喜んで貰えるなら、いい事だ」

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