第21話 さあ、蝕み子少女を家に招待しよう

    ◆◇視点〔セウル・F・オルセデオ〕◇◆




 俺たちはギルドの建物を出た。

 出る時に周りの連中から、


「おいおい、マジかよ。あの役に立たない〝蝕み子〟を入れるのかよ」

「アイツ、初心者だから分からないんじゃないの?」

「あんな事したら、他を勧誘できないのに」


 などと謂われたが、この女以外をパーティーに入れる気がない。

 しかし、誰もこの女の価値を分かっていないのか。

 大通り行きながら俺はナグを見た。すると彼女の背後、街の広場にある3体の像が目に入る。


「どうしたんですか? セウルさん。あ、〝絆の勇者〟ベテルギウスとその仲間の像ですね。見事レベルの魔王を倒したという――セウルさん? 怖い顔・・・」

「いや、なんでもない。さてと、冒険の準備をしに俺の家へ行くぞ」

「え? ―――えええ!? い、い、いきなり家に、ご、ご、ご招待ですか!?」

「宿がないんだろう、お前」

「――あ・・・実を言うと、そうなんですが、もう宿を借りるお金なんて無いんですが・・・」

「俺の家を使え」

「す、す、す、すごく助かる提案なんですが―――い、良いんですか? 私、〝蝕み子〟ですよ・・・? ――――しかも、どこの誰かもわからないような」

「そんな他人に捺された烙印、気にするな」

「でも、私が悪い奴でセウルさんの家の物を盗んだらどうするんですか?」

「勝手に持っていけ」

「――どんだけ懐深いんですか・・・持っていきませんけど。――――でも良かったら住ませて下さい、本当に今日・・・街中で野宿ですし・・・」

「初めから、住めと言っている」

「――――ほ、本当にありがとうございます」


 ナグが大きく頭を下げた。


「いいから」


 言ってから歩いていると、俺の家が近づいてくる。


「アレだ」


 指をさすと。


「あ、リンドブルグのお化け屋敷」

「おい、お前、今なんて言った」


 俺が両肩に掴みかかるとナグは怯えながら、しかし顔を少し赤くしてどんな噂を訊いたか白状する。


 「何百年も前からあるお屋敷なのに全然朽ちないし、中には入れない、取り壊せない」

 「誰も住んでないはずなのに、中に人影を見たとか、熊がいたとか」


 後半は、ゴーレムがまだ稼働していた時代の話か。


「セウルさん、ここに住んでるんですか・・・?」

「ああ、親類から譲り受けた。大昔の魔術師の家だ」

「なるほど、そういう血筋のお坊ちゃんなんですねー」

「家自体が魔道具で、朽ちる事がない」

「それで、変な噂が立っちゃったんですか」


 ナグは関心する。

 ちなみに魔力が籠もった物は千年経とうが万年経とうが、朽ちることが無くなる。

 だから古代の遺跡から出てきたアイテムが普通に使えたりするわけだ。宝物として冒険者が求め、稼ぎにしている。

 迷宮タイプのダンジョンの壁が破壊できないのも、魔導具だからだ。

 しかし、朽ちないというのは加工も難しいと言うことなので、魔力が籠もったものを加工できる者は僅かだ。


「こっちが門ですか? えっと、ごめんください?」

「その門からは入れん」

「そ、そうなんですか?」

「この家は、ずっと空き家という事にしているんだ。こっちだ」


 俺はナグを連れて幾つかの角を曲がる。


「あの・・・お屋敷見えなくなったんですが・・・」

「ここに立って合言葉を言う、お前も憶えておけよ」


 ややこしい合言葉の問答の仕方を、教える。


「ちょっと難しいですが憶えました。毎回変わる合言葉なんて――――厳重ですね」


 俺は合言葉問答を始める。


「アリワ」

『ジム』

「アール」


 俺の体が、通りから家の玄関に転移する。

 続いて、


 ヒュン


 ナグも、隣に転移してきた。

 彼女は、物憶えも良いようだ。

 俺は、屋敷の奥に導きながら伝える。


「世界中にこんな屋敷がある。転移場所は、注意深く見ると空間が歪んでいる。同じ問答で入れる。困った時は使え」

「――――え?」

「こっちだ」

「え・・・っと――――ケホッ、ホ、ホコリ一杯ですね、あとで掃除してもいいですか?」

「それは助かる」


 俺は家事が苦手なのに、ゴーレムがもう稼働していない。


「それにしても、確かにセンスが古いですね。だから着てる服も――――あ! 何でもないです」


 俺がちょっと肩を落としたのを見て、ナグが口を抑えた。


「ここもアンティークが一杯です――髪飾りに、笛に、これは裁縫道具かな?」


 ナグが、先程俺が魔道具をひっくり返した部屋を見ながら言った。


「それは全部魔道具だ、必要なのがあるなら持っていけ」

「いやいやいやいや!!」

「というか借金があるんだったな、全部売っぱらってもいいぞ」

「いやいやいやいや!! なに言ってるんですか!!」

「だが悪い。この家には大したものはない、ガラクタばかりだ――とは言え、この杖は持っておくといい」


 俺は、老匠ろうしょうを思わせる節くれだらけの杖をナグに投げて渡す。

 かなり昔に俺が使っていた杖だ。最初の頃の俺なのであまり強い杖ではないが。


「なんですか、この杖・・・・・・凄そうですが」

樹の大精霊エントの杖だ、〈精霊語〉が理解できるようになる。あと魔術の威力も上がるが―――まあこれはお前にも要らないだろうな。物理攻撃力も高い」

「そ、そんな良いもの貰えません!!」

「持っていけ、精霊語が頭に入っている俺には邪魔なだけだ。だだ多分ソレより良い杖はなかなか見つからんから、売らない方がいいかもな」

「だ、だから、貰えませんよ! こんな良いもの!!」

「よく似合ってるぞ?」

「・・・そうですか?」


 急に嬉しそうな顔になって、杖を抱きしめたナグは杖をもう離そうとしなかった。

 お洒落は、したい方のようだ。


「あとは服だな」


 俺は女でも着れそうな、シンプルなローブを探す。

 それにメイドゴーレムのスカートを合わせた。

 

「よし、これなら着れる」


 黒と白を基調とした、大人しめのローブだ。


「あ、素敵なローブです。異国のデザイン? エキゾチックで、よくお似合いですよセウルさん! やっぱり、ギルマスさんにセンスが古いって言われたこと気にしてたんですか?」


 少し、クスリと笑うナグ。


「お ま え の ふ く だ」

「――――――――――――え? いやいやいやいや!!」

「さっさと着替えろ」


 俺はローブをぶん投げる。


「これ絶対高いですよね!! 光沢がハンパないですもん?! 手触りがウットリですもん!?」


~~~


投稿ミスしました・・・すみません・・・。

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