第29話 さあ、ダンジョンに突入しよう

「そうだ、一応実験をしておくか」


 先程買った〖帰還リーブ〗だ。

 これは聖法陣を描いておいた場所に瞬時に戻る、中級法術らしい。

 今の俺のレベルでは恐らく、本来より移動距離が短くなるか運べる重さが減るか。

 俺は聖法陣を地面に描いて、少し離れてみる。


「ナグ、こっちに来て俺の手を握ってくれ」

「え、手ですか!? てててててて―――」

「ああ、実験したいことがある」

「――――――実験?」


 赤面したかと思うと、途端に表情を冷ました彼女が俺の手を握る。


「〖帰還リーブ〗」


 景色が切り替わる。

 転移が成功した。


「わ! なんですかこれ?! ――ていうか、剣士なのにまた魔術を!?」


 ナグの手は握ったままだ。


「複数人は連れていけるな。ありがとう」

「にしてもなんだか、寒――」


 そこで、ナグの強烈な悲鳴が挙がった。


「なんで私、裸なんですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」


 慌てて体を抱えてしゃがみ込むナグ。


「なるほど、俺に触れている物は転移できても、俺に触れているものが触れている物は転移できないのか」

「れ、冷静に分析しないでください。ふ、服はどこですか!!」


 ナグは大きな声でを出して涙目だ。

 俺が魔術(――正確には法術だが)を使った事で、疑問がぶりかえしたらしいが、もうそれどころではないらしい。

 しかし、そんな大きな声を出すと、


「お前の悲鳴で他の冒険者がコッチを見ているぞ」

「皆さん、見ないでくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「お前は美人だからな。服ならあっちだ」


 ナグは泣きながら、転移前の場所でひとかたまりになっている服に走ったのだった。


 さて次は、


「〖聖剣オーラ・セイバー〗」


 俺は近くの木を切り倒して、それを聖法陣の上に運ぼうとする。

 しかし、ステータスの力の値が低いので辛いな。

 ナグにも引き摺るのを手伝ってもらう。

 ちなみに彼女は頬を膨らませて、口は利いてくれなかった。

 手伝ってはくれたが。


 そうして、


「〖帰還リーブ〗」


◤重量が超過しています。◢


「なるほど駄目か。レベルのせいで、かなり運べる重さが下がっていそうだな」


 俺は〖聖剣オーラ・セイバー〗で木を小さくして転移できるまで繰り返す。


 シュン


「あ、転移できましたね!」


 言ってから口元を押さえて顔を背け、私怒ってますと主張するナグ。


「俺に触れていれば、魔術陣からはみ出していても大丈夫と。ナグ、お前の体重は幾つだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうした、早く教えてくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・40」

「そんなに軽いか? もう少し重そうだったが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・42」

「42キログラムルデ・ダイトか」


 すると何故か、ナグが地面の草を虐殺しはじめた。


「だいたい、ナグの体重の5倍程度で転移できるな。200キログラムルデ・ダイトくらいか」


 ナグがますます草を虐殺しはじめた。

 次は聖法陣を複数描いて、使ってみる。


「――後に描いた聖法陣に飛ぶのか。そして、そちらにしか飛べなさそうだな。神聖力で陣を描くと陣は輝き、新しい陣を描くと古い陣の輝きは消えるのか。わかりやすいな。では、こうしたらどうだ」


 俺は、近くに転がっていた平たい石2つを拾い上げた。

 2つの表面に、神聖力で聖法陣を描く。

 すると、最後に書いた石の聖法陣だけが輝く。

 そこで光っている方の石の中央を――聖法陣の中央を、割符のように割った。

 すると割符になった石の聖法陣の光が消えて、一つ前に描いた石の聖法陣が光りだした。


 光る方が変わったのを確認してから、今度は割符のようにした石を合わせ、聖法陣を完成させると、合わせたほうが光りだした。

 そして、一つ前に描いた石の聖法陣は光を失った。


「つまり、聖法陣を割って所持しておいて、それを合わせれば新たなる聖法陣として認識されるのか――これは何かに使えるかもしれないな」


 俺が頭を捻っていると、ナグが話しかけてきた。


「・・・・あの、どの魔術も見たこと無いものばかりですね・・・セウルさんの使う魔術」


 俺の様子を座って見ていたナグが怒ったフリはもういいらしく、関心するような声だった。


「そうだナグ、セウルさんは止めよう、俺達は仲間だ」

「え・・・・と・・・じゃあ―――セウルくん?」

「ああ、まあそれで良いだろう」

「セウルくん」


 なぜか急に機嫌がよくなったナグだった。




『これより第24パーティー、セウルズの転送が開始されます』


 適当に決めたパーティー名が呼ばれた。順番が来た様だ。


「じゃ」


 ナグが立ち上がったので、


「行くか」


 俺は、表示された ◤転移開始◢ に指を触れた。




「〖着火スパーク〗――」


 俺はナグを抱き寄せて〝魔術〟で、最も簡単な〖着火〗を使った。


「――駄目か」


 魔力を下げるというナグが側にいれば、オーバーフローが戻るかと思ったが。

 俺のレベルアップで上昇した分の方が、多かったらしい。

 俺に拘束され、驚いた表情で真っ赤になっていたナグが、こちらを振り返った。


「剣士なのに、また魔術――って、やっぱり発動しないんですか?」

「それは大丈夫だ。〖神聖剣オーラ・セイバー〗」


 空中に現れた剣を、指揮でもするように神聖力で振り回してみせる。

 俺がナグの拘束を解くと、なにか名残惜しそうな顔をした彼女は、しかし空中で踊る剣を見て目をしばたたかせた。


「な――――――なんで放った魔術を、そんなに自由に動かせるんですか―――」

「慣れだ」

「・・・な、慣れ?」


 俺がそろそろ消そうかと思っていると、ナグが恐る恐るという風に、近くにあった木の枝で刃の形になった水球をつついた。

 すると木の枝は真っ二つになる。


「すごい切れ味――!! ・・・・なんか―――威力高くないですか・・・? ――そういえば光る魔術も、魔術印に移動する魔術もどれもこれも、訊いたことも有りません」

「ナグにもすぐに分かる。ここが樹界ならアレもすぐに見つけられるはずだ、行くぞ」

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