第27話 証言、受付嬢ヒルダ・イコヒロワ4

 さて、部屋をめちゃくちゃにしたギルマスに片付けを命じて私がダンジョン討伐を掲示板に張り出すと、冒険者達が大騒ぎしました。

 それはそうでしょう。

 ダンジョンモンスターは、素材はおろか、〈世界石〉まで落とすのです。

 儲けは普段の狩りの倍、一挙両得、一石二兎、濡れ手に麦。

 宝箱まで出す事がありますし、ダンジョンにしか無い植物や鉱石も採れます。

 そもそも木材が常に不足しているこの地域では、木を持ち帰るだけでもかなりの儲けになります。


 喜び勇んで準備をする人。

 既に儲けを皮算用する人。

 祝杯まで挙げている人。


 いいですか、皆さん。このダンジョンは私の将来のお婿さんの功績です、しっかり感謝しなさい。

 その辺りの事は、きっちり皆に教えていきましょう。


 私が心でほくそ笑んでいると、セウル君が酒場へ出てきました。

 見事な顔立ち――とくに知的な単眼鏡モノクルの向こうで輝く、鋭く黒い瞳がたまりません。

 エキゾチックな黒髪も大好物です。

 なんかもう、あの年で大人の色香をプンプンと匂わせてるんですよ。

 ハードボイルドです、堅焼き卵です。これはお姉さんが食べてしまっても仕方ないですね。


 と、夢見る少女な私の空想をぶち壊す声が聞こえました。


「ま、まって下さい。せめてダンジョン攻略は一緒に!」

「お前なんか連れていけるか」


 でた・・・・でましたよ。

 リゲル一行。


 〝蝕み子〟の女の子を騙して借金で陥れ、奴隷のように扱っている人たちです。

 ああ、最悪。

 自分たちがギルマスの要注意リストに載ってるって、知っているんですかね?


 そして今日は、遂に〝蝕み子〟の女の子を追い出すと言い始めました。

 そうなると、〝蝕み子〟の――ナグちゃんにはお金を稼ぐ方法が殆ど有りません。

 これは・・・・とうとう、借金奴隷に落とす心算つもりですか・・・ウチの国は奴隷は禁止されているんですがね。まあ、奴隷にする方法は幾らでもありますけど。

 ダンジョンは儲かりますから、ナグちゃんに借金を減らされても困るという感じでしょうか。

 ここで追い出されたら、ナグちゃんは一巻の終わりです。

 彼女は、なんとか居残ろうとしますが――。

 リゲル達は酷いことを言って、とうとう追い出してしまいました・・・・。


 項垂れ、席に座るナグちゃんですが、誰も助けません。

 デインさんなど、数人眉を顰めていますが。

 Aランクのパーティーに、Eランクのナグちゃんは入れませんからね・・・・。

 私はギルマスを見ました。

 彼女はセウル君と話し込んでいます。


「払えなきゃ、奴隷として娼館に売り払うわよ!!」

「次の返済日忘れるなよ!」


 とうとうそんな事を言い出しました。

 〝蝕み子〟の娼婦は、本当に酷い目に遭います。

 人間ではないと謂れ、最下級の娼婦として筆舌に尽くし難い扱いを受けるのです。

 客に焼き殺された子も居ます。

 しかもナグちゃんは前髪で顔があまり見えていませんので、私とギルマスしか気づいていませんが、相当な美人です。

 彼女の未来を想像すると、吐き気がしてきました。


 私がどうしよう、なんとか助けたいけど・・・どうやって・・・・と、思っていると、


「おいナグとやら、俺のパーティーに入るか?」


 セウル君です。

 流石です!

 私はもう、心で拍手喝采です。


 彼なら問題ない!! 太鼓判です!


 周りは「〝蝕み子〟を入れるのか?」とギョッとしていますが。


「モグリの所だ、良からぬ考えでも有るんじゃ・・・」


 なんて噂をしている輩も居ますが、違うんですね~。

 その人はマジモンの聖人ですよ。

 だって法術を使うんですから、心が綺麗でない訳がありません。

 ギルマスも「ホッ」と胸を撫で下ろしています。

 あれだけ強いセウル君なら、もう安心です。

 他のパーティー、しかも何人もいる所に入るよりも――なんならAランクのデインさんの所に入るよりも安全かもしれません。


 ナグちゃんは、何やら困惑して断ろうとしています。

 あの子は他人を頼る事を、極力しないんですよね。

 〝他人に頼ることを、恐れている〟と言っても良いです。


 でもギルマスも入れようと、後押ししています。

 さっさと入っちゃえ。

 私がじれったい気持ちを抑えていると、遂にナグちゃんはセウル君に、何故自分が他のパーティーに誘われないのか、〝蝕み子〟と呼ばれるのかを話し始めました。

 私は多少理由を知っています。

 けがれの事、あと召喚にも何か問題があると訊きました。

 これは流石に不味いか・・・? と、私はハラハラ。


 するとですよ!


 セウル君・・・なんとナグちゃんを褒め始めました。

 何やら彼には、考えが有るようです。

 本当に彼で良かった!


 そしてとうとうナグちゃんは涙を流して、セウルくんの手を取りました。


 ああ、とても良いものを見ました。

 ごちそうさまです。


 ただセウル君。

 なんだかプロポーズみたいな事を言ってましたが。

 お姉さんは、許しませんよ。


 貴方は絶対、私のお婿さんにしますからね?


 2人はギルドの建物をでていきます。


 私は、2人にちょっかいを掛けていたギルマスを引きずって戻します。


「よい冒険をっ」


 セウルくんとナグちゃんの背中を、祝福しながら見送りました。


 すると、私に捕縛されていたギルマスが床に引きずられ呟きます。


「本部に送る報告書。セウル君の評価、最高で」


 一般の冒険者は知らないことですが、実は、ギルドには裏ランクと云うものが有ります。

 ギルドの上級職員だけが知っている事で、これは戦いの腕ではなく、素行を表す評価です。

 頻繁に問題を起こす人間に、大事な依頼を預ける訳にはいきませんから。


「はい」


 私は、私に引きずられ腕を組んでいる彼女に、尋ねたいことが有りました。


「リゲルさんは?」

「最低評価での一個前で、そろそろボクの謂うことを真面目に訊くと良いんだけど、最低になったら追放しないといけない」


 そんな事を、2人で話していました。


~~~


 予約ミスしました・・・すみません。

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