第33話 さあ、法術士だと明かそう
「あ、あれ・・・」
彼女が目を覚ましたのは、一時間後だった。
「根こそぎ持っていかれた様だな」
文字通り死ぬほど腹が減っていた幼生は、ナグの神聖力を一瞬で空にしたらしい。
空にならなくとも、体から一気に大量のMPが失われると、気を失うことが有る。
一気に失った上に空になったんだ。昏倒して、当然だ。
気絶したナグを俺が安全に寝かせると、白竜の幼生はナグの顔を舐め続けていた。
今はもう、幼生の額からは女神のルーンは消えている。
そして、
「まま」
ナグに向かって言った。
「え?」
ナグがキョトンとする。
「まま」
「ママ!?」
二度目の声に、間違いなかったと、驚きを露わにする。
「俺が教えた」
俺が伝えると、驚くナグ。
「喋れるんですか!?」
「そりゃあ竜語を憶えるんだ。人語も憶えられるだろう」
「そっか・・・しかも竜語って、人語より難しいんですよね」
「まま ありがとう」
言う白竜の幼生を、起き上がって座ったナグが抱きしめる。
「良かった――良かったです。本当に!」
「まさか、心だけで契約を達成する
しかも、額に手を当てていなかった。ただ抱きしめていただけだ。
「あの―――私、本当に契約できるんですね」
「もちろんだ、聖獣ならだが」
「聖獣ですか、あまり聞きませんね」
「そうだな、数は少ないが、しかし強力なものが多い」
「どんな聖獣がいるんですか?」
「ユニコーン、フェニックス、スプライトなんかも聖獣だ。あとはセントなんとかというのは大体そうだ」
「そんなに沢山、私も契約できる・・・セントフロッグ、セントウルフ、セントール」
最後は違うな、ただの人馬族だな。
「センティピートは、どうなんでしょうか?」とナグが呟いている。
俺が騒ぐナグを見ていると、目が合った。
彼女の瞳には、なにやら真剣な物が宿っていた。
ナグは俺の目を見たまま立ち上がり、あぐらをかいているこちらに、頭を下げた。
「全部、セウルくんのお陰です―――私、召喚師として欠陥品だと思ってて、周りからもクズでゴミだと謂われて―――自分でもそう思っていました・・・――――でも・・・こうして本当は契約できる事が分かって・・・」
ナグは一度顔を挙げて、俺の眼を見た。
瞳が揺れていた。
そして再び頭を下げる。
「・・・本当に―――救われました・・・本当に。今日、一日で何度も・・・私も誰かの役に立てるんだって!」
「そうか、よかったな」
ナグが顔を、また挙げる。
「はい!」
瞳が輝いていた、涙と希望の両方で。
そんなナグに幼生が頭をこすりつけた。
くすぐったそうに「この子も救えました」と微笑む。
それを見てから、俺も立ち上がる。
「で、その白竜の名前はどうする」
「あ、名前」
「呼び出す時に必要らしいぞ」
「そ、そうなんですか・・・・・・でも、名前ですか。・・・いい物はありますか?」
「オスか? メスか?」
ナグが幼生を裏返して見る。
「お、男の子ですね」
では、
「〝ヘケたん〟というのはどうだ」
「・・・・私が決めますね」
「どういう意味だ」
しばらく頭を捻ったナグは、
「ヤナヤ―――意味は〝大切な宝石〟です」
白竜の幼生を高く掲げて言った。
「やなや?」
幼生が首をかしげて返した。
「そう、君は今日からヤナヤですよ!」
(〖
俺が無言で法術を使うと、幼生の〈聖痕〉が一瞬輝いた。――そしてまた見えなくなる。
命名は済んだようだ。
それじゃあ作業を開始するか、俺は後ろを振り向いた。すると、
「後で、神殿で命名してもらわないとだめですねっ、ヤナヤ!」
ナグが言ったので、
「それは必要ないぞ」
「どうしてですか? ――召喚獣には命名の儀式は要らないんですか?」
「俺が命名した」
「いやいや、何を星霊様みたいな事いってるんですか。法術無き今、星霊様にしか命名はできないんですよ」
「俺は法術士だからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
ナグが首を傾げた。
また、理解不能という顔になっている。
「言っただろう、魔力がマイナスという事は神聖力を持っているという事だ、俺も魔力がマイナスだ」
「・・・・え? 待って下さい、セウルくんもマイナスなんですか!? ・・・・じゃあ今まで使ってたのは魔術じゃなくて、法術!? ――」
ナグが目を見開いて、俺の姿を再確認するように瞳を動かした。
「――セウルくんって、伝説の法術使いなんですか―――っ!? ―――せ、聖人!?」
「俺は性格的に聖人とは言い難いだろうが、法術は間違いなく使える。一応秘密にしてくれ」
「も、もちろん大恩人のセウルくんの秘密は守りますが!!」
「それならいい。じゃあナグ、ゲートを出してくれ、白竜の死体を刻んで持って帰る」
瞬間ナグが凍った。
「・・・・・・・・・・・・えぇ」
「なんだ、どうした」
泣きそうな顔だ。
「そりゃ、セウルくんが出せと言うなら出しますけど――でも・・・・ヤナヤのお母さんなんですよね、その白竜。・・・・・・切り刻むつもりなんですか・・・・・・? 売る・・・つもりなんですか・・・・・・・・・?」
「すまん、そうだな・・・・止めておく。――ここなら朽ちるまで冒険者にも見つかるまい」
「まま・・・」
白竜が、蹲る白竜をじっと見ている。
幼生でも白竜は賢明だ、死というのは理解しているのだろう。
「ナグ、なにか紐はないか」
「紐ですか? あ、革水筒の口紐なら」
「貰えると助かる」
俺は口紐を受け取ると、落ちていた白い鱗を取った。
そして極小の〖神聖剣〗で穴をあけると、ネックレスにして幼生に掛けてやった。
ヤナヤが爪で胸の鱗をつつくと、澄んだ音が響いた。
「まま」
「さて行くか、掴まれ」
「あ・・・そっか、帰りも
「まあな」
「お手柔らかに頼みますね・・・」
ナグが俺にしがみつく。
ヤナヤも真似してナグにしがみついている。
「いくぞ」
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