第28話 さあ、待ち時間もたのしもう

   ◆◇視点〔セウル・F・オルセデオ〕◇◆




『こちらは樹界サーバー・ダンジョン転送システムです』


 俺とナグのパーティーは、大勢の冒険者と共に緑色のゲートの中にいた。

 ここはダンジョンではなく、ロビーと呼ばれる場所だ。

 内部はまるで森のようで、半径100メートルペタル以上ある。

 ちなみに樹界とは異世界だ――つまり、ダンジョン・ゲートとは異世界に繋がる穴だ。


『パーティーリーダーと、メンバーの申請を行ってください』


 俺たちの前に浮かぶ、古代文字。


「リーダーは、セウルさんがお願いしますね」


 ナグが指を動かすと、俺の子ノードにナグの名前が入った。

 ふと気づけば、まわりの冒険者が、小汚かったナグの容姿が輝くように変容して驚いていた。

 「誰だ、あの美人―――っ! 芸術品みたいな見た目じゃねえか―――やばい、ドキドキしてきた!!」等と評している。


『パーティー構成が決まった方から順次、転送申請を行ってください』


 今度は俺が指を動かして、転送申請を行う。


◤ただいまの予想待ち時間1:00◢と表示された。


 1時間は掛かるか、ずいぶん人数が多いようだ。

 一気に転送すると負荷が掛かるらしく、一定人数毎にダンジョンに送られる。

 送られる先は、皆同じなんだが。


「お茶、飲みますか?」


 ナグはこの待ち時間に慣れた物らしく、マグカップを二つ取り出した。――ちなみに小さく開いたゲートから、とても嬉しそうに。

 俺は頷くと、二人で誰も居ない辺りに移動する。ナグは手早く火を付けると、お湯を沸かしはじめる。

 ちなみにダンジョン以外の殆どの森は貴族が管理していて、そこで木を切るのは重罪だ。

 エンドラストは森林資源が乏しい。

 落ちている枝などを拾って薪にするのは構わないが。

 ただ、冒険者ギルドの依頼を受けてキャンプ等をする際はある程度木を切っても良い取り決めになっている。

 ここまで樹に価値があるとなると、樹の生えたダンジョンから樹を持ち帰るだけで、そこそこの儲けになる。

 今も、ロビーの樹を切り倒している冒険者が居る。持って帰って売るのだろう。

 まあ俺にはそんな必要がないし、もっと儲かる方法を使わないとナグの借金は返せない。


「火を付けるのが早いな」


 俺はナグの手際を褒めた。

 長らく魔術師だったので忘れたが、火打ち石で火を点けるのはかなり難しい筈だ。

 ナグは、石を鉄に数度打ち付けただけで火を起こした。魔術とさして時間が変わらない。


「これくらいしか出来ませんでしたから、得意になりました。――あ、でも今はもうセウルさんのお陰で、私も戦えますね!」

「そうだな」


 しかしリゲルとかいう魔剣士がいたようだが。魔術が使えるなら、火など簡単に点けられるだろう。

 個体ではなくエネルギーを作るのが得意な魔術では、火花を出すだけの〖着火スパーク〗は最も簡単だ。

 魔力の効率的な操作を少しでも知れば、MPメンタルポイントの消費もほとんどゼロになる。


「リゲルとか言う魔剣士は、魔術で火を点けなかったのか?」

「リゲルさんは無駄なMPを使うのを嫌う人でしたから」

「そうか」


 しばらくして茶が湧いて、カップに黄色い飲み物が注がれた。


 二人でカップを持って火を見つめる。


「ダンジョン、ワクワクしますね」

「冒険者は楽しいか?」

「はい! 食べるのは大変でしたし、役に立たなくて辛かったですけど――私、フリオ・エンド様に憧れていて、冒険自体はとても楽しかったです! それに友達――イーリスって娘なんですが、約束したんです。一緒に冒険者になろうって」

「――そうか、冒険者は向いているんだな」

「はい!」

「良かった。――この茶、旨いな」

「あ、私のブレンドです。入れるハーブの割合がポイントなんですよ。イーリスも美味しいって飲んでくれてました。摘んできたハーブを野原で沸かしたお湯に淹れて――懐かしいなあ」

「イーリスという友達が大好きなんだな」

「はいっ!!」


 本当に大切な宝物の名前でも呼ぶようにイーリスと繰り返すナグに、俺は少し微笑ましくなった。

 にしてもこの茶は美味いな。


「イーリスという娘が喜ぶのも分かる。この茶なら、店でも出せるレベルだぞ」

「そうでしょうか! ・・・あ、でも最近は東洋からとても美味しいお茶が輸入されてるらしくて、それが人気みたいですね」


 「ふーふー」と茶を冷ましながら飲むナグ。


「ああ、そういえばあれが流行っているな」


 東洋から最近緑の茶や、琥珀色の茶が持ち込まれるようになった。

 ルルアの所でも出されたやつだ。


「この服も、きっと東洋のものですね!」


 ナグが白いローブを広げて、嬉しそうにした。

 ・・・いや、俺の手縫いなんだが。


「まあ、喜んで貰えてよかった」

「はい!」


 若干朱にそめた頬を服に当てて、愛おしそうにしている。

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