第20話 ユイン・レーレ2

 勇者はユインに冷笑を返すと、


「来たぞ、わざわざあちらからお出迎えだ」


 やって来たのは魔人ヷーズ。


『道化から訊いている。貴様らが勇者か』


「そうだ」


『ならば死ね!!』


 戦いは死闘だった。

 回復役を失った勇者たちは、大きな苦戦を強いられた。


 しかし、それでも魔人を打ち倒す事に成功。

 するとユインは喜びに打ち震えた。


「勇者さん、見て下さいボク生きてますよ!! ボクが死ぬ運命なんて嘘だったんですよ!! だから今までのも嘘ですよね!! ボク、仲間ですよね!!」


 だが勇者は、ユインを無視する。


「さあ、来るぞ、第二形態だ」

「え」


 ヷーズから黒い霧が立ち昇ったかと思うと、それはユインにまとわりついた。


「なにこれ!!」


 ユインは体の自由を奪われ、勇者たちに襲いかかる。


「なにこれ・・・!! なに!? やめろ、言うことを訊けボクの体!!」

「いくぞみんな」

「うん!!」「おう!!」


「〖超・真雷ギガ・トニトラ〗!!」

「〖光の矢ライトニング・アロー〗!!」

「〖竜王怒号撃〗!!」


 ユインは勇者の雷に撃たれ、エネルギーを纏った矢に貫かれ、闘気を放つ大戦斧に叩き切られた。


 痛かった。今まで仲間だと信じてきた人間が、なんの躊躇もなく自分を殺そうとしているのが。

 耐えられないほど痛かった。


「やめて、やめてみんな!! やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

「レイナ」

「なに勇者!?」

「勇者の俺の能力で、みんなの力をお前に集める、最強の技で決めろ!!」

「おっけ!!」


「やめて・・・やめてぇ・・・」


「【仲間の絆】!!」


 勇者のスキルで、戦士と勇者の力がスカウトに集まる。

 ユインの力は吸い取られなかった。


「・・・やめて・・・」

「【裁きの雷の矢ゴッド・アロー!!】」


 柱のような霹靂を光を放つ矢は、ユインの下半身を消し飛ばした。

 ユインに地面が近づいてくる。

 そこに顔面が叩きつけられた。

 びしゃり と血が床を濡らした。


 ユインから抜け出した、ヷーズを透明にしたような影が、壁をすり抜けていく。


「さて、まだヷーズは死んでいない。奥の部屋の玉座に戻った。俺たちは司祭と魔導士を失って、ここにいればヷーズの本体がすぐに来る、今のままでは勝てない。帰るぞ――出直しだ」

「だね」

「行くか」


「まって・・・みんな・・・、たすけて・・・みんな・・・」


 掠れた声で呟くユインに目をくれる者はなく、足音は遠ざかり、やがて消えた。


「・・・みんな・・・みんな、・・・・・・なかま・・・」


 誰も居なくなった広間で、ユインは仲間を呼び続けた。


「ボク・・・みんなのこと・・・なかまだってしんじてるから、・・・きっとせんぶ・・・うそだって・・・だから」


 視界が暗くなってゆく。


「だ・・・か・・・」


 世界が霞んでゆく。


「ユイン!!」


 ユインの意識が闇に呑まれる寸前だった。

 シンシアが広間に駆け込んできた。


「その傷は・・・・・・!? ・・・・みんなはどこ!!」


 もう、ユインに言葉を発する力はない。


「〖完全治癒パーフェクト・ヒール〗!!」


 完治するユインの体。

 ――だが。


「どうして、どうして意識が戻らないの・・・!!」


 シンシアはユインの体を抱え上げるが、反応がない。


「・・・・まさか、もう魂が離れているの? ・・・どうすれば、人を生き返らせる法術はないのに・・・・・・・・・・・・」


 ユインを揺らすシンシア。

 その頬に涙が伝い始める。

 しかし「悲しんでいる場合ではない」と彼女は考え続ける。

 なにか方法はないかと。

 そして、何かに気づいた顔になり、徐々に厳しい顔になり呟いた。


「・・・・・・・・一つだけあった」


 シンシアはユインを寝かすと。

 胸の前で手を組んだ。

 そして、膝を着き、祈った。


「〖神降しコーリング・ゴッド〗」


 その言葉と共に、シンシアは自分の魂が軋んだのを感じた。


 シンシアを、この世のどんな白よりも白い光が照らした。

 やがて降臨する、目の前に在るのに途方もなく遠くに在るように感じる存在。

 慈悲の表情を湛えた、白き女性。

 シンシアは顔をゆっくりと挙げ、呟いた。


「神よ」


 神と呼ばれた女性は、ゆっくりとうなずく。


「神よ、我が魂を代償に、願いを聞き届け給え。この者を蘇らせたまえ」


 しかし神と呼ばれた女性は、静かに首を振った。


「・・・・神でも、人を蘇らせることは不可能なのですか!? ・・・・」


 女神からは返事はなかった。

 「肯定なのだろうか」と、シンシアは一瞬思う。

 だが違うと感じた。

 肯定でも否定でもないのではないかと。

 生き返らせる事はできない。

 だが方法は有るのだと。


「・・・・では、この者の記憶を引き継ぎ転生させる事は!!」

 

 白き女性は肯く。

 だが悲しそうな顔になる。


「はい!! 摂理が何から出来ているかは知っています、この願いが摂理を歪めることも――ならば、この私の魂を使って下さい!!」


 白き女性は瞑目する。


 そして、


『よいのですね』


 温かいが、哀しい声が響いた。


 シンシアは、悲しみを湛えた慈悲なる瞳を見て、しっかりと頷いた。


 すると女神は目をとじた。

 そしてユインの体から何かをすくい上げる仕草をして、そのまま天に昇っていった。


 光が消える。


 圧倒的存在を感じて中に入れなかったヷーズが、やっとの思いで広間の扉を開くと、そこには横たわるユインと、シンシアのローブだけが残されていた。

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