第31話 さあ、目的のものを見つけよう

   ◆◇視点〔セウル・F・オルセデオ〕◇◆




「セウルくん! ミノタウロスが―――!」


 他に冒険者の気配のない森を歩いていると、茂みから現れた牛頭巨軀ぎゅとうきょく――牛の頭に、巨大な人間の体を持ったモンスターが俺に角を向け突進してくる。


「〖聖撃フォース〗」


 ミノタウロスが、ボールのようにバウンドして吹き飛ぶ。


「〖神聖剣オーラー・セイバー〗」


 俺は、バウンドしていくミノタウロスに向かって光る剣を放つ。

 剣はミノタウロスの首を断ち切る。

 頭を失ったミノタウロスはバウンドを終えると動かなくなった。

 それを見た、ナグがつぶやく。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんですかこれ?」

「さて、素材はどうするか。人間の体をしている魔物の革や肉は流石に要らないだろう。しかし、角だけですらバックパックに入らんな」

「あ・・・あれ、、、おかしいな・・・・今のミノタウロスですよね・・・? リゲルさんと一緒に戦った時は、物凄い死闘だったんですが――――あれ――――――――あれえ? セウルくんって、レベル5って訊いてたんですけど」


 正確には6だが。

 ナグが、首を傾げる。


「・・・・というか剣士なのに、腰の剣を使わずに倒しちゃうとか」

「剣なら使っただろう」

「え、つまりセウルくんって――魔術剣を飛ばす剣士って事なんですか!?」

「剣は剣だ」


 俺はオーラセイバーでミノタウロスの角を切り離した。後の素材はいらないな。

 ミノタウロスの心臓に神聖剣を突き立てる。すると牛頭の体がガラスのように砕け、青と白に輝く〈世界石〉が残された。

 これはダンジョンでしか手に入らないが、様々なエネルギー源になる。

 街頭の明かりを灯したり、暖炉の魔道具を暖めたり、魔導列車を動かしたり、人々の生活に欠かせない資源だ。


「お、大きな〈世界石〉です!」

「そうか? こぶし大程度は小さいだろう」

「――――――――」

「さてと」


 俺は、ミノタウロスの巨大な角を持ち上げた。そしてよろけた。


「あっ、そういう所は普通なんですね・・・・」


 なんだか安堵したような声が聴こえた。


「ナグ、ゲートを開いてくれ」

「そうですね! それは持ち運ぶの大変ですもんね! ついに私が真価を発揮する時がきましたね!!」


 ナグは、とびきり嬉しそうにした。




「やはり居るな」

「セウルくん、さっきから何をしてるんですか?」


 ミノタウロスの素材を整理した後しばらく歩き、俺が地面に散乱していた、白いガラスや毛のようなものを手にとっていると、ナグが尋ねてきた。


「探しているんだ」

「探している?」

「ある幻獣だ」

「幻獣ですか・・・」


 ナグが辛そうな声を出す。

 契約できないことを、気にしているのだろう。


「こっちのようだな」


 しばらく歩くと、見えてきたのは視界の向こうで霞む巨大な樹。

 その巨大さは、なみではない。

 周囲を回るだけで30分は掛かりそうなサイズだ。


「お、大きな樹です・・・」

「ああ、世界樹の苗木だろうな」

「あれで苗って、大きくなったらどうなるんですか・・・」


 俺は、足元を指差した。

 ナグは首を傾げた。意味がわからなかったようだ。

 この樹界そのものが、世界樹の成長した姿だと示したのだが。


「あの樹の上にいるようだ。掴まれ、ナグ」

「え、あ、はい」


 ナグが抱きついてくる。

 急激なステータス上昇を感じた。

 やはり、密着すると凄まじいな。


「私、結構大きいんですよね」

「祝福がか?」


 ナグは、なぜか黙ってしまう。

 ん? ああ、そういう事か。


「そういえば、ぶるんぶるんと揺れていたな」

「そこは思い出さなくていいですよ!!」


 忘れろと俺の頭をシェイクする、ナグ。

 思い出させたのはお前だろう、理不尽な。

 まあいい。


「しっかり掴まれ。〖水作成クリエイト・ウォーター〗」


 俺は少し強めにクリエイト・ウォーターを放って、その勢いで空へ跳んだ。

 しかし俺は、ナグと密着してすらオーバーフローは戻らないようだ。レベルアップでどれほど魔力が上昇してしまったのか、少し心配になった。


「え、ちょ、なんですかこの水圧!!」


 一気に100メートルペタルほどの高さに昇る。


「この高さなら、少し本気を出してもいいか。〖聖撃フォース〗」


 ドッ


 俺が空気を蹴るように放った聖撃が、赤熱するほどの衝撃波を放った。

 空気の壁が襲いかかる。


「これは下手をしたら、空気の壁に押し殺されていたな」

「ぎゃあああああああああああああああああああ」

「耳元で騒ぐな」

「地面が、地面がないんです!!」

「飛んでるからな。〖聖撃〗」


 俺は、落ちてきた速度を調節する。

 ぐんぐんと近づいてくる世界樹(苗)。


「速いです速いです、速すぎます!!」

「喋れているから大丈夫だ――枝が近づいてきたな。〖罪と罰ジャッジメント・ジェイル〗」


 俺は手首から鎖を放つ、そして太い枝に絡める。〖罪と罰〗は、狙った対象に自動的に絡むから便利だ。


「〖罪と罰〗――〖罪と罰〗」


 同じことを繰り返し、遠心力を利用しながら枝から枝へと渡っていく。


「ぎゃあああああああああああ――ひいいいいいいいいいいいいいい」

「そんなに鼓膜を揺らすな、目眩がしてくる」

「なんでこの状態で、そんなに冷徹な事言えるんですか!? セウルくんは!!」

「ん、あれか?」


 俺は、樹上で蹲る白い生き物を見つけた。

 するとナグが、かつて無いほどの大声をだした。


「ホ、白竜ホワイトドラゴン!!!!!!!!!!!!」


 俺はキーンとする耳を押さえながら、フォースで近づいていく。

 ナグが俺の髪を引っ張り出した。


「考え直してくださいいいいいいいいいい!!」

「〖聖撃ハクナマタタ〗」

「あれは死の具現です! 死ぬ気ですかああああああああああああああ!!」

「〖聖撃なんくるないさ〗」

「やべでくださいいいいいいいいい!!!! 降ろしてえええええ!!!!」

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